2016年の韓半島周辺の国際情勢展望
李春根
(2016. 1. 7)
1.はじめに
2016年を前に12月16日付の朝刊新聞で最も目についたのは“韓国経済、冬の歯が抜けた虎”という憂鬱な記事だった。経済問題よりわれわれをもっと心配させるのは、経済よりはるかに深刻で危険な国家安保問題だ。経済は豊かか貧しいかの問題だが、国家安保問題は生きるのか死ぬかの問題と関連するものだ。
わが国が2016年に直面する安保状況は2015年に劣らず深刻で困難なものと予想される。ここ数年間、悪い方向に進んできた国際安保問題らが好転せずさらに悪い状況に拍車をかけると思えるためだ。
近年の国家安保に否定的な国際情勢の趨勢は韓半島、韓半島の周辺、そして世界という3つの次元で分析してみることができる。本エッセイはこの3つの次元で悪化している安保イシューらが2016年にはどういう方向へ展開されるかを推論し、それによって韓半島の安保状況はどう変わるかに対する説明を提示する方式を取りたい。
2.韓半島次元の安保問題
大韓民国の国家安保に直接影響を及ぼす要因らはまず、北韓が惹き起こす安保脅威から導出される。北韓からの安保脅威は核爆弾の脅威と、北韓の政治および経済体制の不安から生じる脅威など、大きく二つに分けられる。核の脅威から論じてみる。
朴槿恵大統領が就任するちょうど2週間前の2013年2月13日断行された北韓の3回目の核実験は、北側の核爆弾が広島級威力を持つ爆弾だが、まだその大きさと重さのため北のミサイルには装着できない状態と判断された。当時、米国および西側の専門家たちは、‛放置した’場合、北韓は3年程度で‛完全な核兵器体系を整える’と予測した。北側はその後、ミサイルに装着可能な核爆弾を製造するためあらゆる努力を傾けてきた。2015年の夏出版された大韓民国国防白書は、北韓が核兵器体系を完成できる時点がさほど多く残されていないと述べた。
それでは北側は2016年中、実戦で使用できる水準の核兵器体系を配備できるということになる。北側がもし使用可能な核兵器体系を保有すれば、その日から韓半島の安保状況は今とは全然違ってくる。現在、大韓民国は北側が大規模の挑発をしてくる場合、韓米連合軍が北韓地域に進攻する作戦計画を持っている。この作戦計画は北側に破滅を覚悟していない限り戦争を挑発するなという抑制戦略だが、この戦略は北韓が核を保有していない状況を想定したものであるという点で限定的だ。北側が核戦争遂行能力を備えた後も、われわれが北側に対して大規模戦争をする覚悟ができるだろうか真剣に考えて見なければならない。
次は金正恩政権の脆弱性に関する問題だ。金正恩は2015年だけでも玄永哲大将を反革命分子と断罪して処刑し、金正恩執権以降相当期間第2人者だった崔竜海を処分(粛清)した。
12月には中国に派遣したモランボン楽団を1回も公演せず、平壌に呼び戻す荒唐な措置も取った。まったく見当がつかない金正恩政権は、いつでも断末魔的な武力挑発をする可能性が高い。
2015年8月‛木箱地雷事件’は、北側が大韓民国をテストしてみた事件だった。わが国防部は北側に責任者を処罰するよう要求し、応じないと過酷な代価を払うようにすると警告したが、北側は責任者を処罰も謝罪もしなかった。北側の‛遺憾表明’を韓国側が謝罪も同然と解釈するや、北韓当局は分かりやすい言葉で‛謝罪でない’と改めて表明した。
北側の色んな挑発に積極的に対応せねばならない大韓民国の2016年は、政治状況のため騒がしい一年になるだろう、4月の総選挙、総選挙後に大統領選挙局面への進入などは、北側の挑発に対して一糸乱れずの対応態勢を整えるのに有利な条件ではない。北側がこのような状況を利用して、4回目の核実験をするか、‛木箱地雷'攻撃とは比較できない大規模の挑発を敢行する可能性も排除できない。北側の挑発を事前に抑止せねばならず、挑発したら2015年の夏のように北側の思惑通りに状況が反転できないことを明確に悟らせねばならない。挑発を惹き起こした集団が勝手に状況を操って危機を免れることを許してはならない。
北側の挑発だけでなく、北韓政権の内的安定性問題も深刻だ。2015年の玄永哲処刑で見るように、第2人者など、高官たちを粛清し続けるのは金正恩政権の鞏固化の過程というより、金正恩政権の混乱が続いていることを示す。
内部的に不安定な政権はいつでも脱出口を外部から求める。北側の高強度の対南武力挑発と韓国内の左翼勢力による積極的な反政府闘争などに対して綿密な対応策を用意しておかねばならない。北側は特に、2016年4月の総選挙を控えている大韓民国に打撃を加える様々な方案を講じているはずだ。
3.韓半島周辺の国際情勢の悪化
韓半島周辺の国際政治状況はここ数年間、次第に悪い方向に進んできた。米国、日本、中国、そして東南アジア諸国間の緊張が高潮し続けてきたが、その原因は伝統的に戦争勃発の可能性が最も高い要因である領土問題に起因していることに留意せねばならない。中国は1978年に改革開放を断行して以来、貿易国として急浮上し、世界的な貿易国になった中国は本格的に海を意識している。
