自由民主主義革命つづく韓半島

対談 洪熒・佐藤勝巳

(2008.12.26)

 

李明博大統領の北認識の甘さ

佐藤 昨年韓国の大統領選挙が終わった直後、洪さんと対談して1年が経過しました。この間の最大のショックは、金融危機から経済恐慌に突入したかに見える事件ですが、色々のところで議論されています。われわれには専門外のことですので、この激動を念頭に置きながら、この1年をふり返って議論をしてみたいと思います。洪さんはどんなふうに見ておられますか。

 韓半島に即して言いますと、金正日の健康悪化と金融危機が同時に来たことですね。ただ、愉快でなかったことは、今回の金融危機はアメリカに責任があるのに、「韓国が危ない」という話が流布されたことです。

 韓国は欧米の先進国と違って、金融システム、経営手法などで、まだまだ色々未熟な問題を抱えていたところに、今回の事件に遭遇したため、打撃を受けました。特に短期の資金を日本や中国などから調達し、国内に長期の貸し出しをやったため、今回の金融危機で、カネを貸すところが激減、返済できなくなるのではないかという懸念が出ました。

佐藤 短期で借りた金を長期に貸し出すということは危険なやり方で、基本的には自転車操業ですから、止まったら倒れます。しかし、困難は韓国だけではありませんから、世界の英知を集めて難局を乗り越える以外ないと思っています。

 ところで李明博大統領になって1年近くが経過したが、洪さんから見てどんなご感想ですか。

 昨年の大統領選挙は、李明博か鄭東泳のどちらを選ぶかでした。韓国民はより悪くない李明博氏を大統領に選んだということです。有権者の立場からすれば、もっと望ましい大統領を期待したのですが、それは5年後の話です。

 李明博大統領は、企業家として利益を追求してきた人ですから、金儲けには有能だったかもしれません。だが大統領として、韓国が生存するためには、韓半島の分断の歴史から来る北韓の金父子独裁体制と対決し、赤化統一を目指す平壌側との厳しい闘争は避けられない、という現実を実感していなかった。というより、学ぼうともしなかったと言える。

 朴正熙大統領は、共産主義に勝つため、目に見える経済発展と平行して、共産独裁との戦いにも死力を尽くして今日の韓国を築いたのですが、李明博大統領は、朴大統領の遺産・業績のなかでも、目に見える経済成長ばかりを見てきたような気がします。

 だから、大統領に当選するや、イデオロギー的対決のための時間やエネルギーを使う必要がない、と発言し、この非現実的安保離れの認識に立って行動したのです。しかし、韓国を赤化併呑するという金正日の究極の目標はまったく変わっていませんから、たちまち問題点が噴出した。

 その一つが、狂牛病問題に端を発した「ロウソクデモ」です。李明博氏は、左派の鄭東泳氏に圧勝して大統領になったにもかかわらず、左翼反逆政権の閣僚を再任し、左翼に牛耳られてきたメディアの幹部を追放しなかった。彼らを温存したことが左翼を元気づけ、その結果、あんなでたらめな狂牛病報道を許すことになってしまったのです。

 金正日の韓国赤化併呑の野望を李明博氏が正確に認識していたら、韓国内の北への「内応勢力」と戦える人材を登用したはずです。北のやり方に無知だったから、盧武鉉政権の残党を使ったのです。

 野蛮な金正日体制は、文字通り「自閉的民族共助」のイデオロギーで韓国社会に臨んできているのに、李明博政権は、前に触れたように最初から独裁体制との戦いを放棄したのです。大統領は「ロウソクデモ」がなぜ起きたのか、理解できなかったと思います。

 狂牛病などで、こんな馬鹿騒ぎをしているのは、左派が握っているマスメディアとの戦いを李明博政権が軽視・放棄したからに他なりません。

 金正日からすれば、昨年の大統領選挙で敗れたから、次の大統領選挙まで右派(李明博)政権を失敗させることに徹底して、再び親北左派政権を樹立する、という戦略をもっています。つまり、そのためには李明博政権を何が何でも傷つけなければならないとの方針をもっているのです。

 

闘わないハンナラ党

佐藤 過去1年をふり返って要約すると、どうなるのでしょうか。

 李明博政権は、常識を尊重する健全な保守勢力の支持で大統領に当選しながら、この健全な常識人の国民を裏切ったということです。

佐藤 そういう言い方もできますが、かつて金泳三大統領が当選してすぐ、いかなる同盟国よりも「民族に勝るものはない」と金日成にラブコールを送ったのに接し、仰天したことが記憶に残っています。政治家である金泳三氏でさえ、金父子政権に対する認識は驚くべき甘さです。金儲けに専念してきた李明博氏は、ある程度やむを得ないのか、という気もします。

 問題は、政治は万国共通、世論で動きます。韓国の自由民主主義勢力が、どれくらい国民を結集できるかどうかにかかっているように思いますが。

 その通りだと思います。今、韓国の現状を見ますと、司法は、左派がそのまま居座っています。国民は、国政選挙で左派の議席を3分の1に減らし、ハンナラ党や保守系に3分の2近くの議席を与えたのに、このハンナラ党は、金正日に対しても、その手先の韓国内の「(憲法に抵抗する)反国家勢力」に対しても戦う姿勢が殆ど見られません。

 例えば、憲法精神に違反する「法律」によって作られた「(国家を自害する)委員会」があるし、違憲の判決が出た新聞法や総合不動産税など、色々あります。法律は国会で過半数をもって改正や廃止が出来るのに、圧倒的議席を持っていながら与党は、違憲の判決が出た法律も改正できずにいます。特に、親北左翼が過去事清算という「革命的委員会」を作り、裁判所の確定判決を委員会の判断で覆していることに対し、与党・ハンナラ党は、これを止められずにいることです。

