危うい独裁権限の「委任」

(2020.8.28)岡林弘志

 

 しばらく籠っていたと思ったら、夏休みの季節というのにやたらに会議を開く。経済混乱・低迷に新型コロナへの恐れが重なり、休んでなんかいられないのか。金正恩・労働党委員長はイライラが止まらないようだ。閉塞状態はヒトを欲求不満にし、焦燥感を募らせる。まして、若年肥満は成人病の素。このため、権限の一部を妹の金与正・党第1副部長らに移す「委任統治」を始めたという見方も。独裁体制に異変、混乱が起きているように見える。

 

「成長目標が甚だしく未達成」は自らが原因

 

 「複数の側面で予想しなかった不可避な挑戦に直面した」。金正恩は、労働党中央委総会(8・19)を「指導」し、北朝鮮経済が極めて厳しいことを認めた。4年前に大々的にぶち上げた「国家経済発展5カ年戦略目標」の「結果について解釈」し、目標達成は出来ないことを明らかにした。

 

 目標終了前に、早々と失敗を認めてしまった。それだけ経済が深刻、あるいはもともと無理な目標ということだ。それに、北朝鮮でこれだけストレートに失敗を認めるのは珍しい。米朝首脳会談への期待を膨らませすぎた反動もあり、これまでになく国民の不満、不信感が強くなっているのだろう。言葉だけでは糊塗できないと判断したのか。

 

 総会で採決された決定書は、「厳しい対内外情勢が続き、予想できなかった挑戦が重なって経済事業を改善できず、計画されていた国家経済の成長目標が甚だしく未達となり、人民生活が向上しない結果も生じさせた」。要するに、国連経済制裁、新型コロナ防止のための国境閉鎖、それに毎年の洪水被害という「三重苦」のため、目標には遥かに遠く、金正恩の最大の公約である「人民生活向上」は出来なかったという。

 

 「経済発展5カ年戦略」(2016~20)は、第7回党大会(2016・5)で打ち出された。核と経済の「並進路線」によって、自国をしっかり守ったうえで、民生経済、重工業を発展させ、食糧と軽工業製品の生産増加を図り、人民生活を決定的に向上させるという金正恩の大号令のもとに定められた。そして、「成長目標」は、GDP(国内総生産)の年平均8%といわれる。並進路線の「核」は目標をほぼ達成と認め、昨年からは「経済」に重点を置いてやってきたはずだ。経済再生の青写真は明示したが、実態が伴わずどうにもならなかった。

 

 「予想できなかった」「不可避な挑戦が重なって」というが、経済制裁は核・ミサイル開発が国際的な反発を招いたため、半年以上の国境封鎖という世界で最も厳しいコロナ予防措置も長年の劣悪な衛生環境のせい。そして大水害も、統治力を誇示するための遊興施設などを最優先にして、インフラ整備を怠った結果だ。いずれも独裁体制を維持強化させるための政策の結果である。要するに自らが招いた厄災だ。自ら「不可避」を招いたのであるのである。

 

 しかし、反省の言葉は聞えてこない。金正恩は来年一月に第8回「党大会」を開いて、来年からの「新しい国家経済発展5カ年計画」を「提示」するという。今年までの「戦略目標」という用語は消えた。経済破綻寸前、住民の飢えを改称できないで、「戦略」はおこがましい。人民に変な期待を抱かせない、あるいは冷笑を浴びるのを避けるためか。

 

 五年ぶりになる来年の「党大会」招集は、「国家活動を新しい上昇段階に策定し、人民の天のような信頼と期待に報いる労働党の強烈な意思と厳かな誓い」(朝鮮中央通信)と自画自賛している。しかし、従来通り核ミサイル開発、独裁強化を最優先にして、経済原理をないがしろにした経済運営をする限り、計画は絵に描いた餅だ。三重苦、四重苦の中では、人民の信頼と期待に応える明るい展望は見えてこない。

 

コロナ・平壌病院…金正恩の激怒、叱正が続く

 