中国は自分の沖合のような東シナ海と南シナ海のほとんどを恰も自国領であるように主張し行動し始めた。中国はすでに1947年に南海9段線を西太平洋地域に引いておき、その線内の海である東シナ海、南シナ海および多数の島嶼の領有権を主張してきた。特に、中国は強大になりつつある海軍力を出動させており、最近はサンゴ礁や砂丘などに人工構造物を設置、これらの人工島を軍事基地化し始めるほどだ。
中国は平和的目的であるというが、戦闘機が離着陸できる滑走路などの軍事施設が建設されている現実を看過する国はない。中国は最近、人工島の周辺に12海里(約22km)の領海を宣言した。国際法上領海は領土と同じで、許可なく他国の船や飛行機が入れない。もちろん、中国のこのような主張は、人工島は領海と領空を持てないと規定した国際法に違反する。
当初は対話で南シナ海問題を解決しようとした米国は、オバマ-習近平会談(2015年9月)でも紛争解決が望めなくなるや、本格的な軍事的措置を取り始めた。米国は、中国が領海と宣言した水域に最新鋭のイージス艦を航海させ、中国が領海と宣言した水域の上空、つまり‛領空’にB-52爆撃機を飛行させるなど、本格的な軍事作戦態勢に転じている。中国の学者たちは、米国の爆撃機が自国の島の上を直接飛んだと抗弁する。2015年年末、豪州空軍機も自由航行の原則を固守するため中国が領海と宣言した水域を飛行した。
米国と中国の軍事行動は、ちょうど冷戦のとき米国とソ連の軍事力のチキンゲームを彷彿とさせる。安倍首相は、中国が宣言した領海に米国が軍艦を投入する作戦に日本の海上自衛隊の軍艦も投入できると言い、積極的意志を表明した。
中国に対抗して自由航行の原則を固守するため、米国と日本、フィリピン、ベトナム、オーストラリア、インドなどが連合戦線を形成して行っている西太平洋においての海洋紛争は、2015年半ば以降、さらに激化されている様子を見せ、2016年も緩和される兆しはあまり見られない。
韓国は原論的話をしているが、南シナ海での国際紛争が勃発する場合、韓国の貿易路は深刻な危険に直面する。国際政治学者たちは、貿易路を生命線とも呼ぶ。経たれるか、破壊されれば、国家の存続が危うくなるからだ。東シナ海での国際紛争は、韓国のように国際依存度(輸出総額と輸入総額の合計がGDPで占める割合)が100%に達する国は他人事のように傍観できない問題だ。国際法を恣意的に破っている中国のご機嫌を窺うのではなく、自由航行の原則を固守するため努力する国々の連合に積極的に加わるべきだと思う。
4.世界的次元での安全保障問題
世界的次元で見ても、韓国が直面した安保状況はあまり友好的でない。まず、去る11月13日パリで起きたテロ事件は、イスラムに基盤をおくテロ組織・ISISによる西側への宣戦布告と同じだ。米国、ロシア、中国などが繰り広げる世界的次元の覇権競争の構図も悪化する方向に進んでいる。2016年11月の米国の第45代大統領選挙は、世界政治を安定化させる役割を担うべき米国の関心を国内問題に没頭させるかも知れない。任期が終わるオバマ大統領が国際的な懸案解決にどれほど積極的に行動するか疑問だということだ。
パリでの大虐殺劇はヨーロッパの9・11と言えるほど残酷なものだった。イスラム大帝国の建設を最終目標とするISISは文字通り、イラクとシリアに相当の領土を掌握している‛国’だ。彼らはアルカイダをはるかに超える極悪非道な集団であるためオサマ・ビン・ラディンも一緒に連帯するのを拒否したテロ集団だ。ISISは既存のアラブ諸国を全部滅ぼしてイスラム大帝国を建設するという野心を持っているため、アラブの国々とも仇になって激しく戦っている。彼らはいま国家体制が虚弱なイラクとシリアを中心にしている、スンニ派所属の過激テロ分子たちだ。
米国は近年、本土で開発された無尽蔵のシェール石油のおかげで、夢見てきたエネルギー自給が可能になった状態になった米国は、いま中東問題に露骨に介入しなくても良い状況だ。米国はここ数年、中東のテロではなく中国の覇権挑戦を牽制することにもっと積極的な意志を見せていた。しかし、ISISの挑発が激化すれば結局、米国も反テロ戦争をまた強化させるはずだ。
韓国も国際テロリズムの攻撃対象の例外ではない。ISISテロ集団は去る12月に攻撃対象としている60カ国のリストを発表した。当然、韓国が含まれている。一部の論者たちが言うように韓国が米国の同盟であるためテロの標的になったという主張は妥当でない。
韓国がテロの対象となるのは“韓国が志向する価値がテロリストのそれと異なっているため”と言うのが妥当だ。ところが、韓国は反テロ法もない状況だ。ISISのテロがさらに猛威を奮うはずの2016年、韓国もテロを防止するための法的、軍事的安全装置を早急に整備せねばならない。
米国と中国の覇権葛藤もこれからさらに先鋭化する。そして、米国は韓国に戦略的選択を強いるはずだ。韓・米が同盟国である以上、米国の要求は当然だ。これまで、韓国は中国との経済関係を口実に躊躇する姿を見せた。安保と経済のどちらがもっと重要かを考えると、この問題はそれほど深刻に悩むべきイシューでもない。お金より健康が重要ではないか。
2016年が希望の年になって欲しい、それはわれわれが‛備え有れば患いなし’の心構えを持ってこそ可能なことだ。
⋆この記事は『軍事ジャーナル』2016年1月号に掲載されたものです。
http://blog.naver.com/choonkunlee/ 2016.01.01 19:28