朝鮮高校への授業料援助に強く反対する(上)

対談 洪熒・佐藤勝巳

(2010. 8.27)

 

佐藤 民主党菅政権が、高校授業料無償化の一環として総聯の朝鮮高校生へ授業料を支援するという動きを続けていますが、洪さんどう見ていますか。

 

 民主党政権がなぜそういう発想をするのか、私の方が逆に聞きたいです。

 

自虐歴史観

佐藤 時代によって違いますが、朝鮮高校授業料援助問題の背後には、「戦後の民主主義教育」が日本近代史を悪だと規定し、全否定してきた経緯があります。そういう歴史観を持つ仙谷由人氏が官房長官ですから、朝鮮高校生の授業料を支援すべし、という発想は当然生まれます。植民地統治に対する「贖罪意識」は、一見「良心的」のように見えますが、歴史の評価は当時の国際関係とその時の価値観で判断すべきものです。現在の価値観で過去を振り返り「謝罪」など非科学的で、ナンセンスな歴史認識です。従って朝鮮高校生への授業料援助など100%誤りの政策です。

 

 朝鮮高校の授業料援助問題に対して産経新聞以外のメディアはほとんど報道しませんが、第一線で取材している記者達もその「贖罪意識」に影響されているのでしょうか。

 

胡散臭いから触らない

佐藤 仙谷氏は1970年の「安保闘争」のとき、東大の学生で、安田講堂籠城組です。「贖罪意識」はあの世代が最初で最後でしょう。若い記者と付き合いがないから分かりませんが、「贖罪意識」とは無縁ではないかと思われます。記者たちが、朝鮮高校の授業料支援問題に関心を持たないのは、そもそもメディア各社の社内で、韓半島問題がマイナーで、在日朝鮮人高校生の授業料支援問題はさらにマイナーで、そのうえ胡散臭い。触らない方がよい、というのが現実に近いのではないかと思います。

 

「民族主義の扇動と欺瞞」

 総聯は彼らが持っている学校を「民族学校」と呼んでいますが、私は「民族」・「民族主義」という言葉に拒否感を覚えます。民族主義は非常に注意をし、管理すべき劇薬のようなものだと思っています。民族と種族の区分が難しいこともあり、民族を強調するために、決まって他者を侮蔑・差別することになります。だから民族主義が望ましい方向に機能した例は稀です。特に、全体主義暴君や独裁勢力が民族主義を打ち出す時は周辺国に破滅的な災いを及ぼします。

 20世紀の歴史の中で、ヒットラー、スターリン、毛沢東、金日成などが全体主義・独裁体制の確立や侵略・支配に民族主義を利用した代表的事例です。

 韓国でも「民族」や「民族主義」という言葉がよく使われていますが、金正日暴圧体制を助けるためにこの言葉を使う者が多いです。金日成・金正日王朝は、韓半島の赤化工作に「民族」・「民族主義」という用語を巧みに使ってきました。ところが、金正日は1990年代半ば以降300万人以上の住民を餓死させています。自分が治める民を大量虐殺する奴が民族を云々するのは厚顔・無知以外の何ものでもありません。この一事をもっても暴君たちのいう民族主義の欺瞞が分かります。

 しかし、根本的問題は、全体主義や暴圧勢力の「民族主義」を利用した悪のプロパガンダに多くの人々が簡単に騙されることです。果たして「民族」とは最高の価値になり得るのか。「韓民族」は、同じ民族なのに、価値観・イデオロギーが異なったため「6、25南侵戦争」を闘ったし、今も自由と独裁、真実と嘘、善と悪の理念的戦いが続いています。

 この熾烈な現実を無視、否定して観念的な民族・民族主義を扇動するのは悪魔的欺瞞であり、自由民主主義の敵です。騙す者はもちろん悪いが、騙される側にも自己学習不足の責任があります。

 朝総聯は平壌の指令によって金日成・金正日一族の暴政を神格化して「民族学校」という名で子供たちを洗脳しています。これは幼い魂に精神的な青酸カリを飲ませるのと同じです。

 

