大韓民国には国家戦略があるのか
19世紀末と同じ北東アジアの情勢
李春根
[本コラムの出所は「未来韓国」9月7日付です]
英国を米国に、ロシアを中国に置き換えれば、19世紀末の北東アジアと類似する国際政治状況
○米国が戦争で負けもせず中国に押されて2位になることは絶対にない
○日本の夢は米国の肩をもって中国を牽制することでアジアの覇者の地位を取り戻すこと
○米国はハワイとカリフォルニアなどに日本軍を招待して上陸作戦訓練をさせるほど
○安保は米国、経済は中国と緊密にするという「安米経中」は国際政治の基本を無視した荒唐な概念
中国の挑戦
中国は資本主義的発展を通じて経済的大国になると同時に政治・軍事的大国への道も追求している。経済力の総量で2001年に日本を抜いて世界2位の経済大国になった中国は露骨に米国がいま占めている国際的地位、つまり覇権的地位を獲得したいという意図を示し行動に出た。
中国が言う新型大国関係とは米国に中国の地位を認めよという要求で、中国海軍力の増強と南シナ海で示す覇権的行動は、中国が野心を実践する過程で避けられないことをやっているだけのことだ。
海を制覇せずには世界覇権国になれないことをよく知っている中国は、南シナ海を中国の内海にすることに熱心だ。中国がこのように努力するのは中国が間違った国であるためではない。正常な大国への道を歩んでいるのだ。
米国は当然、中国のこのような挑戦を阻止しようとする。米国がそうすることも米国が間違ってのことではなく、覇権国として正常に行動すべきことをすることだ。歴史上いかなる覇権国も挑戦者に自分の覇権的地位を平和的に譲歩したことはない。
ある日、米国が覇権国の地位を失って中国が覇権国に登る日が来るために必ず先行されることは、米国と中国の間の大戦争だ。米・中の大戦争で中国が勝利しない限り、中国は決して覇権国になれない。韓国人たちは知らないが、米国という国が戦争で負けもせず中国に押されて2位になることは絶対にないはずだ。
この米・中の覇権競争が露骨化している中、国家戦略を樹立せねばならない二つの国があるが、日本と韓国だ。国家戦略とは国家の目標を設定しそれを達成するために考案された諸方策を意味する。
良い国家戦略を持つ国は国家目標が達成できるが、そうでない国は国家目標の達成どころか、逆に支離滅裂の奈落に陥る。国々がゲームを展開する領域がそれほど凄絶な領域であるためだ。力もなく戦略もない国は衰亡の道を歩むしかない。
機会を捉えた日本
中国が米国に挑戦する状況を利用して日本はしっかりした夢を実現している。日本の夢は去る70年間の非正常から抜け出で再び正常国家、あるいは彼らが言う普通の国になることだ。日本の夢は、世界の敗者ではなくても、少なくともアジアの覇者になることだ。平凡な用語を使えば、日本は世界のすべての国の夢である‛強大国’になることだ。
日本はいま非正常国家だ。世界のすべての国が(自ら放棄しない限り)全部持っている常備軍もない国であり、自国の軍事力を国軍とも呼べない国だ。手段としての戦争も放棄した国だ。
このすべては日本が自ら望んでのことではなく、米国が強要したものだ。日本の左派たちが固守すべきだと主張する驚くべきことが起きているが事実、日本の平和憲法は米軍占領軍司令官のマッカーサー元帥が強要したものだ。
第2次世界大戦直後の米国は、日本を虚弱な農業国、非軍事国家にすることで二度と戦争ができない国にすることだった。
国軍とも呼ばれない日本の自衛隊はもちろん、実際には非常に強い。特に、日本の海上自衛隊は米海軍に次いで世界2位程度と見ても良いほど強い。
今まで侵略戦争の元凶として、そして戦争で敗北したためおとなしくしてきた日本は、米国が日本に戦争をすることができる能力を再び持つようにしてあげる時代になった。日本は遂に正常な普通の国家になれる機会を得たのだ。
