北、100年植民地からの解放を(下)

対談・洪熒・佐藤勝巳

(2010. 3.26)

 

ソウル五輪が勝負を決めた

佐藤 南北の優劣が決定的になったのが、1988年のソウル五輪でした。金日成・金正日政権は、五輪が成功したら大変なことになると怯え、大韓航空機を爆破するというとんでもないテロを実行しました。だが、ソ連をはじめとする東欧の社会主義圏は北朝鮮の思惑に反して、ソウル五輪に参加。その結果、北の虚偽宣伝や社会主義が歴史の発展にかなっているという自己催眠であったことを突きつけられ、これらの国は、一斉に韓国との修交を進めました。これは平壌の金氏王朝にとって深刻な脅威でした。

 

 彼らにしてみれば、アメリカ帝国主義や日本の植民地だったはずのソウルで、五輪が成功したわけですから、これは大変なことです。「朝鮮労働党」はあらゆることを政治的利害で判断します。従って政治的敗北は明白でした。

 先ほども触れましたが、北の宗主国・ソ連が韓国との修交交渉を始めると、北はそれまで「二つの朝鮮に繋がる」とかたくなに日朝交渉を拒んでいたのに、1990年9月、あわてて日本から自民党の金丸信氏をピョンヤンに呼んで、日朝関係を正常化しようと提案しました。この背景には、ソ連に次いで、もう一つの宗主国・中国との国交樹立が目前に迫っていたからです。

 「ーつの朝鮮」を主張してきた金日成の赤化攻勢はこの時点で敗北が明らかになったのです。韓国が北に対して決定的攻めに転じることが出来たのと、自由民主主義が共産主義を崩壊に追い込んだ最後の一撃という点で、ソウル五輪は歴史的なものでした。

 

朝鮮信用組合に1兆4000億円の公的資金

佐藤 日本では1945年から1968年までは金日成政権との窓口は日本共産党でした。金日成の個人神格化、北の武力統一などをめぐり対立、1970年から1990年までは北は、日本社会党に乗り換えました。この二つの政党は社会主義実現を目指すということでは、朝鮮労働党とイデオロギー的方向性が一致していました。しかし野党ですから、日本国民の税金を動かすことは出来ませんでした。それで平壌は社会党の田辺誠氏を使って、自民党工作に心血を注ぐようになります。

 1990年9月、ついに金日成は自民党金丸信氏の訪朝を通じて日帝反動であるはずの自民党も含めた「三党共同宣言」を出します。以来、自民党政権から累計で150万トンものコメをだましとることに成功しています。

 最大の問題は、2002年3月小泉純一郎内閣は破綻(はたん)した総聯所有の朝鮮信用組合に総額1兆4000億円の公的資金(税金)を投入し救済したことでした。当時の金融庁は「法律に基づいて執行した」と強弁しましたが、問題は破綻の理由です。総聯中央元財政部副部長韓光煕氏は、平壌の「金氏王朝」による総聯収奪の犯罪的一端を次のように暴露・告白しています。

 

 「日本から北朝鮮に送られる巨額資金の供給源は朝銀である。朝銀の裏口座に貯えられた カネは現金で引き出され、新潟港に停泊する万景峰号に積み込まれて北朝鮮に運ばれる。自分もそのようにして30億円以上のカネを運んだ。そのようにして北朝鮮に運ばれたカネは、自分が把握しているだけでも200億~300億円にのぼる」(評論家野村旗守氏のネットより)と述べています。

 

 しかし、現代コリア研究所は、朝鮮信用組合から北にカネが流れている事実を前から知っていました。政府に対して、資金の流れを徹底的に追及せよと雑誌に書くだけではなく、直接金融庁を訪ねて要求し、自民党、民主党の国会議員に働きかけ、議連を作り国会でも追及するなどしましたが、結局、真相と責任が解明されないまま1兆4000億円の税金で、金正日政権の財政を支えてきた総聯組織、朝鮮信用組合を救済したのです。

