突っ張るしかないか

岡林 弘志

(2013.1.30)

 

 居直ったのか、馬脚を現したのか、破れかぶれか。とにかく、北朝鮮が居丈高になって、3回目の核実験をちらつかせている。独裁体制はもともと強硬派が勢いを持つ性癖がある。まして若い指導者は威勢を誇示したがる。しばらくはこぶしを振り上げ続けるに違いない。

 

 

 「不倶戴天の米国を狙う」

 

 

 「われわれが続けて発射する衛星と長距離ロケット、進行中の高い水準の核実験も不倶戴天の敵である米国を狙うということを隠さない」(1.24)

 

 

 北朝鮮国防委員会の声明である。昨年末のミサイル実験に対する国連安保理の制裁決議(1.22)に対して、反発したものだ。

 

 

 制裁決議に対しては、翌日北朝鮮外務部が声明と出し「核抑止力を含む…物理的対応措置を取る」と、持って回った言い方で、核実験を示唆したが、国防員会声明は、それを格段とエスカレートさせた内容になっている。

 

 

 要するに、核弾頭をつけた長距離ミサイルで、米国を狙うと宣言したということだ。続けて「米国とは言葉でなく、ただ銃で決着させなければならない」と念押ししている。

 

 

 やっぱり、そうかそうか。先月打ち上げた北朝鮮が言う人工衛星「光明星3号2号機」は、長距離弾道ミサイルだった。口が滑ったのか、この方が脅しが効くと思ったのか。自分で認めてしまった。

 

 

 居直りとしか言いようがない。北朝鮮は「これで分かったか」と言いたいのだろうが「隠さない」という前から、周りの国は始めから打ち上げは軍事目的と指摘しているのだから。北の言い方には驚いたが、あらためて制裁を科したのは妥当だったことになる。

 

 

 強硬意見がまかり通る

 

 

 それにしても激しい。核・ミサイル開発は米国攻撃向けとこれほどはっきり言ったのは初めてではないか。金正恩第一書記の時代に代わって、「対話」の姿勢を見せるかという見方もあったが、新年早々のこの恫喝は、穏やかでない。

 

 

 もともと、独裁者の元には、強硬意見が集まってくる。忠誠心を示すには、威勢のいい言葉の方が優位だからだ。柔軟な意見は論争になった場合、「敗北主義」などと非難され、負けてしまう。北朝鮮のような「首領独裁制」の下では、柔軟な方針を打ち出せるのは独裁者しかいない。

 

 

 金正日総書記の時代には、経済再生のため、屈辱を偲んで一年に3回も訪中するなど、わずかだが、そうした機能を働かせたといわれる。しかし、経験の少ない指導者には、そうした指導性を示す力量がない。30歳という若さはどうしても威勢のいい方に魅力を感じてしまう。

 

 

 まして、1カ月ほど前、12月12日に打ち上げた「人工衛星」は、周辺国を震撼させた。日本は「1万キロ以上の飛行に成功」という公式の見解を示し、ロケットの残骸を分析した韓国は「ほとんどが国産」と驚いた。このことも金正恩を有頂天にさせたのは間違いない「それ行けどんどん」だ。

 

 

 核実験で指導力誇示

 

 

 また、核実験は、発足間もない金正恩第一書記にとって、一石二鳥にも三鳥にもなると判断しているのだろう。

 

 

 一つは、金正恩の偉大さを誇示する絶好の材料になる。

 

 

 金正日総書記から権力を世襲して1年過ぎたが、若く準備もなく従って実績のない指導者は、ひたすら「白頭山の血脈」を売りに世襲の正統性を宣伝してきた。ミサイル発射は、特筆大書すべき実績だ。

 

 

 ミサイル打ち上げの映像は、繰り返しテレビで流され、平壌をはじめ各地では花火を打ち上げて祝賀会が開かれ、金正恩の偉大さが喧伝された。さらに核実験実施は、地中で行われるため、成否の確認は難しい。実施したということで、周辺国を驚かせ、さらにハクをつけることができる。

 

 

 最近では、金正恩が主宰する「国家安全・対外部門関係者協議会」の画像が国内外に発信され(1.27朝鮮中央通信)テレビでも放映された。四角いテーブルに外交、軍事、技術部門の最高幹部6人が座っている。金正恩は「国家的重大措置を講じる断固たる決心」を示し、参加者に「具体的な課題」を示したという。

 

 

 「決心」「課題」の内容には触れていないが、核実験実施にかかわる指示に違いない。それはともかく、こうした重大な内輪の会議の写真を公開するのは極めて異例だ。国内的には、金正恩が国家の根幹にかかわる政策について直接指示、指導をしている姿を人々に見せつける狙いがある。

 

 

 配信された写真の1枚は、金正恩が左手の指にたばこを挟んで、なにやら聞いている場面だ。儒教の秩序からすると、年上や偉い人の前でたばこを吸うのはご法度だ。ということは、金正恩は年上の各部門の首脳よりさらに偉いということを、一目でわかるように示した写真というわけだ。

 

 

 核の進歩で米国へ脅し

 

