‘無理な弾劾訴追’を痛歎する!

 

形式は弾劾だが実際は民衆革命だ。

 

金平祐(弁護士・元大韓弁護士協会会長)

(2016.12.8)

 

 国会で弾劾が可決されるとボールは弾劾裁判所、つまり憲法裁判所に移る。裁判が始まるのだ。裁判の過程は司法手続きであるため国会のように適当に秘密にやれない。数ヶ月間の退屈な法廷攻防が続く。ところが、革命の味を味わった市民たちが果たしてこの退屈な法廷攻防を静かに見守って待ってくれるだろうか。おそらく、彼らは街頭に出て弾劾支持のロウソク示威を続け、1000万人署名運動で憲法裁判官を圧迫するだろう。さらに憂慮されるのは憲法裁判所が弾劾訴追を棄却したとき、過去の盧武鉉大統領のときのように人々が承服するかどうかだ。承服しないならその次は何か。非常戒嚴か、それとも狂乱の流血革命か。


 メディアの報道によると12月9日、国会が朴槿恵大統領の弾劾訴追を決議するという。もし、朴槿恵大統領弾劾訴追案が国会を通れば、韓国は世界政治史にいくつかの不名誉な記録を残す。


 第一、そもそも大統領の弾劾は選挙で選ばれた大統領を国会が追い出す非民主的制度だ。100年に一度あるかどうかの政治的異変だ。ところが、韓国は2004年に盧武鉉大統領弾劾し、また大統領を弾劾する珍しい記録をたてることになる。


 第二、韓国は1948年の建国以来、11人の大統領のうち2人が弾劾訴追されて米国と並ぶ最多大統領彈劾国になる。大統領弾劾制度を創始した米国は、240年の憲政史でアンドリュー・ジャクソンとビル・クリントンの二人の大統領が弾劾訴追された。


 第三、今回の弾劾訴追が追加されると、韓国は建国以来、11人の大統領のうち下野3人(李承晩、尹普善、崔圭夏)、暗殺1人(朴正煕)、自殺1人(盧武鉉)、拘束2人(全斗煥、盧泰愚)、弾劾訴追2人(盧武鉉、朴槿恵)で計8人が受難に遭うことになるが、これは世界で最も高い大統領事故率国家として従来の記録を更新することになる。


 第四、今回の弾劾は弾劾事由を適示するため国会が特検を設置してから数日も経たず特検の調査結果を待たず、弾劾訴追をする、それこそ順序が完全に逆の奇怪な弾劾だ。では、特検はなぜ設置したのか。国会がこのように追われているかのように弾劾せねばならない何かの理由があるか。


 第五、今回の弾劾は、国会の弾劾議論過程が公開されず極秘に進められた。一般刑事事件で言えば、秘密捜査だ。大統領弾劾は国民が選挙で選んだ大統領を国会が追い出す政變であり、国民の選挙結果を覆す高度の政治事件であるため、一般刑事事件とはその性質が全く違う。国会の議論過程が国民に公開されねばならない。秘密議論は秘密裁判と同じだ。米国ではメディアが国会の弾劾議論の過程を報道して国民が自らの意見を十分国会議員に事前に伝えられるようにする。


 第六、大統領の腐敗や失政に対する不満の表示として国民が街頭示威で大統領の追放を要求するのは、通常、後進独裁国家でのことだ(フィリピンの市民革命、中東の春が代表的な例)。そういう国々では、野党が大統領の腐敗や失政を牽制できないため、やむを得ず国民が街頭に出るのだ。ところが、韓国は1987年以来、大統領単任制が施行されて大統領の独裁はありえない。さらに、今年の4月の総選挙で野党が過半数を占めており、大統領は任期末に入った。そのようなレイムダックの大統領に対して巨大野党が特検を推進し、示威隊を扇動して挙句は弾劾までするとは。世界の歴史にない奇妙なことではないかと思う。


 第七、通常、大統領と十数年も同じ党で政治をした人々は、大統領が弾劾攻撃を受ければ特別な事由がない限り弾劾攻勢を阻止するため奮発する。盧武鉉大統領の時も与党のヨルリンウリ党は団結して弾劾阻止に取り組んだ。だが、今回の弾劾は与党議員の多くが野党の弾劾主張に同調、連合した。まるで敵の奇襲攻撃を受けて危機に陥った味方の司令官を捨てて素早く敵軍に加担した反逆将校たちのようだ。政治家たちこのような破廉恥な裏切りは韓国の政治家の情けない政治レベルを世界万国に知らせる行為だ。


 今回の弾劾は言葉では弾劾というものの実際は弾劾でない。メディアが2カ月ほど報道した大統領側近の崔順実の不正に激怒したメディア、野党、市民が大統領の下野を要求し、大統領が下野を拒否するや代わりに弾劾するものだ。結局、形は弾劾だが実際は民衆革命だ。韓国は1987年以来、単任制の大統領制が施行されて与野党の間で平和的な政権交代が行われ、アジアでは民主主義が安着た先進国と評価されたが、今回の事件で韓国は民衆革命が起き憲政秩序が崩れた不思議な国と記録される。いずれにせよ、国会での弾劾が可決されると、ボールは弾劾裁判所、つまり憲法裁判所に移る。裁判が始まるのだ。裁判過程は司法手続きであるため、国会のように適当に秘密にやれない。数ヶ月間の退屈な法廷攻防が続く。


 ところが、革命の味を味わった市民たちが果たしてこの退屈な法廷攻防を静かに見守って待ってくれるだろうか。おそらく、彼らは街頭に出て弾劾支持のロウソク示威を続け、1000万人署名運動で憲法裁判官を圧迫するだろう。さらに憂慮されるのは憲法裁判所が弾劾訴追を棄却したとき、過去の盧武鉉大統領のときのように人々が承服するかどうかだ。承服しないならその次は何か。非常戒嚴か、それとも狂乱の流血革命か。


 このように大韓民国の歴史は繰り返されるのか。悲しい。メディアと市民が大統領の側近の不正という極めて通常的な問題に対して興奮せず、もっと落ち着いて対応し、来年12月の大統領選挙まで待って投票で決めることはできないのか。また当然、そのように解決すべき問題をこのように革命的方法で国を覆す騒ぎをするとは。


 無責任な言論、政治家、ロウソク示威隊が嘆かわしい。いや、彼らをきょとんとして眺めているだけの無能で卑怯なこの国の指導層が嘆かわしい。これが結局、われわれのレベルで発展の限界なのか!


 2016年12月6日、金平祐(韓国・米国弁護士、大韓弁護士協会会長、2012年からUCLA訪問教授)


www.chogabje.com 2016-12-07 10:15

更新日:2022年6月24日