韓国の新しい対北戦略

李春根

(2016. 4.22)

○最近、北韓側の核武装とミサイル発射に対する膺懲の一環として開城工団を暫定閉鎖した措置についてある弁護士が怒りながら書いた文を見ました。彼は“北韓の核を阻止できなかったのは米国なのに、韓国が経済的に被害を受けている”と主張しました。また、他の人は、米国と中国が北韓の核を止められなかったため、われわれ(韓国人)だけがひどい目に遭ったというふうに言っています。


 彼らは、米国と中国が北韓の核武装を阻止すべき責任があると考えているようですが、なぜ、米国と中国が北韓の核をわれわれよりも阻止する義務がありますか。北韓の核はわれわれには直接的かつ実存的脅威(existential threat)ですが、米国と中国も北韓の核を彼らの生存に関する脅威と考えているというのですか。そういう人々は、北韓が言う通り“北韓の核は韓国を護ってくれるもの”と勘違いしている人々です。


 このような認識と状況判断は国家戦略に対する無知と歪められた価値観、そして何よりも誰が敵なのかも区別できないことから始まったと思われます。韓国も一時主敵がないと主張した時がありました。主敵がないのにどうして適切な国家戦略が樹立できたでしょうか。ありえないことです。


 主敵のない軍事戦略は戦略的なナンセンスです(A Military Strategy without a specified enemy is a strategic nonsense)。主敵のない戦略は全世界と戦うという戦略、あるいは何とも戦わないという戦略になります。国家戦略のためには必ず主敵を明確に設定する必要があります。


○中国は韓国の戦略的パートナーではないと思います。経済的には良好な協力対象国として考慮し得ますが、国家戦略、特に安保戦略の次元では全く妥当と言えません。われわれ(韓国)の大戦略は統一をなし強い国を作ることです。中国は、韓国の統一と強大国になることに全く賛成しない国です。なのに、どうして両国が戦略的協力パートナーになると言えるのですか。


 米国と中国が戦うとき韓国がバランス戦略を追求すると言った政権もありましたが、まったく話にならないだけでなく、実践したら絶対にならない危険な言葉でした。


 われわれと米国は同盟関係です。なのに、どうして韓国が米国と中国の間で存在し、両国が衝突するとき均衡者の役割ができますか。そういう役割がしたいなら、まず、韓米同盟を廃棄すべきです。戦略的に米・中の間に存在したいという考えは非常に間違った考えです。均衡者になるためには、われわれが非同盟国にならねばなりません。誰とも同盟を結ばない国だけが均衡者の役割ができます。


○大韓民国の対北統一政策は政府が変わる度にいろんな形に変わりましたが、目的と方法を明確にした統一政策は、李承晩政府の‛北進統一’と朴正煕政府の‛滅共統一’程度しかありませんでした。李承晩と朴正煕大統領の対北政策は、統一の主体が自由民主主義体制の大韓民国であることを明確にし、統一の方法は、窮極的に北韓体制を除去することで可能であることを明記していました。北進、あるいは滅共を通じて北韓体制を大韓民国体制に変えることを明白にしていたという意味で、全国民が理解できる正しく分かりやすい統一政策でした。


 二つの体制が平和的に一つになるためには、一つが滅びるしか他の方法はありません。健康な二つの体制が一つになるためには、例外なく戦争という手段が動員されたことは、分裂と統合に関する国際政治を勉強した人なら誰でも分かっている歴史の真実です。


 朴正煕政府は北韓と戦争を通じての統一を手段として排除する代わりに‛平和統一’を目標としました。滅共統一が‛勝共統一’に変わったわけですが、それは北韓の敗北と没落を前提とする統一方案で、大韓民国が共産主義を圧倒し勝利することを前提としました。


 ところが、朴正煕大統領の後の大韓民国歴代政権は、普通の人々はいくら読んでも理解し難いいろんな統一方法を提示しました。(民族共同体統一方案など等)それらは統一を志向するものというより、むしろ‛分断を管理’する政策と言えました。南・北韓が共存しようというのと統一しようというのは本質的に異なるものです。


○朴槿恵大統領が2月16日、国会で演説したのは、国家安保が切迫な危機に直面した大韓民国が、北韓に核開発に専用できる一切の支援を断ち、さらに北韓政権をRegime Changeすることで安保問題を解決し統一問題に接近というParadigm Shiftと言える、新しい政策宣言でした。数十年ぶりに接した本物の統一政策と言えます。目標が設定されたからそれを達成する戦略が求められます。


 朴槿恵大統領は北韓を変化させると言いました。北韓の変化は、北韓の急所である金正恩政権のレジーム・チェンジを通して可能です。北韓の急所は北韓の軍事力でも、北韓住民でもなく、北韓の工場や産業でもありません。


 すべての独裁国家は独裁そのものがその国の急所で、米国は2000年代になってから急所打撃作戦を成功的に実行してきます。米国はこの新たな戦略に基づいてフセイン、ガダピ、オサマ・ビン・ラディンなどを次々除去しました。次は誰か。おそらく、北韓の金正恩でしょう。


 金正恩政権のレジーム・チェンジのためには韓米連合作戦が重要で、心理戦と軍事作戦が並行されねばなりません。もちろん、最良の方法は、独裁者のチョウセスクがルーマニア国民によって除去されたように、北韓住民たちによる金正恩政権の除去であるはずです。


 そのために、われわれは北韓政権と北韓住民を引き離す戦略、金正恩政権を支えている指揮部を亀裂させる戦略を推進せねばなりません。


○これまで国家戦略という観点で、誰が友達で誰が敵なのか、国際的に誰と親しく、誰と対決すべきかが分からず、混沌とした様子を見せたのは過ちで、韓国の国際的な立場を明確にせねばなりません。


○国家戦略の次元で臨むべきTHAAD配備に対する賛否を普通の国民たちに訊くか、世論によって決定しようとするのは間違ったアプローチです。国家安保は国家安保状況と戦略を十分に理解している専門家が取り扱わねばならない問題です。チャーチルは国民に平和を言いませんでした。代わりに、血と汗と涙を要求しました。指導者は国家安保のために国民に血と汗を要求し、その理由を明確に説明し説得しなければなりません。


 国家戦略と政策の専門家たちは、指導者が立派な戦略を樹立し実行できるように良いアイデアを開発し提供しなければなりません。


*‛新しい対北戦略’に関するシンポジウムでの筆者の討論でした。


http://blog.naver.com/choonkunlee 2016.03.13. 09:54

更新日:2022年6月24日