 金正恩は、今年前半はコロナを避けるためか、蟄居していたようだが、7月から頻繁に動静、特に会議開催が報道されるようになった。その中で、様々なことが思うよう進まないいらだちが目立つ。一つの例は、突然のコロナ感染騒ぎだ。脱北者の一人が北朝鮮に戻った(7・18)が、感染の疑いが濃いと断定、金正恩は党政治局を緊急招集(7・25)した。「強力な防疫対策を講じて全てのルートを封鎖したが、危険な事態が発生した」と指摘、脱北者の実家があり潜伏していた開城市一帯に非常事態宣言して、完全封鎖した。この脱北者は、韓国の江華島から救命胴衣を着けて対岸の北朝鮮領に泳ぎ着き、開城へ潜り込んだ。

 

 北朝鮮はこれまで「感染者ゼロ」と言い続けてきた。脱北者が感染していれば初めてになる。しかし、中国と地続きの北朝鮮で感染者ゼロは不自然、軍隊での集団感染などの情報がいくつもある。感染者が潜り込んで来たので、厳重注意しろと人民に強いるいい口実として利用したのか。万が一を恐れたのか。韓国側は、脱北者と接していた知人等を検査したが、感染はなかったという。

 

 その後、北朝鮮から検査結果の報道はなく、「初の感染者」かどうかはあいまいなままだ。約20日後に封鎖を解除(8・14)。しかし、コロナを恐れる金正恩にとっては許せない。脱北者の着岸、潜入を見逃した前線部隊の隊長や上司らが粛正されたのは間違いない。

 

 案の定、と思わせたのは、金正恩が今年の最重要課題と位置づけた平壌総合病院の建造にかかわるイライラ爆発だ。20階建ての最新の病院を更地から完成まで7カ月、お得意の「速度戦」でやれというのだからどだい無理な話だ。処分者が出ることは十分予想された。

 

 金正恩は、現地指導(7・19朝鮮中央通信)で「困難な環境の中でも建設が非常に早いスピードで進捗した」と「建設者の勤労の偉勲を高く評価した」。確かに配信された写真を見ると、ほぼ20階建ての病棟と5階ほどの管理棟の外観は早くも姿を現している。4カ月ほどという驚異的な速度だ。これでコンクリートはちゃんと乾いているのか、手抜き工事-崩壊なんてことにならないか、心配になるが、褒めるのもよくわかる。

 

 ところが、金正恩は急に怒り出す。「建設総務が未だに建設予算もまともに立てず、めくらめっぽうに経済組織活動を行っている」という。「建設総務」は、プロジェクトチーム、タスクフォースという意味のようだ。具体的には「設備、資材の保証活動で政策的にひどく脱線」「各種の支援活動を奨励、人民に負担を掛けている」という。要するに強引に資材を集め、人民に寄付を強要しているという。

 

 これでは「党のイメージに泥を塗りかねない」と怒り心頭。「責任ある活動家を全てすげ替える」とクビを宣言。その場に顔を揃えていた「建設総務」の面々の顔が青ざめ、ふるえるのが目に見えるようだ。しかし、準備期間もなく半年ちょっとでどでかい病院を造れ、資材もカネもおまえ等が責任もって調達しろと言われても出来るはずがない。人民への寄付強要はこれまでもしょっちゅう。「建設総務」は、金正恩の欲求不満、イライラの餌食になった格好だ。

 

 「党創立75周年を真の人民の祝日、一心団結を固める祝日にする政治活動になるよう志向させるべきだ」(8・13金正恩)。要するに、金正恩の元に団結させる重要なイベントなのに、うまく進んでいないというのが、イライラの最たる原因ということか。党を創建した「金一族」をより神格化する機会であり、平壌総合病院もその記念碑的建造物にするためだ。このままでは、金正恩が求めるような華々しい行事にならない。神格化にも支障が出る。

 

 しかし、世界的に新型コロナは収まる気配がない。治癒のためのワクチンは未完成だ。しかも北朝鮮の防疫態勢は貧弱。こんな中で、金正恩は「三密」の標本のような大集会、パレードも含めた行事をやるつもりなのか。いずれにしても、大群衆を集め「マンセー!」と叫ばなければ、行事は盛り上がらない。一部の責任者を処罰したところで、コロナの恐怖が去るわけではない。

 

「委任統治」が始まった??

