相変わらずの「口撃」外交

岡林弘志

(2012.6.28)

 

北朝鮮が、連日のように韓国、日本、米国非難を続けている。かねて北朝鮮は日米韓を非難することで、内部結束を図り、周辺国からの支援を獲得する手を使ってきた。若い金正恩体制になっても、悪口を言わないと成り立たない体質に変化はないようだ。というよりより過激になっている。それにしても、連日のように外国の悪口を言う国は珍しい。

 

米韓演習などに危機感

 

「米国こそ、停戦協定に乱暴に違反し、わが共和国に反対する武力の増強と核戦争挑発策動を露骨に強行して……」(6・27朝鮮中央通信)

朝鮮戦争ぼっ発から62年の6・25を前後して、北朝鮮は米国非難を繰り返している。

 

あらためて、朝鮮戦争を仕掛けたのは米国だというキャンペーンとともに、米韓合同軍事演習に対する反発を強めている。「米国がわが共和国の自主権と尊厳を蹂躙する重大な挑発行為をまたもや強行した」(6・24北朝鮮外務省代弁人談話)というわけだ。

 

気に障ったのは「史上最大の合同演習で、あえてわれわれの共和国旗を標的に」したことのようだ。どんな場面か知らないが、多分そうした映像が韓国のテレビで放送されたのだろう。

 

このところ、米韓それに日本も加えた演習が続いている。日米韓の合同海上演習(6.21‐22)、過去最大規模の米韓合同戦闘訓練(6.22)、米空母「ジョージ・ワシントン」が参加した黄海での合同海上訓練(6.23‐25)……。いずれも、北朝鮮の砲撃やミサイル発射実験などをきっかけに、軍事挑発に備えたものだ。

 

また、「朝鮮平和擁護全国民族委員会」というところも、6月22日に談話を出している。これは米韓、日米韓の演習に米空母が参加すること、韓国が米国から最新装備を購入しミサイルの射程を延ばすことなどに、神経をいらだたせている。

 

「核開発を続けるぞ」

 

6・25当日は、朝鮮戦争勝利記念館の学術研究部副部長のインタビューを発信(朝鮮中央通信)、「米帝が武力侵攻を開始した」と従来の北の公式見解を示した。その上で「第2の朝鮮戦争の導火線に火をつけるなら、より大きな惨敗を喫することになる」と警告している。

 

北の非難内容は相変わらず、米国は敵視政策を続け、北朝鮮を抹殺しようとしている。とくに強調したいのは、「敵視政策が続く限り、われわれは自衛的な核抑止力をさらに強化するであろう」ということのようだ。米国が北朝鮮との関係改善を進めなければ、米国が嫌がる核・ミサイル開発を進めるぞ、という脅しである。こうした内容の非難を各機関が争って発表している。

 

「民族を裏切った保守マスコミは将来を期待するな」(6.21朝鮮中央通信)

もちろん、韓国非難も相変わらず、「保守マスコミ」に対する攻撃予告も続いている。「謀略と悪口の牙城を一挙に撃滅」と、かつての脅しを繰り返している。

 

李明博政権に対しても、米国非難の部分に必ず「かいらい一味」「李明博逆徒一味」を付け加えている。朝鮮中央通信や外務省などのそれぞれ米国、韓国部門が競って非難合戦を展開しているのだろう。

 

「標準時」の強要で日本非難

 

日本に対しても、相変わらずだ。朝鮮中央通信論評は「核武装化、軍事大国化を合法化した犯罪行為」(6.25)と非難した。何のことかと思ったら、原子力基本法の附則に「国家の安全保障に寄与する」という文言を付け加えたこと、宇宙開発関連法の「平和目的」を変更したことを取り上げている。

 

日本の新聞からの引用だろうが、北当局が日本のメディアの熱心な購読者、視聴者であることがよくわかる。それに、よく“勉強”もしているようだ。

 

「日帝が朝鮮の標準時を強盗さながらに奪ったときから100年が経った」(6・25朝鮮中央通信)

この論評も何事かと思ったら、植民地時代の1912年に全朝鮮地域を、日本の標準時に合わせたということだそうだ。

 

知らなかったが、論評によると、1884年から朝鮮は、東経127度30分を基準に標準時を使っていたそうだ。日本は明石付近の135度が基準だから、30分ぐらい違ったのか。「民族精神を抹殺し、皇国臣民化」、「朝鮮を永久に植民地にするため」だったという。

 

それだけ屈辱的なことだったら、もとに戻せばいい。植民地支配が終わってすでに67年も経つ。標準時変更の手続きがどうなっているか知らないが、ソ連や米国には国内にいくつも標準時がある。変更はそう難しくないはずだ。少なくとも「日本海」を「東海」と改称するよりはるかに簡単だろう。誰も反対はしない。

 

非難、「口撃」が習い性に

 

目の前に現れてきたものには、何でもかんでもいちゃもんをつける。なければどこかから探してくる。とくに、南北関係を見ていると、自分の方から挑発して、韓国が反応すると、それに何倍化して反発する。その繰り返しだ。

 

外交の基本は信頼醸成だが、この国はおよそこうした常識からは遠い。反対に、脅して要求をのませる手法をとり続けてきた。「恫喝外交」「瀬戸際外交」である。

 

歴史を見ると、独裁国家は必ずそうなる。自らが唯一正しく、抜きん、でると思いこんでいれば、譲歩することはない。譲歩は敗北、不正義だ。北朝鮮はこうした外交が習い性になっている。権力者が代わっても「遺訓統治」を宣言した以上、これまでのやり方を変えようもない。非難を止めろと言えば、軟弱のそしりを受け排除されるだけだ。

 

軍事挑発は危険が大きい?

 

北朝鮮は、金正日末期の2010年、韓国哨戒艦沈没、延坪島砲撃など軍事挑発を行った。その後も李明博政権の対北政策に変更がないのに業を煮やした北朝鮮は、これまでないほどの非難、「口撃」を繰り返している。金正恩体制に変わった今年前半も、戦争前夜とはこうかとも思わせるほどの激しい表現を使っての非難ぶりだ。常套語が多く、いささか陳腐であるが。

 

しかし、実際の行動は今のところ、起こしていない。いくつかの理由がありそうだが、一つは、権力世襲の真っ最中で、乱暴な行動に出る余裕がないという内部事情のため。

 

また延坪島砲撃の後、韓国内には、微温的だった反撃に強い批判が出ており、もう一度攻撃を受けた場合、強硬な反撃に踏み切らざるを得ない。米韓軍事演習も規模、レベルをあげ、北朝鮮には脅威に映っている。国際世論も厳しくなるはずで、これが北に対する抑止力になっている。

 

もう一つ、中国の圧力も感じる。4月20‐24日、北の金永日書記が訪中し、胡錦禱主席と会談した。この時、胡錦禱はミサイル発射(4.13)に不快感を示すとともに、核実験について非常に厳しく諌めたようだ。

 

同時に、韓国に対する延坪島砲撃のような軍事挑発は許さない意向を厳しく伝えたという情報がある。再び北が軍事行動を起こせば、韓国のこれまで以上の反撃は必至とみても判断だろう。朝鮮半島の不安定化は、中国のもっとも忌むべきことだ。

 

非難合戦も忠誠競争のうち

 

かくして今のところ、北朝鮮はもっぱら言葉による攻撃で我慢せざるを得ない。そんな中で、各界各部門の機関が忠誠を競うために、より激しく口汚い表現の競争をしているように見える。こんな非生産的な競争は止めようと言えないのが、独裁体制の体質だ。

更新日:2022年6月24日