 例えば、教科書問題。教科書の中身について政府が法律に基づいて修正命令を出して、それに応じない場合は、法律で検定を取り消すことが出来るのに、それをやらない。今、軍隊では左翼政権下で「全教祖」による教育を受けた若者たちが入隊し出しているが、彼らは「韓国の敵は、金正日でなく、アメリカ帝国主義だ」と教育されていて、国防部長官は危機感をつのらせている。

 ハンナラ党は憲法改正の他なんでも出来る議席を持ちながら、1年間を空しく費やした。

佐藤 なぜ動かないのですか。

 国会議員は国の安全を護る、国民の生活の安定を図るため選ばれた存在です。なのに、彼らは、「親北政権」10年間で駄目になった国家を正常化するため先頭に立って行動するのではなく、右(愛国勢力)と左(親北勢力)の戦いのどちらが正しいのか「判断」しようとする間違った態度をとっている。プレーヤーであるべき「与党」が、第三者の立場の審判者か、評論家のような、甚だしきは「敵」であるはずの野党の真似までしている。

 こういう情けない現実を法律によって改善しなければならないと考えている国会議員は、正確に調べたわけではありませんが、10分の1ぐらいしかいないのではないかと思われます。

 他に、テレビ、映画、演劇などの「文化」分野や、主なNGO・NPOなどを左翼が抑えています。これをどう変えていくのか、覚悟を決め行動しなければならないのに、無関心者や卑怯者があまりにも多いのです。

 

親北勢力に翻弄された李政権

佐藤 10年間左翼が天下をとると深刻ですね。国会は眠っている。マスコミ、司法、映画、演劇などは依然左翼に握られている。

洪 李明博大統領は、ここ1年間、金正日と戦う自由民主主義の闘士らを遠ざけている。だから左からはもちろん、右からも孤立するようになりました。そして南・北の左翼、金大中と金正日のイニシャルをもって「DJI連帯」とも言われている政治勢力に攻勢されて、右往左往している、というのが現実です。

 その典型は、あの「ロウソクデモ」のとき、「アメリカ産牛肉は安全です」と、大統領はじめ、総理も長官もハンナラ党の幹部の誰も言えなかったことです。安全だと言ったのは、金正日と闘っている自由民主主義・愛国勢力だけでした。

佐藤 世界中がアメリカの牛肉を食べているが、問題は起きていない。あんなことを言って騒いでいるのは韓国の左派マスコミだけです。集団ヒステリー現象というか、あのロウソクデモは、韓国が異常なところという印象を世界に与え、マイナスだった。金正日政権も韓国左翼も、世界が見えていないと改めて思いましたね。

 親北左翼は、問題のないアメリカ牛肉に大騒ぎをし、中国食品で被害が出て世界中が騒いでいるのに口をつぐんで何も言わない。本当に国民の健康を考えて「ロウソク暴動」までを起こしたのなら、中国食品に抗議したはずです。要するに、反米のための政治謀略に他ならないということを、親北左翼が自ら行動で示したのです。

 ここでも李明博大統領は孤立した。皮肉な言い方をすると、李明博大統領はロウソクでやけどをして、漸く自分が考えていたことと違う、ということに気がついたということです。

 

金大中断末魔の謀略

佐藤 気がついたなら、具体的に人事に手をつけなければ意味ないのではないのですか。

 そうですが、やっと気がついたと言っても、やはり不安なのです。金大中が、かつての自分の影響下にあった政治家や市民団体を糾合して政党を作ろうと画策している。11月27日、金大中は民主党・民主労働党・親北市民団体で「民主連帯」を作り、「反李明博政権」闘争に決起せよ、と呼びかけました。この動きは、一言で言えば自分を守るためです。ご承知のように、盧武鉉の兄貴が逮捕され、盧武鉉自身も告発されている。盧武鉉に対する包囲網がジワジワ狭まってきています。

 当然、次は金大中という流れになると本人は読んでいると思います。彼の特技である、自分を護る「政党」を作り、南北連帯を掲げて金正日を助けながら、李明博大統領を圧迫して、わが身も護るという策動です。

佐藤 それにしても金大中氏は北と同じでしたたかですが、自由民主主義勢力と独裁勢力との死闘が続いているということですね。これからの見通しは……。

洪 金正日が、いつどうなるか分からない。あの独裁者にもしものことがあれば、平壌は「唯一指導体系」ですから、他の者が彼に替わることは出来ません。だからあの体制はその瞬間に崩壊です。問題はその時韓国はどうするのか。

 まず何よりも2000万人を奴隷状態から解放することですが、ビジョンを持った命がけのリーダーや、勢力がほしい。韓半島の分断状況を打破する千載一遇のチャンスですから。

 分断60年はあまりにも長く不自然な歳月でした。このチャンスを逸したら、他国の干渉を受けることになります。その意味で、どんな困難や犠牲があっても、韓国の自由民主主義憲法が北の2000万を保護できるようにしなければなりません。韓国民を覚醒させ、結集しなければならないと思っています。

 

自由民主主義革命

佐藤 李明博政権が誕生したが、10年間の間に色々の分野に食い込んでいる左翼勢力との戦いは、あと10年間続くということですね。日本の現実を見ても、60年かけて作り出された呆けは、改めるのに同じ60年が必要なのかと思うことがしばしばです。

 私は、本ネットに執筆している趙甲済氏ら韓国の保守派の人たちのエネルギーに圧倒され続けて来ました。要するに、洪さんたちは自由民主主義を韓半島全体に広める革命をやっているのです。

 

 

 この原稿が本年最後のものになると思います。ご覧頂きまして有難うございました。世界は風雲急を告げ緊張していますが、健康でお過ごしください。

更新日:2022年6月24日