北爆は可能だろうか


韓国に残された選択はドローン(drone)作戦であれ、‘情報爆弾’の北韓全域投下であれ、金正恩政権の終熄を決行することだ。

金成昱(社)韓国自由連合代表

(2016.9.23)


1.北爆は可能だろうか。言い出したのは米国の元合同参謀議長のマイケル・マレンだ。


 “もし、北韓が米国を攻撃できる能力に非常に接近して米国を威嚇するなら、自衛の側面で北韓を予防的に打撃することができる。理論的に(ミサイル)発射台や過去の発射地点を除去できる。北韓は米国を攻撃できるほど核弾頭を小型化した。挑発のレベルが限界を超えた。予防打撃は多様な潜在的オプションの一つだが、金正恩がどう出るのかにかかかった問題だ。”


 マイケル・マレン(Michael Mullen)元米合同参謀議長が9月16日(現地時間)、米外交問題評議会(CFR)が主催した討論会での発言だ。マレンの発言は‘先制攻撃(preemptive strike)’つまり‘敵の攻撃が差し迫ったという判断の下、先に撃つ’ことからさらに一歩進んだ‘予防攻撃(preventive strike)’だ。敵の脅威の能力を事前に除去する攻撃だ。


2.北爆が現実となれば、その対象は北韓の核ミサイル基地と核兵器の使用決定を下す北韓指揮部だ。韓米連合軍は昨年、平壌にある金正恩の執務室と軍指揮部、核・ミサイル関連の主な施設などの合同攻撃目標(JDPI)700カ所を指定したことがある。ところが、北爆には難関がある。

 ▲先制攻撃であれ予防攻撃であれ、核施設を正確に探知するのが難しい。北韓は寧辺の核施設のほか、ウラン濃縮施設を複数の所で密かに運用中だ。▲北韓が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や移動式発射台から奇襲発射するのも正確な探知が難しい。▲地下坑道など、数多くの地域に分散された核施設を一度に除去しなければ北韓の報復を避け難い。▲現実性のあるオプションは金正恩の動きを把握してドローン(drone)で爆撃(暗殺)することだ。たが、米国が主導するこれらの爆撃は、国内外の世論と韓国内の反対を呼び兼ねない。政治的な負担を伴う。


3.マイケル・マレンの発言も北爆を本当にするということではない。彼の発言は、彼とサムナン前上院議員が団長を務め、北韓問題専門家17人が超党派的に参加したCFR討論会(‘A Sharper Choice on North Korea:北韓に対する明確な選択- 安定した北東アジアのために中国を参加させる’報告書発表会)で発表されたもので、報告書の要旨は北韓との協商と中国の参与だ。


 北韓に‘ニンジン’と‘ムチ’を同時に提示して協商テーブルに復帰させるというもので、‘にんじん’は、過去に提案されたものよりはるかに甘い6つの勧告事項として具体化した。北韓がこのすべてのニンジンを拒否し続ければ撃つという話で、“北韓が米国を攻撃できる能力に非常に接近し”“米国を威嚇し”“自衛の側面で”など、いくつかの条件が満たされる場合打撃できるという一つの可能性提示にすぎない。6つの勧告が失敗した後に検討する事案として取り上げられたものだ。いざ、報告書には‘予防攻撃’はもちろん、‘先制攻撃’という表現もない。


4.北爆に対する米国の懐疑的見方は米国の世論を反映したものだ。米国のGFKカスタムリサーチが2015年10月に大人2334人を対象に行った世論調査の結果によれば、‘北韓が韓国を侵攻すれば米国が武力を使うべきか’という質問に反対が49%で贊成47%を上回った。米国のピューリサーチが今年5月5日に発表した世論調査によると、対外問題に対する米国の介入を選好する米国人は37%に過ぎず、57%が不介入(知らないと無応答6%)を望んだという。このような調査結果は、1970年代から2000年代初頭の同じ調査の不介入を選好率が30%水準にとどまっものと比較すると大幅に増えた数値だ。


 これは米国社会が‘米国優先主義’などの雰囲気が高潮して伝統的な孤立主義に回帰し、韓半島で戦争が起きても介入する必要がないという世論も形成されるものと見られる。北韓が6回目の核実験を強行し核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイルを実戦配備すれば、米国人たちの韓半島事態への不介入の世論はさらに力を得るだろう。北韓がICBMにワシントンとニューヨークなどの大都市を目標とすれば、米国の大統領も北韓の軍事的挑発に対する即時介入をためらうしかないためだ。


