北朝鮮のぞき見④

「七光り」から「十四光り」へ

岡林 弘志

(2012.10.23)

 

 今回、街に増えていたのは、金日成主席と金正日総書記のツーショットだ。二人の銅像を始め、大パネルなどなどだ。二人の神格化はこれまでもめいっぱい行われてきたが、金正恩第一書記が「革命の血統の継承者」であることを強調するため、先代二人の偉大さをさらに人々に知らしめる必要があるということか「七光り」どころではなく「十四光り」だ。

 

 やがて全国に二人の銅像

 

 万寿台大記念碑は、革命の聖地の一つだ。小高い丘の上に高さ5,6mの金日成像が立っていたが、今年になって金正日も加わり、二人して平壌の街を睥睨している。今回も見学コースに入っていて、案内された。第2回で触れたが、二人ともメガネをかけて、笑顔になっている。

 

 金日成が一人で立っていた時には、右手をあげた威風堂々の姿だったが、二人にする際、こちらの方も笑顔に変えたようだ。建国記念日(9・9)の直後とあって、兵隊や子どもたちの団体、家族連れが丘のふもとにある露店の花屋で買い求めた花束を手に次々と訪れていた。

 

 続いて、万寿台創作社。ここには日本のメディアでも紹介された金日成、金正日が馬に乗った銅像が立っている。金正日の誕生日に合わせて除幕式(2・14)が行われた。ここは、一般の人は自由に入れないようで、われわれが行った時は、西欧の訪朝団が花束を供えていた。

 

 この像は、金正日死去後わずか二カ月ほどで造られた。案内人に、すごい速さだというと、「そのため、創作に携わった200人余りは表彰された」という。

 

 つい最近、朝鮮中央通信を見ていたら、今度は慈江道江界にも、二人の銅像が建てられた(10・11)金日成は軍服姿で片手に双眼鏡を持ち、金正日も野戦服のいずれも勇ましい姿「慈江道の人民の切々たる要望により」建てられたものだという。忠誠を示すため、これから他の道でも二人の像が競争のように建てられるに違いない。

 

 アリラン祭でも先代を讃える人文字

 

 ツーショットは街角のパネルにも登場している。金日成広場の一角にも、二人の肖像画が二つ並んで建てられている。また、住宅街の一角には、二人が赤い金日成花、金正日花に囲まれている図柄のパネルが立っていた。

 

 街がどのスローガンも「偉大な金日成同志、金正日同志は我々と永遠におられます」「偉大な金日成―金正日主義の旗に従い主体革命の偉業を最後まで完成させよう!」……。

 

 アリラン祭のマスゲームでも、先代二人は終始登場する。

「偉大な金日成同志、金正日同志に最大の誠意を捧げます」「首領様と将軍様は主体の永遠の太陽」「金日成、金正日朝鮮の新世代に明るい未来がありますように」……。

 

 威光を示す「贈り物展示館」

 

 今回、初めて案内されたのが「国家贈り物展示館」だ。7月に完成したばかりなので、見学した日本人はまだごくわずかのはずだ。場所は、平壌市の南西部、万景台学生少年宮殿の横の広い道を10分ほど行った低い山を背景に、南側が開けた明るい土地に建てられている。

 

 展示されているのは、金日成、金正日への贈り物だ。同じものは、妙香山にもあり、世界各国からの贈り物が展示されている。こちらは、同じ民族から、すなわち国内や韓国、在日朝鮮人など「各国の同胞」からのプレゼントをまとめてある。

 

 チマチョゴリの案内人によると、「金日成主席が各国からの贈り物は国の宝だ。大切に保存すべきだと教示され、金正日総書記もそれを引き継いで、多くの人民も見ることができるようにと、この平壌郊外に建てられた」のだという。

 

 これも、金日成生誕百周年を記念して完成させたもので、北の偉大な領導者がいかに世界中から敬われていたかを誇示する「神格化事業」の一つだ。

 

 どんなものが展示されているか、写真があれば、一目瞭然だが、残念なことに、カメラ、メモ、筆記用具は一切持ち込み禁止。しかも、入り口で黒い布の靴カバーをつけさせられる。泥やほこりを撒き散らしては恐れ多いということだろう。

 

 建物は、4階建ての石造、中は総大理石で、シンプルだが、高価そうなシャンデリアが下がり、贅沢なしつらえだ。所蔵している贈り物は2万3千点余、このうち8千点ほが常時展示されている。1階は、国内、各国からの主な展示品、2,3階はそれぞれ、各国別に並べられている。

