金正恩の自己批判の陥穽


金正恩が最も期待するのは韓国の政治権力の変化によって韓国の‘前扉’が大きく開かれることだ。

 

文化日報2017年1月3日付コラム


黄晟準(文化日報論説委員)
(2017.1.10)

 

 今年も北韓の新年辞が発表された。金正恩は1日午後12時30分、北韓TVを通じて肉声で発表した。北韓の新年辞は1946年1月1日0時、平壌鐘打鐘行事の後、金日成が‘新年を迎えて全人民に告ぐ’というタイトルで演説したのが始まりだ。その後、金日成の新年辞は毎年、肉声放送と‘労働新聞’の1面を通じて発表された。ところが、金日成が死んだ後1995年からは肉声演説が消え、金正日が直接監修したという‘共同社説’を党機関紙の‘労働新聞’と軍機関紙の‘朝鮮人民軍’などに共同掲載する形に変わった。そして2013年から金正恩が再び肉声放送を再開した。


 北韓では新年辞が発表されると各級党組織はもちろん、学校や職場で講読会を組織するなど、その内容を徹底して熟知させる。熱誠党員なら暗唱せねばならない。そのため、文句一つ一つが北韓社会に与える重要性は格別だ。ところで、今年の金正恩の新年辞には以前なら想像もし難い表現が登場した。“いつも心だけで能力がついて行けないもどかしさと自責の中に、昨年の一年を送ったが、今年はもっと奮発し全心全力で人民のためさらに多くの仕事を見つける決心をするようになります”と金正恩が表明したのだ。


 このような‘自己批判’は今までの成果不振の非難を緩和させ人民を重視するという人間的な面貌を見せることで大衆的基盤を広めようとする意図であるとも分析できる。しかし、これは金日成-金正日-金正恩の3代‘神の家族(神聖家族)’の中核教義(敎理)である‘首領の無誤謬’を自ら否定したと住民たちに受け止められ兼ねないという点に注目せねばならない。


 政治権力維持の3大要素は合法性(legitimacy)と補償(reward)と強制力(force)だ。北韓体制が多くの矛盾にもかかわらず今まで持ちこたえることができたのは、それなりにこの3つの要素を備えていたからだ。だが、補償はすでにずいぶん前に崩れてしまった。今年の新年辞で経済発展5カ年戦略を述べたが、具体的数値や内容を提示していない。


 いや、北韓住民の衣食住を保障した配給制は土台から崩壊した。北韓が今、食糧難をある程度乗り越えたのはまったく市場のおかげだ。そして今、合法性の土台も揺らぎ始まるのだ。神話をもって構成された北韓体制は、国民主権を基盤にした自由民主体制とは違う。そのため金正恩は生母である高英姫の名前も公開できないのだ。在日僑胞出身で金正日の正室ではなかったと堂々と言えないのだ。


 結局、もはや北韓体制に残ったのは強制力だけだ。太永浩公使の表現を借りれば‘先行恐怖統治’だ。もちろん、金正恩も信じるところがないわけではない。今回の新年辞でも述べたように、金正恩は核とミサイルを放棄しない。いや、“大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験準備事業が最終段階”と言っている。また、米・中の対立構図が激化する兆しが見え始めるなど、国際情勢が有利になると判断するだろう。だが、金正恩が最も期待するのは韓国の政治権力の変化によって韓国の‘前扉’が大きく開かれることだ。


www.munhwa.com/news 2017-01-03

更新日:2022年6月24日