 

 また、核実験は言うまでもなく軍事力とくに大量破壊兵器の誇示になる。北朝鮮は、今回の制裁決議があったから、核実験をせざるを得ないと強調している。しかし、制裁がなくとも今年中に核実験をすることになっていたはずだ。

 

 

 これまで、北朝鮮は、2006年と09年に核実験を行ったが、ミサイル発射の1~3カ月の後に核実験を行っている。核とミサイル開発は並行して行われ、より高度の実験ができるようそれぞれの部門が競争させられているはずだ。

 

 

 まして、前回の実験の後、北朝鮮はプルトニウム型だけでなく高濃縮ウランを使った核爆弾開発に取り掛かっていることを明言し、昨年後半から衛星情報でも実験準備が進んでいる様子が見て取れた。北朝鮮にとって国連制裁は織り込み済み、たとえ、先延ばしされたとしても核実験は行わざるを得ない。

 

 

 しかも、次の核実験は、声明が宣言したように、米国に対する最大の脅しになる。かねて北朝鮮は独裁体制を脅かす最大の敵として、米国を位置付けている。何とか休戦協定を平和協定に移行させ、独裁体制を米国に認めさせるのが狙いだ。

 

 

 核弾頭の小型化に成功すれば、米国へも届くことが可能になった弾道ミサイル成功と合わせて、米国に対してはこれ以上の脅しはない。米国はびっくりして、米朝協議の場に出てくるに違いないと踏んだのだろう。お決まりの「恫喝外交」「瀬戸際外交」だ。

 

 

 「恫喝」は融和策を遠ざける

 

 

 独裁体制が利と考える言動は、周辺国には害になる。

 

 

 北朝鮮が狙うように、「恫喝」に怖気づいて、北朝鮮の言うことを聞くなら、さらに北朝鮮は核・ミサイル開発はそのままに、要求をエスカレートさせる。ここ20年ほどの核をめぐる北朝鮮とのやりとりで、周辺国が学んだ教訓だ。

 

 

 周辺国では、政権交代が進行中だ。北朝鮮は、新政権の政策を見たうえで、新たな外交姿勢を打ち出すという見方もあったが、先制攻撃のつもりか、かつてないほどの強硬姿勢に出てきた。

 

 

 二期目に入った米国のオバマ大統領は「核計画を放棄すれば、米国は手を差し伸べる」と述べていたが、これでは手を差し伸べようもない。

 

 

 韓国では近く朴槿恵大統領が就任する。人道支援や対話を否定していないが、制裁の加担には「物理的対応を取る」といわれては、簡単に融和路線に切り替えるわけにはいかない。安部晋三首相は、対北制裁を強化する構えだ。

 

 

 中国にも八つ当たり

 

 

 注目されるのが中国だ。今回の国連安保理の制裁強化の決議に賛成した。このため、北朝鮮は「世界の公平な秩序を立てるべき大きな国々まで正気にかえることなく」(国防委声明)米国に追随したと、これまでになくきつい口調で中ロを非難した。

 

 

 胡錦禱時代、北朝鮮を戦略的に重要として、あくまでもかばっていく方針を決めた。それなのに何だと頭にきての中国非難だろう。しかし、中国の要請にもかかわらず、ミサイル・核開発を進める北朝鮮に対して、春に就任する習近平氏は、北朝鮮の暴走に目をつむって、これまで通りとはいかない。

 

 

 政権発足時に甘い姿勢を取れば、北朝鮮はこれからも横車を押すに違いない。人民日報系列の「環球日報」は、核実験をした場合、北朝鮮への支援を「ためらわずに減らすべきだ」(1.25)と厳しい対応を取るよう提言している。

 

 

 酷寒の中、人民は救われない

 

 

 独裁体制の利を最も過酷な害として強いられるのは、北朝鮮の人民だ「人民が飢えることがないよう経済建設に集中しようとしたわれわれの努力に厳しい難関ができた」

 

 

 先に紹介した「国家安全・対外部門関係者協議会」の報道の中で、こうした見解も紹介された。

 

 

 「人民生活の向上」に力を入れようとしたが、周りの強まる敵対行動に対して核実験など軍事的に備える必要が出てきたため、民生経済にカネを回せなくなった、と言いたいのだろう。しかし、この1年の間、核・ミサイル開発、神格化事業にカネを使いすぎて、民生経済が立ち遅れている現状への言い訳に過ぎない。

 

 

 今年の冬は寒さが厳しい。最近、朝鮮中央通信で気象に関する報道を見ないが、陸続きの中国は30年ぶりの寒波で、食品価格が上がり、燃料不足が深刻だという。北朝鮮の人々も酷寒に苦しんでいるに違いない。

 

 

 しかし、新しい指導者は、何の生産性もない大型の飛び道具や自らの「革命の血脈」を誇示することに気を取られて、人々の生活は目に入らないらしい。後見人といわれる側近は何をしているのか。

 

 

 ただ、独裁体制が人民や周辺国に撒き散らす害は、やがて自らの身に降りかかってくるのが歴史の通例だ。

更新日:2022年6月24日