佐藤 日本人で朝鮮半島問題の専門家たちも、総聯の学校について知っている人は非常に少ない。総聯なる組織が何をやっているのか、極端に秘密主義の団体ですから、取材も容易ではなく、殆どの日本人は知りませんね。

 

朝総連という閉鎖的生態系

 そもそもあの学校はなぜ存在するのか。確か、朝総連側は1960年代や70年代の中頃まで学生数を3万6000とか、4万とか発表したことがあります。実は、あの数字は、総聯の組織員30万人を維持するために必要な生徒数なのです。

 朝総連は根本的に自給自足の閉鎖的組織を目指してきました。自ら築き上げた一種のゲットー(ghetto)の中に引き籠っているようなものと言えるでしょう。そして「民族教育」こそ朝総連組織員を「民族の檻」の中に閉じ込めておくための基本装置でした。

 30万人以上の組織を維持するためには後継勢力を育成せねばならず、そのため4万人前後の子どもを教育するためには、約2000人の教師が必要です。教師を養成するためには、何百名の朝鮮大学生が必要で、どれくらいの資金が必要だから、商工人教育と税金対策が必要と言うような生態系が出来上がったのです。

 ただ、元々無理だったこの閉鎖的生態系は生存環境の激変によってこれ以上存続できなくなった。もっとも、朝総連は日々減少する組織衰退のため組織因数も、学生数も発表しなくなりました。

 

労働党支配下の「民族学校」

佐藤 この生態系が自然発生的に生まれたものかといえば、そんなことはありません。総聯の中に朝鮮労働党の非合法組織「学習組」(がくしゅうぐみ)が出来たのは、在日朝鮮人の北朝鮮への帰国運動が始まった1958年です(総聯の大幹部から直接聞いている)。当時「学習組」の責任者は故・韓徳銖議長です。平壌の朝鮮労働党が、学習組の責任者に闘争目標、獲得目標などを指示して来ます。

 総聯組織は大衆団体ですから、色々な考えを持った人がいます。それを裏で指導してきたのが、党員(「学習組」)です。学校を運営する理事の中にも教師の中にも党員がいます。彼らは、上部から与えられる教科書を使い、党組織の命令で動いています。あの学校は正真正銘朝鮮労働党の指導下にある学校です。総聯は総聯組織とは「直接関係が無い」と強弁するが、毎年総聯の最も重要な課題は、朝鮮学校への「学生の引き込み事業」でした。第一金日成も金正日も毎年朝鮮学校に「教育資金」を送金してきています。

 

反逆者を「偉大な指導者」と教える

 日本が問題にすべきは、朝鮮労働党があの学校をどう位置づけているのか、です。誰もあまり触れようとしませんが、朝鮮学校は要するに金日成・金正日を偉大な指導者と教えています。

 そもそも教育とは科学的真実や良い分別力などを教え培うものでしょう。金日成・金正日王朝の「首領論」は、民は思考能力を持たない首領の手足に過ぎないことを信じるように強いています。文明社会ではあり得ない、とんでもないことを教えている洗脳教育機関です。

 総聯は「民族教育」を主張するが、教科書や辞書までが金日成・金正日の「偉大性」を教育しています。20世紀最大の失敗国家、工作国家、テロ国家を作り上げたのが金日成・金正日です。「民族」への反逆者、虐殺者を、朝鮮学校では「偉大な指導者」と教えているところです。誰もが分かる歴史的な事実を捏造して教え、犯罪と不義を正しいと教える。善と悪の判断力を麻痺させる教育を行なっています。

 朝総聯の教育関係者は、50年前に北を楽園だと騙して同族を生き地獄へ送ったのと同じ犯罪を裁かれる日が遠くないと思います。虐殺者や反逆者を偉大な指導者と教えている学校の生徒の授業料を日本政府が援助する事態は、想像もしたくありません。

 駐韓国連軍の後方基地である「普天間基地」問題に加えて、民主党政権が韓国の破壊を誓っている朝総聯や朝鮮学校を支援すれば、韓国の愛国保守にとって民主党政権を反韓政権と断定せざるを得ません(つづく)。

更新日:2022年6月24日