金正恩の朝鮮労働党第7次党大会での「総括報告」に対する総括

-暴圧体制強化と核保有国地位固守を宣言した金正恩-

(2016.5.13)

 

 朝鮮労働党は今回の第7次党大会で金正恩を労働党の首位(党中央委員会委員長)に推戴した。つまり、3代世襲独裁の「戴冠式」が行われたのだ。というのは、北韓憲法の第11条は「朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮労働党の領導のもとにすべての活動を行う」と規定し、この労働党を首領が支配する体制であるためだ。これによって、金正恩は父・金正日の先軍政治を党支配体制へと正式に復元させるとともに、自分の統治体制を強化するための党の世代交代をこれから推進するはずだ。

 

 金正恩は二日間にかけて党中央委員会の総括報告を行った。共産党の特徴である冗長な総括報告は、① 主体思想と先軍政治の偉大な勝利、② 社会主義偉業の完成のために、③ 祖国の自主的統一のために、④ 世界の自主化のために、⑤ 党の強化発展のために、という5つの章で構成された。

 

 金正恩は第1章で、朝鮮労働党が去る36年間なし遂げた特出した成果は、最高司令官の唯一的先軍領導体系と先軍革命路線と自衛の軍事路線によって不敗の軍事強国に強化、発展されたことだと総括した。「首領様のやり方で」領導した結果、首領と党と大衆が一つとなり、「過去数十年間も戦争の砲声が一度も鳴らず、平和で安定した暮らしを享受してきた」のは、先軍革命路線と先軍政治によってできた主体国防工業(核やミサイルなど)のおかげだと強調した。

 

 これこそとんでもない詭弁だ。砲声もなかったのに、なぜ「6.25戦争」のときの南北韓の犠牲者の数よりもはるかに多くの北韓住民が餓死し、住民の体が矮小になって寿命が短縮されたのか。どうして脱北住民の数が延べで6.25戦争を前後して北から脱出して南に来た人々の数より多く、今も多くの脱北者が中国で奴隷のような悲惨な状態に置かれているか。韓半島の歴史上かつてなかった「搾取と恐怖」の状況を「平和で安定した暮らし」と表現するのは、人民の感情はもちろん、記憶まで支配、改造できると信じる、戦慄すべき全体主義暴政の下でのみあり得ることだ。それでも、社会主義制度の自慢だった「食料配給制度」が中断・廃止された結果に対して堂々と説明・謝罪せず、「苦難の行軍」の一言で済ませるのは鉄面皮とそのものだ。

日本から平壤へ行って暴君・金正恩の戴冠式で祝賀文と祝旗を捧げる朝総連代表団

 報告の分量から見れば、体制維持の取り締まりを強調した第2章(社会主義偉業の完成のために)が今回の党大会の総括報告の中で最も核心的部分だ。金正恩は、党に忠実な革命的武装力である「人民内務軍」が首領保衛、制度保衛、人民保衛の使命と任務を立派に果たしたと賞賛し、「階級の敵らと敵対分子の蠢動を萌芽段階で無慈悲に踏み躙らねばなりません」と督励した。

 

 金正恩は「全社会の金日成・金正日主義化は、わが党の最高綱領です」と強調し、これは「社会の全構成員を真の金日成・金正日主義者として育て政治と軍事、経済と文化をはじめとするすべての分野を金日成・金正日主義の要求通り改造して人民大衆の自主性を完全に実現していくことを意味します」と報告した。政治・思想はもちろん、物質的、文化的な支配を超えて、人間の感情まで改造することを宣言しているわけだ。

 

 第3章(祖国の自主的統一のために)と第4章(世界の自主化のために)は、今回の党大会に対する内外の関心と、公開される「総括報告」が及ぼす影響やプロパガンダ効果を考慮した欺瞞策に過ぎない。第3章は、対南戦術・戦略や工作指針を総合したものだ。金正恩は「7.4(共同声明)、6.15(共同宣言)、10.4(共同声明)は、誰にも一方的に否定したり無視する権利はない」と強弁した。そして「南朝鮮当局が千万不当な『制度統一』にこだわれば、我々は正義の統一大戦を通じて反統一勢力を無慈悲に一掃する」と宣言している。

 

 しかし、憎むべきことに、金日成と金正日時代に署名された南北間のすべての「合意」の破棄を何度も宣言したのは金正恩自身で、特に南北間の「韓半島の非核化合意」を白紙化し、憲法にまで核保有国であることを明示し、米国を攻撃できる核ミサイルの実戦配備を自慢しているのも金正恩時代になってからのことだ。

 

 国際情勢と国際関係に言及した第4章で金正恩は、米国の反テロ戦争を「新しい変種の侵略戦争策動」と規定し、米帝が「世界の自主化偉業」の主打撃対象であると明示した。そして、「自主の強国、核保有国の地位にふさわしく対外関係の発展において新しい章を開いていかなければなりなめん」、「核武力を質的・量的にさらに強化していく」と宣言している。つまり、第7回党大会総括報告の対南・対外関係の内容が徹底的に扇動と詐欺策であることを自ら表している。(*この第3・4章は、金正恩や「金正恩の業績作り」のため対南挑発を企画・実行してきた党対南秘書の金英徹の荒っぽい性格がそのまま反映されている気がする)

 

 第5章で金正恩は「わが党は、党の組織的団結を破壊し、党中央の唯一的領導に挑戦する行為と要素らに反対して非妥協的な闘争を展開しました」、「特に、現代版の宗派分子を適時に断固として摘発、粛清したことで主体革命の命脈を堅固に固守し党の統一団結をさらに強固にしました」、「働き手たちの中で見られる勢道と官僚主義、不正腐敗行為との闘争を、それが根こそぎに一掃されるまで根強く続けて強度を強めて展開せねばなりません」、「金日成・金正日主義とその具現である党の政策の他にはいかなる思想も絶対に割り込めないようにしなければなりません」と結論を下し、引き続き容赦のない粛清を予告している。

 

 党大会の中央委総括報告の核心は核保有国としての地位を放棄しないということと、金日成・金正日主義を堅持することに要約される。ところで、総括報告は一見するだけでめちゃくちゃな洗脳・扇動に終始している。何よりも、総括報告の第1・2・5章の主張と、第3・4章の内容、つまり、全社会の金日成・金正日主義化および唯一領導体系と、民族大団結を云々する「祖国統一の原則」などは到底調和、共存できない、自己欺瞞で精神分裂症的な矛盾だ。

 

 金正恩は労働党を通してすべてのことを企画し、推進・監督していくと誓っているが、暴力と洗脳に基づいた「唯一指導体系」が住民を食べさせる食糧配給体制すら維持できなかったため首領の神話はすでに崩壊した。

 

 大韓民国は法治国家、北韓は全体主義世襲独裁体制だ。南北韓が和合し文明国に統一されるためには、まず国家の上に「君臨」する朝鮮労働党が解体されねばならない。統一とは結論的に朝鮮労働党を解体することだ。今回の党大会を通じて朝鮮労働党を解体するのに有用なその実態と端緒が把握されたと言えるのではないか。(2016.05.10)

更新日:2022年6月24日