 

 そうした中、独裁体制に直接かかわるような動きが見える。注目されたのは、党中央委政治局会議(8・13)での人事。金在龍首相を更迭、新首相に金徳訓・党副委員長を据えた。同時に、新首相と李炳哲・党軍需担当副委員長を党政治局常務委員に昇格させた。この常務委員会は、国家運営の中心的な組織、これまで金正恩、崔龍海・最高人民会議常任委員長と朴奉珠・党副委員長の三人だった。

 

 今回5人体制になったのだから、権限の幅が広がり、強化されたのだろう。ちなみに、李炳哲は軍需担当として、核ミサイルなど戦略兵器開発で功績が大きい。金徳訓は58、59歳。企業体経営で手腕を発揮、2014年から内閣副総理を務め、実務経済の敏腕若手として知られる。いずれも実務に明るく、実際に仕事が出来る人材を登用したということか。

 

 すでに金与正の台頭は明らかだ。驚いたのは、開城南北連絡事務所の爆破を「指示」した談話だ(6・13)。「私は委員長同志と党と国家から付与された権限を行使して」と述べている。もともと「指示」は金正恩以外出来ないはずだが、その権限を金正恩から「付与」されたことを公にした。

 

 金与正は、権力内部で金正恩の唯一人の肉親、「白頭山の血統」である。現在公表されている地位は党第1副部長。かつて宣伝扇動部を率いていたが、今は党の中枢機関である指導部第1副部長と見られている。それに加えての権限付与。このため、事実上のナンバー2、金正恩の後継者など、日韓では様々な解説が飛び交った。ただ、このところ、動静の報道がない。どうしたことか。

 

 「金正恩が『委任統治』」――韓国の国家情報院はこうした一連の人事の動きを分析しての見解を示した(8・20)。金正恩が妹の金与正・党第1副部長をはじめ、各分野の幹部に権限の一部を委譲する「委任統治」を行っている。国会情報委員会で明らかにした。同委は非公開で、内容は出席した議員が記者団に話したものだ。

 

 「委任統治」は、具体的には、①対南、対米は金与正②経済は朴奉珠・党副委員長と金徳訓首相③軍事は崔富日・部長④戦略兵器開発は李炳哲・党政治局常務委員――が担当。そして、全ての案件は金与正が報告を受けてから金正恩に伝達、金正恩の命令・指示はやはり金与正を通じて、それぞれの責任者に伝えられるのだという。また、国情院は、金正恩の健康に異常はないという。

 

金与正・「常務委員会」強化の危うさ

 

 この通りなら、絶対独裁体制、首領独裁体制の変質だ。北朝鮮の最高規範は「労働党の唯一的領導体制確立の10大原則」だ(1974年制定、2013年金正恩が改定)。人民は首領様を唯一の指導者として絶対的にあがめ奉り、無条件で従わなければならない。その「唯一領導体制」を手直しするなんてことがありうるのか。

 

 ちなみに、国情院の院長は朴智元・元文化観光相。7月に任命されたばかり、故金大中元大統領の最側近で、初の南北首脳会談をセットするため、密使として北朝鮮に何回も行き、大統領からの金正日への4億5千万ドル(約480億円)を贈った中心人物といわれる。文在寅政権は対北融和だが、20年以上も前からの親北人士だ。それを念頭に分析を見る必要がある。

 

 国情院は、金正恩が「絶対権力を握っているものの」という前提をつけている。しかし、金与正が金正恩への唯一のパイプというのは興味深い。もしそうなら、金与正は、書記室の責任者ということだろう。党、軍、政府の全ての案件はここを通ることになる。そうなれば、これまで全く関わりのなかった人民軍や治安組織などへの関与も出来る。近いうちに、党常務委員への昇格もあり得る。となれば、常務委員会はかなりの「権限委任」を受けた国家運営をなすことができることになるのか。

 

