戦争か自滅か

洪熒 佐藤勝巳

(2013.3.10)

 

戦争は始まっている

 

佐藤 金正恩政権がサイバー攻撃で戦争を仕掛けました。これは間違いなく戦争なのに、韓国では「戦争」と捉えている人は少ないようで、大統領をはじめ緊張感が見られず、日本の政治上層部も緊張感は皆無と思われます。北は、自分たちの挑発が馬鹿にされたと思ったのか、特別声明を通じて「南北は戦時状況に入った」(3月30日)と宣布しました。

 

 そして寧辺核施設の再稼動です。いずれにせよ、今度の暴走は前例にない異常な状態です。私は、平壌の金氏王朝の絶望感の反映だと見ますが、ソウルを取材したホン教授はどう見ていますか。

 

内部矛盾の反映

 

 北の悪辣で執拗なサイバー攻撃や挑発は明白な戦争行為だから、報復して当然です。まずは、誰がこの戦争局面への挑発を主導し、その狙い(目標)は何かを見ておく必要があると思います。

 

 この戦争を主導しているのは、どうも金正恩の摂政たちの中で実力第1と見られてきた張成沢ではなく、偵察総局など軍のようです。その軍隊は戦争が出来るのか、補給や士気には問題がないのか。問題大ありです。

 

 北側自身も、軍事的には韓・米連合軍に勝てる確信など持っていない筈です。金氏王朝は、彼らの体制維持に必要なものを南からせびり取り、そして米国が、北を核保有国であることを認めれば、戦争云々と騒ぐ必要はありません。

 

 つまり、今回の「戦時状況突入」は、金氏王朝が絶体絶命の窮地からの脱出を図る手段です。もはやこれしか残っていないことの現れなのです。だから今、金正恩にできることは、北が本気で戦争を辞さないと韓国と米国に思わせることでしょう。要するに、韓国や米国が軍事衝突を避けるために折れてくれたら、北側は政治戦争に勝利することになります。韓・米が絶対折れる筈がないからチキンゲームです。

 

 だが、この「危機状況」を通じて平壌側は、図らずも彼らの致命的な弱点を曝け出しました。それは「1号戦闘勤務」態勢の命令です。今まで聞きなれていない「1号戦闘勤務」態勢の「1号」とは、金日成と金正日の銅像や肖像画など金氏王朝の偶像物を指すもののようです。北の全域に3万8000個以上といわれる銅像などをはじめ、特に、金日成と金正日のミイラが安置されている錦繍山太陽宮殿などの「1号」を韓国側の(報復)攻撃から死守しろということです。この神格化こそ、今度の危機の本質であり、韓半島の不安と悲劇の根源がよく分かる反応です。

 

佐藤 北が抱えている物質的矛盾と言えば、ハイパーインフレですね。金正恩が主導して人民のお金を無償で没収、いや強奪した「通貨交換」から3年が経過しました。専門家花房征夫氏に教えてもらったのですが、コメなど物価は、ここ3年間で500倍、ドルレートで300倍、人民元でも250倍とウォンの価値が大暴落、物価は暴騰で、カントリーリスクは世界最下位ということです。北の貨幣は完全に価値を失い、中国元、米ドルでないと事実上通用しなくなっている、という深刻な事態です。通貨面に限定して言うなら、中国や米国の植民地ということですね。もはや主権国家としての態をなしていない滅茶苦茶な破綻状態ですね。

 

正当な対応の回避が限りない挑発を誘発

 

洪 今年は北が破棄を宣言した「停戦協定」から60年になりますが、韓半島から暴圧と悪の北政権を除去するとき、避けて通れない最後の過程が「戦争」だと思います。李明博政権も金大中・盧武鉉の政策を引き継ぎ、開城工団に5万余の北韓労働者に賃金(ドル)を支払う方法で、平壌側を助けてきました。金正恩らは、その労働者の賃金をピンハネして、核ミサイルの開発をおこなってきたのが真実です。なぜこんなバカな政策を改めないのかと言えば、摩擦の回避であり、暴力への屈服です。

