米国社会で提起されている韓国の安保無賃乗車論と共和党大統領候補トランプの韓半島政策

李春根

(2016.5.13)

 

はじめに


 最近、米国共和党の大統領候補の先頭を走るトランプ候補が米国の韓半島政策に対して衝撃的な言及をした。もちろん、まだ政策として精巧に完成されたものではないが、トランプの主張は次のように要約することができよう。


 第一、韓国はかなりの富国であるにもかかわらず、防衛費分担にけちだ。防衛費分担金を大幅に増やせねばならない。


 第二、ところで、もし韓国が防衛費分担金の増額に躊躇すれば在韓米軍は撤退すべきだ。


 第三、韓国が核武装することを米国が引き止める必要がない。


 以上のような言及に対してほとんどの韓国メディアや米国メディアの一部は暴論だと非難し卑下するコメントをしている。韓国人の中には特にトランプ候補を精神異常者のように卑下する場合もある。韓国メディアのほとんどがトランプを米国の政治に現れた非正常な候補と見ている。


 ところが、筆者は米国で起きているトランプ現象を非正常な事件として見るべきではないと思う。トランプは現実に米国共和党の大統領候補のうち1位を走っている候補で、米国国民の相当数がトランプの主張を支持する。一般市民だけではない。トランプの韓半島政策に関する主張は、米国社会の一角で専門家たちによってすでに提起されていた問題を積極的に公論化したものと見るべきだ。


 トランプ候補が次期米大統領に当選する可能性を正確に知る術はないが、米国の大統領選挙を研究した学者たちの中にはトランプ候補の当選確率を95%以上と予測する学者もいるのが現実であるため、米国の対外政策によって深刻な影響を受ける韓国としてはトランプの主張が出る背景と現実化の可能性などに備えるのが賢明だろう。


 米国大統領候補の公約と韓米同盟の衝撃変化の事例


 まず、トランプは大統領選挙期間中、韓米同盟の本質を変える言及をした最初の候補でない事実を認識する必要がある。


 1951年の大統領選挙のとき、共和党のアイゼンハワー候補は韓国戦争を終息させるという公約を掲げ、1975年に民主党のカーター候補は在韓米軍の全面撤収を公約とした。アイゼンハワーとカーターは大統領に当選されてから自分の約束を履行した。韓国は統一を成し遂げたかったが、アイゼンハワーは戦争を早く終わらせたかった。

 カーターも大統領に当選した後、在韓米軍撤収政策を推進した。彼の政策は在韓米軍を駐留させることで朴正煕大統領の独裁を支援するわけにはいかないという非現実的なもので、韓半島の状況と世界の政治状況を無視したものだった。


 道徳論者のカーターは、朴正煕大統領の独裁は強く非難しながら、金日成の超独裁に対してはむしろ擁護、庇護した点でカーターの政策はまさにでたらめと言うしかない。彼が最も準備されなかった大統領だったと言われる理由がここにある。


 カーターの駐韓米軍撤退政策は結局、失敗に終わったが、カーターの政策は当時の韓国政府と国民を苦しめた事実は否定できない。


 カーター以降も駐韓米軍の撤退問題、韓米同盟に紆余曲折がなかったわけではないが、それは米国の政策のためではなく、金大中や盧武鉉政府など韓国政府の政策とスタイルに由来した。


 特に盧武鉉政府のとき、韓米同盟は危険なレベルにまで悪化した。だが、盧武鉉政府が取り戻すことにした戦時作戦統制権が二度も延期されるなど、韓米同盟は東西冷戦後も大きく変わらなかった。東西冷戦後、米国の大統領たちは韓米同盟の価値を大いに評価し韓米同盟に衝撃的な変化は生じなかった。


 トランプの韓半島政策は米国社会一角の見解を反映するもの


 トランプの韓国関連発言は確定された政策と見るには、まだ論理的に非常にずさんだ。トランプは、米国の軍事力が今非常に弱体化された状態と見ており、米国の軍事力をどの国も挑戦できないほど強化させると宣言した。彼は、米国の軍事力が圧倒的に強ければ、敵は敢えて挑戦できないはずだと言う。


 そのような強大な軍事力の建設を強調するトランプが、全世界の隅々に駐留している米軍を本土に撤退させるというのは自ら矛盾する言及であるからだ。


 それにもかかわらず、われわれはトランプの言及を軽く見てはならない深刻な理由がある。まず、在韓・在日米軍の撤退やサウジアラビアへの支援中止は、トランプやトランプ選挙キャンプだけの発想ではないという事実を知るべきだ。


 米国の一流政治学者やアナリストの中にトランプと同様の言及をした人は少なくない。例として、シカゴ大学のミオセイモ(John J. Mearsheimer)教授は、“もし中国がこれ以上浮上できない場合”という条件は付けたもののその場合、米国はアジア駐留米軍を撤退させることになるだろうと述べた。そして、彼はその場合、韓国は核武装を考慮すべきだと言った。