 しかし、例え一部であっても、権力の委任は危うさを含んでいる。すでに、北朝鮮にその具体例があるからだ。1980年代の金日成治世の時代。後継者に決まっていた息子の金正日が、同じような報告の仕組みを作った。全ての案件を自分を通すことで、金日成への報告・金日成の命令にかかわる取捨選択の権限を独占した。この仕組みを利用して、幹部らの生殺与奪の権を握って自分になびかせた。そして、金日成の目の届かないところで、自らの権限をふくらませ、ついには金日成排除まで行ったともいわれる。

 

 金与正がパイプ役というなら、まずは忠実にやるだろうが、周辺は放っておかない。案件、具申を金正恩に取り次いでもらうため、金与正におべっかを使い、本人もいつの間にか増長する。人間は権力に弱く溺れやすい。権力が大きければ大きいほどそうだ。極めて危ない仕組みである。すでに金与正が幹部を怒鳴りつけたなどいううわさもある。権力志向が強ければ余計そうだ。やがては金正恩の権威が損なわれ、確執が生ずることにもなりかねない。極めて危うい。

 

自信の現れ? 失政・健康不安の現れ?

 

 金正恩は、領袖に全ての権限を集め、恐怖支配も利用して、この9年をやってきた。ここで権力構造に手を加えざるをえないと言うのは、これまで通りではできないということだ。韓国国情院は、「委任統治」の理由について、金正恩のストレス軽減と問題が起きたとき責任を回避するためと解説している。

 

 確かに、ストレスは相当貯まっているはずだ。ストレス解消のために大食いして肥満というのはよくある。それに、最大のストレスは、国家運営特に民生経済、「人民の生活向上」は失敗続きで、思うよう行かないからだ。すでに述べたように原因は全て自分にあるのだが、それを認めてはおしまい。このため、部下に厳しく当たってきたが、それでもの事が解決するはずはない。よけいストレスは貯まる。

 

 「委任統治」のもう一つの理由の責任回避。ただ、これまでも金正恩が失政の責任をとったことは一度もない。失政は全て部下の責任にして処罰してきた。今さらというきもする。国情委の保守系野党議員は、「政策失敗時に金正恩に銃弾が飛んでくる。失敗時のリスクがあまりに大きい」からと解説する。なるほど、それならよくわかる。

 

 国情院は「根本的には9年間統治して得た自信の表れ」と分析したようだが、文政権はいつも北朝鮮、金正恩をひいき目に見てきた。独裁者は自信を持てばさらに独裁を強化するのが常だ。従って、失政の繰り返しでこれまでのような独裁に自身を失ったのか。独裁権力内部にこれまでにない軋轢が生じているのか。このため、指導体制をいじらざるを得なくなった可能性の方が高いように思う。

 

 その中でも、やはり金正恩の健康問題は気に掛かる。4月の長期間の動静報道なしについては様々な憶測を呼んだ。重体説まで出たが、今は一応、会議などを招集している。しかし、その時、心臓にかかわる病気で倒れ、ステントを入れたと推測をする北朝鮮ウオッチャーはかなりいる。手首内側の傷跡や当時の外国医師団の訪朝などが理由だ。

 

 心臓の病の怖いのは突然襲い、生命にかかわる割合が大きいことだ。すでに触れたが、金正恩9年の治世で、民生経済、「人民の生活向上」にかかわる政策はほとんど失敗した。うまくいかないというストレスは貯まる一方だ。しかし、「委任統治」がどの程度のものかは不明だが、これまでの「唯一指導体制」の変更を余儀なくされている。独裁が揺らいでいるのは間違いなさそうだ。

 

「人民に寄り添え」と言うが

 

 「水害被災民の苦痛は形容しがたいだろう。労働党は人民がなめる苦労を共にし、癒やすため彼らにもっと近寄らなければならない」(8・14党中央委政治局会議)。金正恩は、7月以降の水害について、有り難いお言葉を「切々と述べた」。それに先立ち、黒色の「レクサスLX570とみられるSUV(スポーツタイプ多目的車)」で、被害が大きかった黄海北道銀波郡大青里を視察したのだ(8・7朝鮮中央テレビ=聯合ニュース)。

 