 民主党政権は過去の日米秘密文書を暴くことに力を注いでいますが、私は、8年前のこの不明朗な癒着関係を切開し、金正日政権の核を抑止し、拉致を解決することこそ緊急にやらなければならない問題だと考えています。なぜなら、過去に散々指摘してきましたが、金正日政権の開発している核爆弾、ミサイルの原材料や技術、資金の多くは日本から調達されていたからです。その核ミサイルに今、日本と東アジアが脅威に晒されている現状を考えると、日本政府の北朝鮮政策は正気の沙汰ではありません。

 

スターリン主義の変種

 人類が営んできた国家権力に独裁や強制性は付き物かも知れませんが、スターリン主義の共産独裁は、「平等」という善をイデオロギーとして独裁を正当化しました。だが、政治犯収容所に象徴される暴力は、20世紀最大の政治災害です。ソ連邦は消滅しましたが、「スターリン主義の変種」やその植民地は未だ残っています。

 人間を餓死させる失敗した悪の体制に人間を閉じ込めておくのは、植民地よりも悪いことです。北の人民自身が、日帝の植民地時代の方が今よりはるかにましだと言っています。

 

佐藤 日本は1965年、日韓基本条約を締結し、アメリカと一緒になって共産主義と対決してきたことになっていますが、その実態は岩波書店の雑誌『世界』に代表されるように親金日成、「韓国からの通信」に見られる反朴正熙で、朝日新聞と一緒になって、日本の世論を間違った方向に導いてきました。日本教職員組合や自治労の中には「主体思想研究会」がいまだに存在しています。

 このような政治的・社会的雰囲気が牢固として存在していたから、1990年の金丸訪朝以降も、金日成・金正日に騙され続け、彼らの政権延命策と核ミサイル開発に容易に利用されてきたのです。安倍晋三政権後約3年間は騙されなかったが、後は、金日成・金正日政権を支援し続けてきたという恥ずべき歴史であったと言わざるをえません。

 戦後65年間の自民党・民主党、マスコミの金正日政権認識は、凶悪なテロ政権であり、打倒の対象と思っていないことでは、不幸なことですが共通しています。だから、核も拉致も解決できないでいるのです。 

 

中国覇権主義との戦い

 韓半島が日本の植民地から解放されてから4ヵ月後の1945年12月、モスクワで米・英・ソの外相が韓半島を信託統治すると決定したとき、平壌や在日の朝鮮人連盟、そして全世界の左翼は、スターリンの指令でこれを支持しました。共産主義をもって国民国家の建設を試みた国々はスターリン主義の植民地でした。韓半島は、東西冷戦時代から自由民主主義の海洋勢力と共産独裁の大陸勢力という二つの巨大なプレート(板)が衝突する先端でした。

 アジアでは、スターリン主義の植民地として出現したその変種の国々との冷戦が続いています。特に中国共産党は市場経済を借りて共産独裁の延命と覇権を求めながら、社会主義として失敗した国家の標本です。また、スターリン主義の最悪の変種である平壌の「金氏王朝」を延命させて自分の植民地にしようとしています。中国は平壌の新しい宗主国としての地位を固めるため「6者協議」というペテン劇を続けています。

 韓半島の北半分は、封建的朝鮮王朝から日本の植民地を経て、より悲惨なスターリン主義の植民地として100年も続く奴隷状況から解放されねばなりません。韓国の未来はこの植民地解放闘争にかかっています。植民地の北を解放する闘争で韓国と共に戦うのが韓国の同盟です。韓国の植民地解放努力を妨害するものは、韓民族と自由の敵です。

 アメリカはさて置き、日本はこの戦いにどう臨むのでしょうか。

 

あまりにも稚拙すぎる

佐藤 民主党政権はこの半年で、不幸にして推定通り、中国や金正日政権に、呆れたほどに甘く、逆にアメリカは沖縄から出て行けと首相が主張しているのですから、話になりません。

 金正日政権の崩壊が目の前に迫っているのに、外国人地方参政権とか、朝鮮高校生の授業料援助など信じがたいことを口にしています。津波が目の前に迫ってきているのにそれが見えない。だから対策は一切立てていない。この政権は韓半島のことなど何も考えてもいませんし、普天間問題をはじめ、経済などすべてのことが余りにも稚拙すぎます。鳩山氏が首相でおれるのは5月まででしょうが、しかし、その先、何も見えていないところが苦しいところです。

更新日:2022年6月24日