5.CFRの報告書の骨子は、介入でなく不介入、協商と妥協の方だ。具体的な協商案も以前よりもっと譲歩したものだ。報告書は、協商の再開のため北側に要求する事項として、①2005年の9・19共同声明を再確認し、②段階別の行動措置、つまり北韓の漸進的態度の変化、③核兵器と弾道ミサイルの実験中止(モラトリアム)を提示する。その見返りとして、韓米は、①食糧支援、②韓米軍事訓練の規模と内容を修正する案も検討できると提案する。


 その後、本協商では‘プルトニウム再処理とウラン濃縮の中断’と‘核凍結検証のための国際原子力機関(IAEA)査察団の入国’などを交換することを勧める。続いて‘北韓の非核化と人権改善’と‘平和協定締結と米北の関係正常化’の交換を勧める。要するに‘段階別協商’と‘分厚い補償’を通じて非核化をなすべきだという内容だが、その過程で食糧支援と韓米軍事訓練の縮小、結局は平和協定の締結と米北関係正常化もあり得ると指摘している。


6.CFRの報告書の内容は、韓米両国政府が固守してきた6者会談の再開の前提条件を大幅に譲歩したものだ。協商再開の条件が‘核凍結’、本協商は‘完全かつ検証可能な非核化’を目標にした今までの立場から後退した。特に、‘核実験中断’と‘韓米軍事訓練中断’の交換、さらに‘非核化’と‘平和協定の締結および米・北関係正常化’の交換など、北韓主張を相当部分受け入れた。北核の現実的な廃棄が困難な状況になったたから、北韓をなだめて核兵器の拡散でも止めようというものだ。問題は、その結果が、韓米同盟の事実上の解体、つまり、金正恩の韓半島核ゲームでの勝利を意味することだ。


 報告書はまた、“中国の参加を促すため、韓米政府は韓半島の統一が中国の利益を侵害しないことを中国に確認すべきだ”と言い3者会談、あるいは5者会談の形で、韓半島の未来に対する計画を中国と一緒に作るべきだと勧めた。特に、この議論で、韓半島の統一のため米国に包囲され得るという中国の懸念を払拭させるため、韓米当局が北韓の脅威減少に相当する在韓米軍削減案を検討し得ると報告書は提案した。これは韓半島問題からしばらく米国が手を引くという趣旨として解釈し得る。


 報告書が対北制裁に言及したのは事実だ。北韓が以上の破格の提案を拒否し、人権問題で進展が見られない場合は、UN加盟国の資格を停止することと、北韓の海外労働者派遣を規制することなど、もっと強力な対北制裁案を講じるというものだ。この甘いCFR提案が米国の現実的な政策になれば北韓は応じると思われる。時間を稼ぎながら食糧支援と韓米軍事訓練中止、さらに平和協定まで得られるからだ。

7.北韓は5回目の核実験後、非常に鼓舞されている。最高人民会議常任委員長の金永南は9月17日(現地時間)、ベネズエラで開幕した第17回非同盟首脳会議での演説で、米国に対して、‘対北敵対視政策’の撤回と平和協定締結を要求した。彼は5回目の核実験について“自衛的国防力の強化と平和的宇宙開発”、“米国と敵対勢力の脅威と制裁騒動に対する実際的対応措置で、われわれを刺激すれば反撃準備ができているというわが党と人民の超強硬意志の誇示”と述べた。


8.1994年の核危機の時が‘北爆’の可能性が現実的に最も高かった。当時、北韓は核爆弾もなく寧辺の核施設さえ除去したら北韓の核も解決できた。中国が今のように強くなかったし、ロシアのエリツィン政府は親米だった。20年以上続いた協商で、今は禁止線を超え、北爆が現実となる確率はさらに低くなった。鍵を握っている米国も変わった。


 韓国に残された選択はドローン(drone)作戦であれ、‘情報爆弾’の北韓全域投下であれ、金正恩政権の終熄を決行することだ。また、北韓の核挑発を阻止する自衛の核武装で立ち向かうことだ。すべてが駄目なら、唯一の血路は悔い改めて神様に祈り、北韓政権の自爆を待つことだ。


http://lebertyherald.co.kr 2016-09-22 00:10

更新日:2022年6月24日