少なからぬ韓国人は、日本が勝手に帝国主義への道をまた歩むと懸念しているが、2012年に安倍2期内閣発足以降、日本の軍国化は初めから終わりまで米国の支援と管理の下で行われていることだ。日本の軍事化を必要とする米国は最近、ハワイとカリフォルニアなどへ日本軍を受け入れて上陸作戦訓練をさせるほどになった。
中国が米国の覇権に挑戦する状況で、米国は日本の力を活用する必要が生じ、日本は機会を捉えた。米国は世界で最も柔軟な戦略を持つ国だ。敵と友人を必要に応じていつでも変えられる国だ。
米国は1970年代の初め、中共(今の中国)を友達に迎えるため台湾を捨てた後、ソ連との覇権戦争に新しい友の中共を活用して勝者となった。当時、中共はソ連が恐れたため米国と戦略的提携をせざるを得なかった。その過程で台湾は国連安保理から追放されただけでなく、国の格まで失ってしまった。
去る数十年間、中国は米国が作った国際秩序に順応し、米国の対ソ連戦略の同盟になった見返りで、強大な経済力を持つ強大国に成長した。米国は今、中国の挑戦を抑えねばならない局面になった。
米国は今、中国の挑戦を抑えねばならないのに、共に対応するちょうど良いパートナーができた。米国と中国の間で迷っている韓国と違って日本が積極的に乗り出した。麻生太郎日本副総理が言ったように‛去る千年間、中国と友人であったことのない日本’は、米国が中国の覇権挑戦を阻止するには、自分が適格だと言って米国を説得する。
日本が米国から期待することは、日本が再びアジアの最強者になれるよう配慮されることだ。多くの韓国人が日本の政策を‛感情的に’に批判しているが、私は日本の戦略は国際政治の教科書的原則によく従ってしるものと見ている。
100年前とあまりにも類似した韓半島の安保状況
では、21世紀の大韓民国は今上手くやっているのか。
まず、われわれは米国、日本、中国よりも優れた国家戦略を持っていなければならない。力が相対的に弱いため、それを相殺するために、もっと優れた戦略を持たねばならない。大韓民国は今、興亡盛衰の岐路に置かれている。
中国の浮上は、米国が作った自由主義的な国際秩序(liberal international order)に忠実に従って活用することだった。ところが、今や力が増強された中国は、事あるごとに米国の覇権に逆らう方向に行動している。中国が米国的国際秩序に順応していた去る20年余りの間、韓国は米国と中国の間で難しいことがほとんどなかった。
中国が米国の地位に挑戦する以前は、われわれ韓国は米国とは安保、中国とは経済という最良の取引をすることができた。これまで韓国は米・中の間で実利を追求することができた。
だが、そういう時代が終わりつつある。中国は米国的国際秩序に対して政治・軍事的に挑戦し始め、米国も中国の挑戦を容認しないとしている。韓国の知識人や政治家たちはまだ「安米経中」(荒唐な概念だが、多くの人々が使うためそのまま書くが、米国とは安保、中国とは経済という意味だそうだ)を言っている。すでにそんなことは許されないのが現在の国際状況であることも知らずに、だ。
学歴を自慢する人々が出した一様な結論は“われわれの国益に基づいてやれば良い”というものだ。知識人らしくない分析と言わざるを得ない。“国益に基づく”というのが“どのようにする”ことなのかを具体的に表すのが戦略だ。われわれにはそういう戦略がない。
米国と中国が悉く葛藤し、米国との緊密な同盟を国家大戦略の目標(正常国家に、そして大国への回帰)を具現するための方策とした日本が思い切って行動している情況で、韓国は“どうすること”が国益を守るものかを語らない。
最近、ある有名新聞の論説で、中国を友人、米国を兄弟と呼ぶ文を読んで驚いた。大韓民国の偉い知識人たちの国際政治に対する認識レベルに呆れた。永遠の友も永遠の敵もいないというのが正常な国々の国際政治の原則だ。
