“戦略的な糢糊さでは北韓の核攻撃は防御できない”
李春根
韓国の安保環境が激動している。北韓は大韓民国を絶滅させられる核兵器をほぼ実戦配備する状況に至った。
米国、中国、ロシア、日本と大韓民国など、その力を合わせれば北韓は相手になれないほど強大な勢力が、去る20年以上、北韓の核保有を阻止するためやってきた‛6者協議’、駐韓米軍の核の全面撤退、そして北韓を宥めると言って提供した数十億ドルのお金、そして国際政治の歴史上、前代未聞の‛太陽政策’にもかかわらず、直面するとんでもない状況だ。ここ20年間以上、北韓の核開発を阻止するためのあらゆる政策は全部失敗に終わった。
なぜこうなったのか。北韓が核を放棄するようにすると言いわれわれが駆使した政策や戦略は、当初から言になれない出鱈目だったからだ。言い過ぎではないかと考える人々がいるかも知れない。北韓に核発電所を建設してあげれば北韓が核兵器を放棄するはずだという期待、在韓米軍の戦術核を全面撤収させれば北韓が核を放棄するという発想、陽光を当てお金を与えれば北韓が核を放棄するという盲信などは、実は頭から話にならないことだった。当初から筆者を含む多くの学者や専門家たちが数十年間そういう方式では北韓の核武装を決して放棄させられないと指摘し叫んできた。
厳しすぎる批判だと思う人々は、6者協議と在韓米軍保有戦術核の全面撤収、北韓に提供した数十億ドル、そして最高の対北政策と自慢した太陽政策が、なぜその執行者たちが公開的に提示した結果を一つ得られなかったのかについて説明できなければならない。同時に、今まで大韓民国政府の対北政策を憂慮し、そうしてはならないと訴え荒野で叫んで主張してきた在野に対して謝罪すべきだ。
遠からず、北韓は大韓民国の全土を核ミサイルで攻撃できる能力を整えるようになる。われわれは今、核戦略理論に依拠すれば、決して最善策ではない次善策、つまり北韓の核ミサイル攻撃を‛防御'するつもりでいろんな工夫をしている。
ところが、われわれは次善策の中でも最も効果が確実な米国主導のミサイル防衛体系(MD)にも中国の顔色を窺がって加入できずにいる。イージス(AEGIS)軍艦を導入する際も、米国のミサイル防衛システムに入るものではないと弁明した。まだ具体性もなく技術的にも確信が持てない‛韓国型MD’を議論しているところだ。米国と韓国は同盟関係なのに、同盟国と共に、それも攻撃ではなく‛防御体制’を構成することがそんなに気を遣うべきことだろうか。
矛盾という言葉がある。矛と盾を売る人が、自分が売る矛は破れないものがなく、自分が売る盾は防げないものがないと言ったことから由来した言葉だ。その商人の話の中で一つは嘘だ。逆に言えば一つは真実だ。軍事戦略的観点から見れば‛この矛は破れないものがない’という話が真実だ。いくら良い盾でも、結局は矛に敵わない。矛を持つ者は究極的に敵を殺せるが、盾を持った者は100回のうち99回を上手く防いだとしても一回失敗すると敵によって殺される。99回を成功的に防御しても防御者が勝利したわけではない。攻撃者が勝利していないだけだ。
防御が攻撃よりも有利という理論があり、攻撃側は防御側より3倍の兵力が必要だという理論があるが、それは国家次元の戦略には該当しない戦場で兵力を計算するための戦術理論であるだけだ。われわれは今、北韓の核が完成を目前にした時点でまともな戦略的方策を講じねばならない状況なのだ。
戦略のことは後に話すことにし、当面のイシューであるミサイル防衛体制と関連した話をしよう。米国は在韓米軍を北韓の核ミサイル攻撃から護るためサード(THAAD)と呼ばれる迎撃システムを導入する計画を持っており、中国政府は韓国政府にサードが韓国に導入されると座視しないと脅しているところだ。中国政府がそう主張する理由は、サードシステムのレーダー体系が中国を完全に監視できるため、米国を攻撃する中国のミサイル能力に重大な妨害になるということだ。
中国は米国には何の脅迫もしていないが、韓国に対しては甚だしくは北韓との関係を改善するとまで言ってきた模様だ。それで、大韓民国の当局者たちは、中国に対してまだ米国が要求してもいないと言い中途半端な立場を取ってきた。大体“(周辺国が)われわれの国防安保政策に対して影響力を行使しようとしてはならない”という程度だった。周辺国が米国を指すものか中国を指すものかも明確に表明しなかった。まさにこのように言うことを‛戦略的な糢糊さ’と呼んでいる。