 

 虎にまたがった金正日像

 

 1階で目についたのは、金日成とパルチザンを共にした元外相の許?夫妻が金正日に贈ったもので、高さ1.5mほどの縦長の楕円形の刺繍画。表には白頭山の頂上で、金正日が高句麗の武将の服装をして、虎に乗っている極彩色の図柄。裏は済州島の漢拏山頂で軍服の前の一番上のボタンをかけようとしている姿が描かれている。

 

 案内人に意味するところを聞いたが、答えてくれなかった。おそらく表は、中国東北部のほとんども版図だった高句麗時代を忘れるな、裏は赤化統一が最終目的であることを忘れないように、という願いを込めての贈り物だろう。

 

 驚いたのは、重さ8tもあるという石の置物だ。在中国朝鮮人からのもので、玉が入っている自然石をピカピカに磨いてある。「中国で一番大きいものを贈りたいといって探し出したもの」だそうだが、運ぶのに大変だっただろうと、余分な心配をした。

 

 続いて案内された3階は、各国別に分けられている。中国コーナーは、やはり大きいものが多く、実物に近い大きさの虎の置物や、虎に金正日がまたがったものなど、虎は勇気を象徴する動物のようで、このほかにもいくつかあった。

 

 韓国歴代大統領の贈り物も

 

 「南朝鮮」コーナーには、歴代大統領からのものを順番に並べてある。朴正煕は螺鈿細工の文具、金大中は、慶州にある世界一大きいという梵鐘、エミレの鐘の小型レプリカ、盧武鉉は八つ折りの螺鈿の屏風などだ。また、2000年の初の南北首脳会談を記念した金正日、金大中の肖像画を文字盤に焼き付けた大時計もいくつかあった。

 

 それに、韓国の財閥企業が贈った最先端の製品も多い。中には「世界最新の技術で作った電子製品」というなんだか分からないものもあったが、10年も経ってしまえば、おそらく何の役にも立たない。金大中、盧武鉉政権の「対北融和」の時代に贈られたものが多く、北への企業進出などの思惑があってのことだろう。

 

 このほか、済州島の民間団体が贈った1mほどの石のトルハルバンというほほえましいのもあった。また、北出身で韓国で大成功した家具製造業者が贈った豪華なしつらえの大ぶりの応接セットもいくつか飾ってある。

 

 在日からのものは、総連幹部や総連支部からのものがほとんどで、金日成、金正日の肖像画や刺繍、陶磁器や置物などだ。住んでいる場所の風土に影響されるのか、中国からのものはやたらに大きさを競うものが多く、日本からはおおむねおとなしく、小柄なものが多かった。

 

 アフリカのセネガル在住朝鮮人からのペン立てなど石製の文具は、金日成が生前使っていたものという説明があった。

 

 この後、しばし休憩ということで、4階に案内された。いまはベンチが置いてあり、片隅で飲料水を売っているだけだが「将来ここには、金正恩元帥に対する贈り物を飾る予定になっている」そうだ。

 

 帰国して、建築関係者に説明なしで写真を見せたら、「贈り物展示館」を指差して「これが唯一しっかりした建物」と言った。神格化のためにはカネに糸目をつけない一つの例がここにもある。

 

 北朝鮮は「強盛国家」のうち、思想大国、軍事大国は達成したと公言したが「革命の首脳部」に対する忠誠は、これでいいということにはならないようだ。次々と、人々が忠誠を現す具体的な崇拝の対象を作り出す。

 

 代変わりの時には、忠誠をつなぎ止め、継承するため、神格化がさらに激しく行われる。昨年末からの金正日の哀悼行事、4月の金日成の生誕百周年の記念行事が終わっても、一段落ではないようだ。そのために使われる資金や資材、人力は途方もないものだろう。

今回の1週間の旅行でも、そうした統治のあり方を街のあちこちで見かけることができた。  (続く)

万寿台に立つ銅像は二人になった

万寿台創作社構内にある二人の乗馬姿


街頭には二人が並んだ大パネル

アリラン祭の肖像画


アリラン祭の人文字「金日成、金正日朝鮮の次世代に明るい未来があるように」

朝鮮民族からのプレゼントを集めた「国家贈り物展示館」=平壌郊外


更新日:2022年6月24日