米国がわれわれの兄なら、われわれが友である中国と親しく遊びたいのに、それが兄には少し不便でも、兄がそんなことを気にしないだろうということだ。だから、兄である米国が望むサード(THAAD)の配備やTPP(環太平洋経済連携協定)への参加には反対しても許され、友である中国がやるAIIB(アジアインフラ投資銀行)や戦勝節への出席は問題になれないと考えているのだろうか。
今日の韓半島周辺の国際政治環境は、19世紀後半から20世紀の初めとあまりにも似ている。19世紀末から20世紀初の世界の覇権国は英国で、これに最も露骨に挑戦する国はロシアだった。当時、新興強国の日本もロシアの東方進出を恐れていた。
つまり、英国と日本はロシアを制御する必要があるという共通の利害関係を持っていた。英国はそれまで固守してきた非同盟の孤立政策を放棄して1902年、日本と同盟を締結し、日本にアジア地域においてのロシア帝国の膨張を阻止する役割を任せた。
世界最強の英国の支持を確保した日本は1905年、日露戦争でロシアを撃破することで英国の利益に応え、こういう過程を通じて日本は朝鮮を併合し、アジアの覇権国、世界から認められる大国になる利益を全部手にした。
100年前のロシアを中国に置き換え、英国を米国に置き換えれば、今日の北東アジアが見えてくる。“中国の覇権挑戦が恐ろしい米国は、日本の力を活用して中国を抑制し、日本はこの機会を活用してまたアジアの強者になろうとする。英国が孤立主義を放棄して日本と同盟を結んだように、米国は日本に対する戰後の政策を放棄して日本を再び武装させた。”
韓国と中国
韓国は100年前のように弱い国でないため米国と日本に挟撃される中国が目を付ける国だ。韓国の外務長官が米・中双方からラブコールを受けていると自慢もした。
中国の目には、米国との同盟国の中でその連結の輪が最も弱いと見られるため、そして米国を裏切る可能性が高い国と見たため、中国は韓国に微笑作戦を駆使しているのだ。韓国は米国と‛一緒に戦争することを約束した間柄'なのに、中国がそう出ているのだ。
国際政治のすさまじい動作原理に鈍感な韓国は、中国が決して韓国の‛安保脅威’でないと考えているようだ。われわれは歴史が重要と言いながらなぜ歴史を忘れるのだろうか。日本との歴史は死んでも忘れられないという韓国が、中国との歴史はなぜ全部忘れたのか。
朝貢関係の時代にも、関係が良かった時でもそうでなかった時でも、事情によっていつでも韓半島を武力侵攻した国(あるいは勢力)は今日の中国領土に位置していた国や民族だった。
今日、中国がわれわれ韓国にそれなりに気を遣う最大の理由は、米国から韓国を切り離すためだ。逆説的に言えば、韓国が米国と親しければ親しいほど、中国は韓国に対して気を遣うしかないのだ。筆者のこの言葉について、われわれの能力が相当あると怒る人もいるはずだ。
われわれも相当の能力があるため米国と中国の間で自主的に行動できると主張する人々に聞きたい。それほど力のある韓国がなぜ北韓には手を焼いているのか。挑発も北側が思う存分に、対話も北側の勝手だ。北側は自分の意志でいつでも挑発し、状況が不利になればいつでも対話局面に転換できるのだ。リングの上に立ったボクサーに例えると、北側はいつでも不利なとき勝手にゴングが鳴らせる選手だ。われわれがそのようなルールを許した。
米国の立場
今後100年間使える量のガス、200年間使える石油を確保した米国(ジョセフ・ナイ教授の控え目の分析だ。だが、米国のコロラド州、ユタ、ワイオミング州に分布しているシェール石油の賦存量だけでも米国が300年以上使用できると見る専門家もいる)は、今後も長い間覇権の地位を保てるようになり、だからあちこちの国際問題にいちいち介入する必要がないという主張まで出る幸せな状況になっている。21世紀の大勢が中国ではなく米国であるのが明確なのに、苦労して同盟政策を追求する必要もなくなったという主張も出始めた。