 金正恩は自ら運転してきたらしい泥だらけのレクサスの運転席側から笑顔で降り立ち、汗と泥まみれになった農民らが歓呼の声をもって出迎えた。会議に先だって、おれはちゃんと「人民に近づいているぞ」と模範を示した格好だ。しかし、これまで災害地視察はあまり見たことがない。それに、水害は治山治水をちゃんとやっていれば、かなり被害を軽減できたはずだ。三代続けて無視してきた結果でもある。

 

 それにしても、今年は例年になく「深刻な被害を受けた」。政治局会議で公表された被害は「農作物の被害面積は3万9296ha、家屋1万6680余世帯と公共施設630余棟が破壊され、浸水。多くの道路と橋梁、鉄道が断ち切られ、発電所のダムが崩壊」した。北朝鮮の耕地の3分の1が被災ともいわれる。人命被害には触れていないが、かなりの犠牲者が出たはずだ。

 

 しかも、金正恩は「世界的に悪性ウイルスが拡大しているので、水害にかんするいかなる外部支援も許さず、国境を鉄桶のごとく閉じて、防疫活動を厳格に行う」と宣言した。何とも悲壮な覚悟である。そのうえで、「軍民の大団結と協同作戦によって10月10日までに水害復旧を基本的に終える」ことを「当面の闘争課題」として打ち出し、党と政府の「協同命令書」を出すよう指示した。災害復旧も「党創建記念日」の祝賀材料というか。

 

 金正恩が現地視察の映像を公表したためか、テレビは被害や復旧作業の様子をかなり詳しく報じている。大型ブルドーザーやダンプカーが動き回る様子や何台もの放水ポンプが設置された場面もあるが、多くは人海戦術だ。そして、場所が変る毎に「音楽隊」が出てくる。激励、鼓舞しているのだろうが、久しぶりに見た。いま時こんなことをやっているのは北朝鮮ぐらいのものだろう。

 

 とにかく記念日までは1ヶ月余しかない。またまた「速度戦」である。基本的に人海戦術でどこまで出来るか。しかも、外からの援助、要するに国際機関からの援助は受けるなというのだから並大抵のことではない。ここまで書いたら、台風8号が朝鮮半島を北上した。金正恩は直ちに党政治局拡大会議を開き、「直ちに対策を講じろ」と指示した(8・25)。会議は踊る。

 

「コロナ後も経済は厳しい状況」

 

 「国際社会による制裁に耐えた北朝鮮経済が今年は新型コロナウイルスにより大きい打撃を受けたことが分かった」(8・13聯合ニュース)。韓国の政府系シンクタンク統一院研究院が北朝鮮経済にかんする今年上半期の報告書を発表した。中国への輸出額は、前年同期比75%減の約2700万ドル(約29億円)、輸入額は同67%減の約3億8300万ドルだった。

 

 「制裁に耐えた」かどうかはわからないが、国連の制裁で、韓国はじめ多くの国との貿易はほぼゼロだ。唯一といっていい中国との制裁対象にならない物資の貿易もかつてに比べ、7、8割は減った。となると、制裁以前と比べれば、ほとんどゼロに近いということか。むしろ「貧困に耐えた」と言った方がよさそうだ。

 

 特にこの上半期、特に中間財、消費財が例年を大きく下回る。そのうえで、下半期に輸入が回復しても、中間財と消費財の輸入は例年を大きく下回る可能性が高い。新型コロナが終息しても、北朝鮮経済は厳しい状況から抜け出せない可能性が高いと厳しい見通しを示している。

 

 今の金正恩の新型コロナへの恐れ方から見ると、最も簡単な外貨獲得手段である観光も簡単には解禁とはならないだろう。外貨不足は深刻だ。そんな中で、党創建記念日を盛大に祝い、来年1月には、「人民の天のような信頼と期待に報いる」ような「国家経済発展5カ年計画」を打ち立てることが出来るのか。

 

 「自力更生」「正面突破作戦」と言葉は威勢がいいが、実態が伴わないイライラのタネは次から次へ。それに権限の委任は独裁体制の揺らぎ、首領様の地位不安定を招かないか。

 

更新日:2022年6月24日