 脈絡は少し違うが、ブレジンスキー博士も、もし米国が韓国を助けなくなる状況が来たら、韓国はいくつかの選択肢の一つとして核武装を考慮すべきだと言って久しい。


 ソ連という大敵が倒れ中国という新しい対抗勢力が登場したが、米国の専門家たちの多くは、中国は旧ソ連ほどの強大な国になると見ていない。つまり、米国の覇権が長く続くと思う学者たちが相当存在するが、彼らの共通の主張がまさに駐韓米軍、在日米軍、駐独米軍などの戦略的価値を以前のように高く評価しないということだ。


 2014年の夏以降、米国はエネルギー革命を通じてさらに強力な国家として生まれ変わりつつある。米国は以前から食糧を自給してきたが、間もなく石油も自給する国になる。過去のように国際問題に深く関与しいなくても良い状況が到来しつつある。


 石油の自給、地政学的有利などで、米国が再び圧倒的な覇権国となっていることを分析したピーター・ジェイハン(Peter Zeihan)は、“米国はもはや韓国の休戦線、ドイツのチャーリー検問所を守る必要がない”と言う。


 イアン・ブレマー(Ian Bremer)も、米国は今後も長い間、唯一の覇権国であるだろうと言った後、米国はこれ以上国際問題に介入せず米国のための独立的な外交政策を展開すべきだと主張している。彼は米国民の中で米国が冷戦時代のように世界問題に積極的に介入しなければならないと考える人は28%に過ぎない事実を強調する。


 韓国に対して非常に批判的なドグ・バンドウ(Doug Bandow)は、韓国を‘ただ乗り’する国、良い福祉政策を自慢するが安保には神経を使わない国と非難し、米国の韓国安保支援をやめるべきだと主張している。トランプの見解は風変りな政治家一人の考えでない。そう考えている学者たちが増えており、特に米国民の70%以上が孤立主義的対外政策を支持している状況だ。


 米国に孤立主義が復活?


 2008年の経済危機を予想よりも早く克服し、米国経済をもっと丈夫にする機会とした米国は、製造業の復活、ドル覇権の確立、エネルギーの自給など途方もない好材を楽しんでいる。


 一方、米国に代わる強大国のように見えた中国は、経済成長率の急速な低下、人口統計学的な問題、国内政治の不安定問題など、成長が低下している。


 米国は当分の間、挑戦者のない唯一覇権国の地位を享受すると予見する人が増えている。同時に、米国の外交政策が変わらなければならないという声も高くなっている。米国に挑戦する敵がない世界で、米国がこれ以上従来の介入政策を固守する必要がないということだ。


 米国の存在を脅かせる敵がもはや世界のどこにもないのに、なぜ米国が冷戦時代のように全世界の隅々に軍事介入するのかという反論が出るのがむしろ自然なほどだ。

 オバマ大統領は、自分の中東政策が積極的でないという批判に対して“率直に言って中東への関心が減った”と告白する。2020年には石油を自給するようになる米国が中東問題に熱をあげる必要がない。サウジアラビアを護る必要もなくなった。オバマ大統領も英国が国防費をGDPの2%以上に上げないと米国との特別な関係を維持できないと言い、英国も安保を無賃乗車する国だと非難するほどだ。


 結局、韓国に防衛分担金をもっと払うようにするという主張、韓国が応じないと米軍を撤収させるという言及、韓国の核武装を許すという言及は、昨今形成されている世界的戦略構図から見れば大いに間違った話ではない。


 米国は現在、もはや国際的勢力均衡に気を使わなくても良いほど圧倒的な地位を享受しているため、日本とドイツまでも護らなくても良いほど余裕のある状況なのだ。


 東西冷戦時代にはあえて言い出せなかった話が駐日・駐独米軍の撤収論だった。東西冷戦の最中には、ドイツと日本がソ連陣営に加われば、米国はソ連との競争で勝てなかったはずだ。だが、現在、米国が占めている圧倒的優位を脅かせる、国際的な力の構造変動を可能にするライバル国は、中国を含めてないと見られる。


 韓国の対策


 韓国のメディアや知識人たちがいつもそうだったように、今回も分析と対策樹立という作業なしに、トランプに対する非難ばかりに汲々としている。トランプは米国国民の相当数が支持することを選んで言う人だ。だから政治の新米であるにもかかわらず、共和党候補の先頭を走っているのだ。


 状況を分析し備えなければならない。


 韓米同盟が韓国の安保に本当に重要だと考えるなら、われわれは韓米同盟を維持するための方策を講じなければならない。トランプが米国大統領になる状況にも備えなければならない。


 究極的にはわれわれの力で国を護らねばならないが、韓米同盟を維持することはわが国の安保政策に決定的に有利なことであるという事実は明白だ。


 *この文は月刊『自由広場』5月号に掲載されたものです。
http://blog.naver.com/choonkunlee 2016.04.23 09:50

更新日:2022年6月24日