事実、中国の浮上は、中国周辺のほとんどの国々がより積極的に米国との同盟を強化する現象をもたらした。日本、オーストラリアなど伝統的同盟はもちろん、米国を追い出したフィリピン、米国と戦争をしたベトナム、米国とあまり仲が良くなかったインドなどが米国を引き入れている。関係強化を求める国が多いため面倒なほどだ。中国との覇権競争での確実な同盟軍が自然に形成されたのだ。
米国のアジア政策の基本は、アジアの3大強国である中国、日本、インドのうち少なくとも一国を米国側に縛っておけば良いということだ。アジア3大強国の一国と同盟を維持することは、アジアでのバランスを保てる最小限の方策だ。今、米国は熱烈な日本、確実に米国へ傾いているインドを確保し、特に中国を牽制するために千軍万馬のようなベトナムを米国の戦略メンバーとして確保した。
中国の問題が本格的に現れ始めた2015年の現在、米国は資源の確保、創造的な経済力、強大な軍事力など、21世紀が米国の世紀であることを保証されていることに加えて、中国周辺のほぼすべての国が米国に味方する余裕のある状況を迎えている。
米国の情熱的な同盟国となっているインド+日本+ベトナムの人口、経済力、軍事力は中国よりも強い。このように余裕のある状況に到達した米国は、これまで確実な戦略要衝と見做されてきた韓国が米国を離れて完全に中国の味方になるとしてもあまり損はないと考えるかもしれない。
すでに、韓国は最終的に中国の方に傾くと予測した米国の戦略報告書が複数あった。米国が韓国にラブコールを送っていると思う外務長官もおり、韓米両国を兄弟に比喩する韓国人の識者たちもいるが、米国は韓国が重要な国でないと考えても差し支えのない状況を迎えた。もしか、米国は韓国が同盟の信義を捨てた国であると思うのではないだろうか。
韓国の戦略的選択
去る8月14日、安倍晋三首相が敗戰70周年の談話で、日本の軍国主義がアジアに希望を与えた美化してわれわれを憤怒させたが、日露戦争で日本が勝利したことを見たインド人たちはアジアがヨーロッパに勝ったことに歓呼し、インドの独立のための実力を養うため、英国の代わりに日本を学ばねばならないと思ったインドたち人がいたことは否定できない事実だ。米国は、今回の安倍談話を積極歓迎すると言った。
21世紀の今、アジアの国際政治状況は英国を米国に、ロシアを中国に置き換えて読んでも良いほど、19世紀末のアジアと似ていると言った。覇権国の米国に挑戦する中国、これを脅威として感じる米国、同じ脅威を感じている国として米国を助けてアジア地域での米国の地位を維持する戦いの前面に立ってあげると乗り出した日本、日本にその地位を積極的に任せても良いと思う米国などは、皆が国家大戦略を達成するための戦略計画の樹立に忙しい。
中国が米国に挑戦すること、米国がこれを制御すること、その隙間を利用して再び強大国に背伸びしようとする日本の戦略は、世界戦略の歴史に教科書のように繰り返し現れたことの21世紀バージョンであるだけだ。皆が最高級強大国になるため(中国)、その地位を維持するため(米国)、または取り戻すため(日本)努力している。
このように強大国らが自国の大戦略目標を設定しておいて競争する真ん中に置かれている韓国は果たして戦略的に行動しているのか。中国、日本、米国の行動は国際政治の原則を忠実に従っているものだ。ところが、われわれの戦略もそのように冷静なものか。われわれは21世紀国際政治の大勢をよく読んでいるのか。
去る20年間、国際政治の大勢は中国の浮上、米国の没落だった。だが、今このような見解は急速に変わっている。21世紀は中国の時代になれず米国は21世紀の終わり頃にも覇権国として残るだろうという見方が急速に広がっているのが新しい大勢だ。こういうことを正確に、そして迅速に認知し対処すべきではないだろうか。
未来韓国
www.futurekorea.co.kr 2015-09-07 12:29