拉致「家族会」飯塚繁雄代表に聞く

佐藤勝巳

(2008. 1.15)

 

<家族会のより強い団結を>

佐藤 昨年の11月拉致被害者家族連絡会(以下「家族会」と呼ぶ)の代表に就任されましたが、大変なお仕事ですが、期待をしています。ご感想は…。

飯塚 横田代表夫妻が10年もかけて身を粉にして活動してきた結果が、数名の被害者は帰ってきましたが、全面解決には程遠い状態です。色々のことがありましたが、「長すぎる」というのが実感です。現実は厳しいと受け止めています。 

 このような状況下で私が代表になったわけですが、横田前代表の体調が良くなくこれ以上無理をお願いすることはできなくなり、順番といいましょうか、やらざるを得ない流れの中で就任ということでした。勿論、

 自分の肉親の救出ということと、拉致された日本人全員を救出しなければならないという考えがありますから、逆に何とかしなければならない、と思いましたね。

 しかし、あと何年という期限が切られているのなら元気も出ますが、全く解決のめどがないところでの代表就任ですから、不安がないと言ったら嘘になります。今までの活動をより発展させるために、代表交代のときにはこうやったほうが良いのではないかと思っていたことを、他の家族と連携を取りながらやってみようと思いました。

佐藤 約2ヶ月間家族会代表として活動をされて感じたことはありましたか。

飯塚 家族会は、家族を金正日政権から取り返すという団体です。「まず初心に帰る必要がある」と思いました。

佐藤 具体的にはどういうことですか。

飯塚 そうですね、家族会は少し纏まりが欠けていたのではないか、という感じがしています。これと関連することですが、家族会としての救出のベクトル(速度と方向)が一致していたのかなぁという疑問もあります。一言で言えばもっと纏まりが必要なのではないか、ということです。

佐藤 家族会が、問題は何かを意思統一して、どういう手段方法で救出するのか、皆で話し合い、行動する必要がある、そういうことですか。

飯塚 そういうようにしたいですね。家族会は政治団体でも思想団体でも宗教団体でもありません。ただ、家族を取り戻したい一心で集まった人たちです。勿論その中には色々の考えを持った人がいますが、しかし、家族の一人ひとりが、バラバラなことを言っていたのでは力になりません。意思を統一して一体となって世論に謙虚に訴えていきたいという希望を持っています。何といっても国民から支持される節度ある常識的な考えと行動が必要です。ここ数年の動向が実証しているように国民の支持なくして救出など考えることができません。

 

<家族会と「救う会」の提携・協力は必要不可欠>

佐藤 今、国民という話が出ましたが、家族会の一番身近にいる国民が「救う会」だと思います。この10年間、家族会・救う会は連携して活動を続けてきました。しかし全て順調にいったとも言えないのですが、飯塚代表はこの関係をいかがお考えですか。

飯塚 家族会にとって「救う会」という存在がなかったらどうなっていたのかと考えると、ぞっとします。われわれ家族は全くの素人で国内政治も、国際政治も、北朝鮮のことなどよく分かりません。更に諸外国での調査・連絡など全国協議会の専門的知識、運動の進め方などに頼らざるを得ないわけで、それは10年前も今も変わっていないと思っています。2団体の協力・提携は拉致解決のためには絶対に必要不可欠のものだと思っています。

佐藤 ご指摘のような側面は確かにありますが、しかし、「救う会」が被害者家族の立場には立てるはずもありませんし、代理もできません。相対的な独自性を持ちつつ2団体が提携・協力するということではないでしょうか。

 全国協議会加盟の「救う会」が、全国都道府県に40近くあります。 全国的に運動を展開するとき、この組織の存在は大きいと思いますね。

 しかし、反面、全国協議会の幹事の一部を「除名」とか「解任」しなければならないような事態も発生しました。望むことでも歓迎することでもありませんが、人の集まるところにトラブルは避けられません。「非常識なことを容認したら」国民の支持を得ることが難しいです。だが、結果的には家族会にご迷惑をお掛けし、申し訳なかったと思っています。

飯塚 集会、署名活動、写真展など、どれをとってみても段取りが大変です。全国のボランティアの人たちが、それを黙々とやっています。われわれ家族だけでは何もできませんから、本当に頭が下がります。

佐藤 全国協議会の役員が東京で政府と話し合いをする機会がありますが、全国協議会に加盟している各地の活動がバックにあるから相手にされるのであって、そうでなかったらどうでしょうか。皆が一緒になって動くことが本当に大切だと思います。

 細田官房長官のとき、日比谷公会堂の国民大集会に6000名も集まりました。集会後、決議文を持って官房長官に会いに行きましたが、あの時、決議文の重さが本当に違うと実感しました。

飯塚 第一われわれの意気込みも違いますね。集会に6000名集まったとすれば、参加した人が家族や友人・知人に集会の様子を話されます。 一人の参加者が周囲の人に話すことによって軽く1万数千名を越える人たちに救出の輪が広がっていくと思います。  

 

<政府の断固たる態度を支持する>

佐藤 さて、情勢ですが12月上旬「ブッシュ親書」が出ました。韓国では10年続いた左派政権が終わり、保守中道政権が実現しました。福田政権は安倍政権の対北朝鮮政策を変更していません。

 11月まで進められてきた米朝接近は、現段階ではひとまず頓挫したと見てよいでしょう。ヒル国務次官補は金正日政権の核施設の申告を「北朝鮮はまだ、われわれに全ての核計画・施設・物質のリストを提出する準備ができていない」(朝鮮日報1月7日)と語っています。

 何時もの手口であるが、1月4日北朝鮮外務省は、重油や資材の納入期限の遅れているのは5者の方だ。北は核施設などの申告も行っていると詭弁を弄し、07年末までに核施設の「無能力化」、総ての核施設などを申告するという6者協議(10・3合意)に対する約束を完全に破ったのです。

 わが国政府は最初から「拉致の進展がなければ重油は援助しない」と言ってきました。ですから日本政府の態度が一番正しかった。これは日本外交の先見性(方針)という点で特筆大書すべきものです。 

 また、昨年の12月分の重油5万トンは日本が出す順番になっていました。勿論、日本政府は拉致に進展がありませんから重油など出しません。当初は韓国が肩代わりするような話が流れていましたが、韓国大統領選で左派候補が大敗を喫し、韓国肩代わり説は消えた。       米国務省もブッシュ大統領の親書が出ているのに、日本の肩代わり、これも政治的に難しいと思います。

 国際的な約束を守らない金正日政権を援助してはならないのです。「期限を多少延ばしても正確な申告が大切」など李明博次期大統領が韓国のテレビで(1月1日)発言しているがそれは誤りです。援助は躊躇なく中断すべきです。

 すでに朝鮮半島情勢の流動化が始まりました。こういうときは原則に戻ることですね。

飯塚 そうだと思います。家族会、救う会、議連の3団体がそれぞれ役割分担をしつつ、団結を強化し、政府と一体となって、拉致と核の進展がない限り一滴の重油も、一銭の援助もしないと国際社会にアッピールすべきだと思います。そういった前提に立ち、政府に断固たる姿勢がある以上、われわれはこの政府の態度を積極的に支持します。

佐藤 飯塚代表、困難な戦いは続きますがお互いに健康に留意、頑張りましょう。ご活躍を期待しています。今日は有難う御座いました(インタビュー08年1月9日)。

更新日:2022年6月24日