政府が言う‛戦略的な糢糊さ’を戦略もなく右往左往することだというメディアの非難もあるが、大韓民国が如何に戦略的に模糊できる国であるのかについて問わねばならないはずだ。数年前には‛均衡者(Balancer)’という用語を誤って使用してほとほと困ったこともあったが、均衡者とか戦略的な曖昧さ(Strategic Ambiguity)という概念は、大韓民国のように国家安保が困難な状況にある国々が言える言葉ではない。
われわれが使用し知っている国際政治学の概念がほとんどは強大国の学者たちが強大国の国際政治を説明するために作ったものだ。均衡者、等距離外交、あるいは戦略的模糊さという概念は、強大な国々が状況によって選択する戦略であって韓国のように相対的に弱い国が取れる政策ではない。
相対的に弱い国々は明確な立場を表明するのがもっと安全だ。均衡者や等距離外交で誤れば弱い国は割れる。戦略的に模糊な立場を取れば、弱い国は強い二つの国の両方から信頼を失うことになる。しかも、われわれは今葛藤している二大国の一方である米国と60年以上同盟関係だ。われわれが曖昧模糊な立場を取れば、米国は韓国を信頼できる同盟国と見るだろうか。
また、米国と同盟をしっかり維持しながら、中国にも友好的と認められようと努力する大韓民国を中国はどう見るだろうか。尤もらしく恰好よいと思われるとやたらにいろんな概念を言って見るのは困難で本当に自制すべき行為だ。
実際に盧武鉉政府が‛均衡者’という用語を使ったとき、米国は韓国に‛同盟を破棄するつもりか’と疑問を提起した。誰とも同盟を結ばない国でこそ真の‛均衡者’になれるためだ。
サードミサイル防衛体系は北韓の核を防御する最善策ではなく次善の策だ。しかも、北韓の核は大韓民国には死活の問題だ。この問題が決められず狼狽しているのが話になれると思うか。サードを持ち込むのがわれわれの生存に役立つか。役立つなら直ちに持ち込むべきだ。
中国の機嫌を損なえば経済的に難しくなることを憂慮する人々が多い。それで悩むという。私は率直に、大韓民国がどうして‛お金’と‛命’の中で何がもっと重要かを計算する国になったのかが理解できない。
軍事兵器体系についてよく知らない人々のために中国が反対する根拠は妥当でないことを指摘しなければならない。まず、中国は北韓の核兵器製造を助けた国だ。中国が本当に北韓の核を阻止しようとすれば阻止できる国だ。そして、中国は韓国戦争(1950年)のとき、100万大軍を送って韓国の統一を妨害し北韓政権の生存を助けた国だ。今もそして今後も、それはあまり変わらないだろう。中国にとって北韓は地政学的に死活的な問題だからだ。
中国はサードシステムのレーダーが中国を監視できるという事実に言い掛かりを付けている。なら言って見よう。事実と違うのだが、百歩を譲って韓国に配置されるTHAADのレーダーが中国を監視できるとしよう。それで何が変わるというのか。すでに日本に類似した仕様のAN/TPY-2レーダーが2基設置されており、台湾には世界で最も強力なレーダーと言われるAN/FPS-115 Pave Pawsに基づいたUHF Long Range EWRシステムが構築されている。台湾のレーダーは3000キロ以内で1,000個の目標物を同時に追跡でき、2004年から構築を開始して2009年に完成した、時価1兆5000億ウォンのものだ。
それだけではない。地上5cmの物も識別できる米国のKH-11、12の偵察衛星、年間なんと4-500回も中国の海岸を飛行するという米国の偵察機は中国を手のひらのように見るようになって久しい。韓国に配置されるサードミサイルのレーダーが既存の米国の偵察能力にさほどプラスにならないこと、中国が韓国に配置されるサードのため損をすることもないことは、軍事が少しでも分かる人なら、言い訳でも言えないはずだ。
ところで、そうしてこのような状況にまでなったのか。中国は今、清が朝鮮に対したように韓国に対するつもりか。今でも明確にすべきことは明確にしておこう。大韓民国は国家安保のためには、誰の干渉も許さず、大韓民国の国家安保の軸は韓米同盟であるという事実を、だ。
*この記事は未来韓国2015年4月第1号の李春根博士の戦略物語に掲載された記事です。
http://blog.naver.com/choonkunlee/ 2015/04/03 0:222