日朝交渉に強く反対する

佐藤勝巳

(2013.5.17)

 

 飯島勲内閣参与が日朝交渉のためと思われるが、今、ピョンヤンを訪問し、北の要人と接触している。何を考えて何を交渉しているのか。いや、安倍晋三首相は、日朝関係をどうしたいのか。関心を呼んでいるので、私見を述べる。

 

目的は金正恩打倒だ

 交渉には目的がある。安倍内閣は北朝鮮の金正恩体制を相手に拉致被害者を解放したいと思って交渉に臨もうとしているのか。それとも拉致、核、ミサイルの3点セットを解決するために交渉しようというのか。私は、そのいずれも正しくないと考えている。

 

 なぜ正しくないのか。金正恩、金氏王朝独裁体制を打倒するという戦略目標を明確に位置づけた交渉なら賛成だ「交渉も戦い」なのだから、交渉の焦点をすべてそこに合わせるのが、現情勢に適合する国益である。これまで北は、安倍晋三氏を共に天を戴くことの出来ない「大敵」と言って来た。今、拉致被害者を帰せば、最大の敵自民党安倍晋三総裁を7月の参議院選挙で大勝利に導くことになる、と分かっていながら、その敵からカネを取らないと政権が存続できないほどピンチに立たされている。

 

超一流の詐欺師

 重油、食糧などの戦略物資が基本的に止まっている。また、スイスの銀行に預金していた金正日の遺産50億ドル前後が中国の銀行に移され、この度の中国の金融制裁で口座が閉鎖され、預金が下ろせなくなったという話が流れている。もしこの話が本当なら、政権延命のために日本を騙し、カネを取ることを企んでいることは十分あり得る。

 

 相手は、超一流の詐欺師である。これまでの歴史を見れば明らかだ。1993~4年北の核査察をめぐるトラブルの結果「ジュネーブ合意」ができ、米国は石油を、日・韓は軽水炉建設費を出した。だが、北は核開発を破棄する約束を守らなかった。騙されたのだ。6者協議でも日本を除く参加国が、重油を北にただ取りされた。それだけではない。核実験を2回やられ、3回目を今年の2月やられたばかりだ。ミサイル実験もさんざんやられた。これはすべて金正日・金正恩に騙された証拠ではないか。こういうのを詐欺集団と呼ぶのだ。

 

気は確かか

 こんな大詐欺師集団を相手に、5月16日産経新聞は「首相、日朝首脳会談へ意欲」―拉致解決『主体的にすすめる』」と一面トップで報じた。この報道に誤りがなければ、安倍首相は詐欺集団と会談して、拉致が解決できると思っているらしい。気は確かなのかと思った。

 

 中国が北朝鮮に金融制裁を実施するという政策に大転換を図ったのは、中国も朝鮮労働党に騙され、中国の安全保障、中国の覇権が脅かされる危険が高くなったからだ。重油、食糧が中国から輸入できなくなり、北は絶体絶命のピンチに陥った。だから、あれだけかたくなに拒否して来た日朝交渉に彼らから乗って来たのである。飯島氏が誰と会ったかを逐一、テレビに報道しているのは、金正恩が孤立していないという国内向け宣伝としか考えられない。

 

情勢を冷静に判断

 安倍政権が相手にしなければ、金正恩体制は崩壊する。そんなとき日朝首脳会談に意欲的など、安倍氏の信じがたい動きである。もしこの報道が正しければ、首相は情勢を基本的に取り違えている。北は、ほっておけば短時間で崩壊する。安倍氏は、なぜ、この時期に詐欺集団であり、「核で火の海にする」と叫んでいる“ならず者集団”のトップと交渉しなければならないのか。一体何が背景にあるのか。

 

長期展望の視点

 中国の金融制裁は、アメリカと合意のもとで発動したものである。ケーリー国務長官の訪中はそのためのものであり、半島の開城工業団地撤退で北の外貨収入を絶つ、米、中、韓合意の措置である。世界政治は金正恩打倒に流れだしたまさにそのとき、安倍内閣は北に救いの手を差し伸べたのである。東アジアの平和に対する反逆ではないか。

 

 中国が「友好国」北朝鮮に金融制裁を発動したことは、理由はどうあれ、北の政権を見放した具体的な証拠である。だから北は、日本を騙しに来たのだ。安倍氏は拉致にこだわり過ぎているから、世界の流れを読めなくなっているのではないか。北が困っているから交渉のチャンスと考えたのだろう。現に飯島氏は宣伝用に使われている。なぜ、こんなバカなことに利用されているのか。安倍氏が首脳会談を考えているのだとすれば、核戦争を公言している超犯罪人を助ける政治家という、世界史に記されるであろう。安倍氏の名誉のためにも長期展望に視点を据えて欲しい。

 

 日本とアジア平和のために即時日朝交渉を中止して欲しい。黙って見ているだけでよい。金正恩体制は崩壊過程に入っている。拉致解決は、北のレジームチェンジ(体制交替)核ミサイルを放棄してからだ。北にカネを出す国は世界中で日本しかいないのだ。黙っていても寄ってくる。何を安倍氏は慌てるのか、拉致家族の要望化か。大局を見失ってはならない。しっかり情勢を見て欲しい。

更新日:2022年6月24日