 

 しかし、お金で平和を買い、摩擦を避けたにもかかわらず、戦争は始まりました。李明博大統領は、金氏王朝の暴走を恐れて開城工団をより活性化させました。重大な誤りです。朴槿恵政権もこの危機の最中に、「南北信頼プロセス」を云々して常識人たちを仰天させました。

 

売国奴池口僧侶

 

佐藤 問題を直視せず回避する態度は、韓国だけでなく、日本もアメリカも本質的には同じです。あんなインチキな6者協議は「詐欺だ」とわれわれは2回目の核実験のときから指摘したのに無視して延々とやってきたではないですか。結局、朝鮮労働党の意見に暴力で従わせるという「本質」を、当事者である韓国までも、盧泰愚政権以来、見誤ってきたのです。援助をすることで北を国際社会に引き出す(自民党加藤紘一元幹事長発言)などといった馬鹿な発言は、第一次安倍政権成立来影を潜めましたが、重油は出しませんでしたが、国際的詐欺の6者協議の片棒を担いできました。

 

 挙句3回も核実験され「核で皆殺しにするぞ」と韓・米・日が北に脅迫されています。米国、韓国、中国、ロシア、日本が北を見誤った結果です。この国の指導者は国民に対して責任を取るべきです。こんなとき北の最高幹部に頼まれたからといって総聯中央本部を45億円で落札し総聯に貸してもよい、などというとんでもない売国僧侶が日本に現れました。

 

 平壌から過去に勲章をもらったと言われる僧侶池口恵観氏は、この措置が、平和や日朝の関係改善につなげたいと言っていますが、関係改善に結び付けたいなら、あの建物を貸してやるから、「拉致した日本人全員を帰せ、そうしないと建物は貸さない」と言うのが筋です。総聯は戦後ここ日本で「脱税」「拉致の手引き」など悪の限りをつくした。冗談ではない。総聯が活動拠点を失うことが国益に合致するのです。池口氏が主観的に何と考えようが、客観的には売国的行為であることは間違いありません。安倍晋三総理も池口氏と知り合いらしいが、賃貸借を中止させるべきです。それとも彼を通じて何か拉致で裏引をやっているのか。

 

 国連は北に対して贅沢品の輸出をも禁じているのに、韓国は開城工団で敵に塩を送り、日本は金氏王朝の謀略拠点である朝総聯中央本部土地・建物の競売でも平壌側の工作を許している。核ミサイルで韓国と日本を「火の海にするぞ」と脅迫している「ならず者国家」に依頼された人が落札するのを、なぜ日本政府は認めるのか。これが法治なのか。自由を破壊するテロ集団を助けている。結局、北の戦争も辞さないという恫喝戦術に、韓国も米国も日本も折れるのかと思うと、愚かというより卑怯です。いや、無責任の一言につきます。

 

佐藤 北がヒステリックに騒いでいるのは、ホンさんが先ほど触れましたが、金正恩政権の土台が崩れて「座して死ぬか、挑発して延命を図るか」という状況に追い込まれているからです。もう一つの変化は、2月の核実験前後から、中国の態度が変わったことです。 中国が米・韓・日が強力に推進した国連の北韓制裁決議に同調したことです。これは非常に大きな要因だと思います。

 

中国の読み違い

 

 中・朝間の貿易物資の検査が強化されていますから、不協和音が顕在化してきています。平壌側のダメージ感は大きいと思います。北のテロ集団が今までイランなど西側の敵と連帯することができたのは、何よりも中国の黙認があったからです。中国に見放されるということは、物理的に包囲、封鎖されることを意味します。「建国」以来、北が初めて経験する封鎖を打開するため、どういう手を打つのかが注目されます。アメリカと手を結ぶというシナリオもありますね。

 

佐藤 あまり触れられていないようですが、第1に、中国全土に北の核ミサイルが届くようになったことです。中国の安全にとって、重大かつ深刻な戦略的脅威になり得ます。中国共産党は、いままで覇権並びに大国主義の立場から、北朝鮮を一貫して利用してきました。ところが、もはや核ミサイルの実験を3回され、昔の中・ソ関係のように、もし北との関係が険悪になれば、中国の安全が脅かされますから、国連決議に賛成したのです。

 

 中国共産党幹部にとって「飼い犬に手を噛まれた」という思いと、金氏王朝の存続は中国の戦略的立場を損なう、ということを認めざるを得なくなったのです。

 

 特に日・米の軍事対応の強化は、そのまま中国への圧力になります。多分、中国共産党内で北への政策を根本的に見直そうという深刻な議論が始まったと思われます。金正恩体制に見切りをつけ、別の親中政権を建てるという論議が進んでいると思います。ここにきて中国の誤判断が明らかになった、というのが真相です。中国に責任を取ってもらわなければならない。北が、核戦争辞さずと騒いでいるのに、中国は、何も言っていません。やれるものならやってみろ、ということなのか。不気味ですね。

 

血が流れることは避けがたい

 

 全体主義暴圧体制は国民を暴力で抑えます。その典型が、政治犯強制収容所の存在です。恐怖政治が基本ですから「平和的」政権交代などあり得ません。体制が崩れるときは、必ず「暴力」が伴います。その暴力が、内と外で同時並行に進行しているのが、昨今の北韓をめぐる状況です。

 

 金正恩がやっているのは、テロリズムの小国が大国や国際社会に向けて、国際ルールを自分が変えるから認めろ、ということです。韓・日の内部にも北の手先はいますが、今は北の「核戦争も辞さず」という言動をさすがに公然と支持することは出来ません。

 

 米国は、局地紛争でも韓・米が共同で対応する作戦計画を発表することで同盟国を安心させ、平壌を抑止し、中国を牽制する措置を取っていますが、北のレジームチェンジにまで踏み切る姿勢は見られません。もちろん、米国は北の(国連との)停戦協定破棄や核保有を認めるわけにはいきません。ですから財政難の折から苦しいところです。

 

 韓国は、米国が韓国の頭越しに北と妥協するのは到底許せません。一方、朴槿恵大統領の宥和的で親中的姿勢が、米国の思い切った対応にブレーキかけられている複雑な側面も指摘せざるを得ません。多くの人々が口先だけで平和を強調しますが、イラクやアフガンなどを見ればわかるように、テロとの戦いの決定的局面は軍事力で決着をつけてきたのが現実の歴史です。現に、悪の方が最後のあがきで戦争を仕掛けてきているではありませんか。

 

 韓半島で68年間も続いた全体主義暴圧体制が倒れるのは、そう遠くありません。そのとき最後の抵抗を抑えるため、韓国に非常戒厳令が敷かれます。韓国国内の従北勢力も一掃されるでしょう。情勢は一変します。

 

朝中を交戦させる

 

佐藤 とうとう来たかという感じで、身が引き締まります。朝・中関係に最大の関心がもたれます。本欄でしばしば指摘してきましたが、中国共産党から見た北は、チベット同然の「核心的利益」という帝国主義の勝手な位置づけです。情勢如何では、「国益擁護」と言うことで中国軍の戦車が北に入る可能性は否定できません。

 

 金正恩は、アメリカと戦争をするか、中国とやるか、身を護るために誰と手を結ぶのか、情勢は複雑です。中・朝を戦わせるのがわれわれの当面の目標(戦術)でしょう。そのためには、敵の挑発に答えて、北を解放するとの勢いを見せれば、中国は、北に戦車を入れざるを得ません。ひよってはならないのです。危機の裏には、独裁体制を倒すチャンスありです。拉致の救出はそれからです。

更新日:2022年6月24日