北の体制変更が核問題解決の焦点だ

佐藤勝巳 

(2013.4.19)

 

不勉強なケリー国務長官

 ケリー国務長官が、北の金正恩にどう対処するか協議のため、韓国、中国、日本を回った。ふたを開けたら、従来アメリカが言って来た「核開発を止めたら重油をやる」式の話であった。アメリカは、北の核開発に1993、94年の北朝鮮核危機から関与して来たのだが、何も勉強していないことがわかった。

 

 私が1991年核問題でワシントンに取材に行ったときも会ったアメリカ人は、言合せたように口をそろえて同じ趣旨のことを言っていた。この考えに非常な違和感を覚えた。アジアを分かろうとしていないという印象を受けた。

 

 アメリカのやっていることは、1994年のジュネーブ合意。2003年からの6者協議もモノを提供するから核開発を止めろという、利益誘導の交渉であった。そして北に物だけを取られて核開発された、これが現実だ。

 

朝鮮問題は米国に任すことはできない

 それなのにケリー氏は、北京で「韓半島の脅威がなくなれば、この地域に配備されているミサイル防衛(MD)体制を縮小することが出来る」(朝鮮日報4月15日)と提案したというが、ギブアンドティークと言うつもりかもしれない。過去アメリカは重油や軽水炉を北にただ取りされ、核開発をされたのではないか。アメリカも中国も戦争は避けたいということで利害が一致する。北京でなにかが取り引きされたのか。金正恩が急におとなしくなった。

 

 ケリーの対話姿勢に安倍首相は「何度も裏切られてきた」(産経新聞4月16日)と対話に同意しなかったのは全く正しい。中朝は国家の「安全保障」「体制維持」のために核ミサイルを開発・保持したのである。そのために手段を選ばなかったのだ。現実を取り違えていてはならない。彼らにはアメリカの提案を「武装解除」と受け取っているのである。従ってアメリカの価値観での提案はナンセンスであり、中朝から見れば馬鹿にされたと考えるし、事実そうなのだ。無知なケリーが偉そうにアジアを回っている。日韓も同じように馬鹿にされているのである。

 

 今必要なことは、脅威をなくする戦いに中国も巻き込み米韓日がどう意思統一をするかである。アメリカ国務長官にはその問題意識は全く感じられない。率直にアメリカに朝鮮問題を教えなければならない。幸いに、アメリカ大使も、外務省審議官も局長時代北と核問題で交渉した経験者である。彼らを活用すべきであろう。

 

 しかし、アメリカから見れば、極東は地球の裏側に当たる。オバマ大統領は財政赤字で来る日も来る日も軍事費削減で議会共和党との交渉に追われている。北に石油が産出されるわけでも、アメリカにミサイルが届くわけでもない。独裁政権の核は気になるが、戦争など勘弁してほしい、と言うのが本音であろう。

 

戦争を恐れるから核で脅かせるのだ

 なぜこんなことになったのか。主要な原因は、戦争になることに韓国、日本など逃げ腰しだからだ。韓日米の政権から「やれるものやってみろ」と北に対して言わない。だから付け上がって核戦争も辞さずなど脅しをかけてきているのである。第一韓国と日本が、最も脅威を感じているのに自国の安全を自分で守るのにどれくいの覚悟と努力したのか。していない。

 

 いつもやくざが堅気の家に上り込み、ドスを畳に突き刺し脅迫すると、家族が手を摺合せ話し合ってくださいという。ここ30年間それで終始して来た。そして北は核ミサイルを手にしたのだ。今またアメリカと朴槿恵政権は同じことをしようとしている。馬鹿と違うか。歴史から何も学んでいない。政治家としては失格である。

 

 安倍晋三首相はケリー国務長官との会談の最後に2人だけで7分間話し合い(産経新聞)をしたというが、緊張緩和は、核による相互抑止か、北のレジームチェンジしかないと安倍首相がケリーに伝えたということであって欲しい。それなら日本と東アジアの未来に期待が持てるのだが。

 

体制変革しかない

 今度の騒動で誰にでも分かったのは、北は核を使用する可能性、相互抑止が最も期待できない集団であることである。なぜなら、大量の餓死者を出しても政策・体制も変えなかった唯一の「社会主義国家」である。人民の死を何とも思っていない狂気の政治集団である。話し合って分かる政治集団ではない。

 

 焦点は、話し合っても分かる政権に変えることだ。これが北の核問題解決の核心である。ミサイルデフインス(MD)云々など見当はずれもいいところだ。ケリー国務長官は、何が問題なのか本当に分かっていないのだ。安倍内閣は、断固としてアメリカに意見を突き付けるべきである。

 

朝中の深い溝

 これは推測であるが、北の核保有に中国は震え上がったと思う。ムスダンはほぼ中国全土を射程圏内に収めた。ほとんどの識者が言及していないようだが、北が住民を餓死させて核武装した主要な原因は、かつての宗主国に報復したい怨念が根底にあることだ(複数の北支持の在日朝鮮人話)。北からすれば、中国に対する積年の恨みを晴らすチャンスが来たのである。中国共産党の核ミサイルの開発中止を拒否し続けたのは上記の理由によることはほぼ間違いない。

 

どうなるのか朝中関係

 多くの人たちは、アメリカと闘うために北が核ミサイルを開発していると思っているが、本音は中国に対してである。中国は、北朝鮮に対して、日本が敗北してから、さらに帝国主義むき出しに尊大かつ傲慢に対応して来た。何より、現在中国領内で北朝鮮の女性に売春させて、金儲けしている。ピョンヤンなどに豪邸を構え、北朝鮮女性をはべらせて豪勢な生活を送っているのが、中国籍の朝鮮族貿易商である。北の庶民からも怨嗟の的となって久しい。

 

冷静な分析・行動が必要

 多分北は、歴史の報復(清算)を核でしたいと考えているだろう。中朝関係は、北の核保有で様相が一変したことは確実である。他方、中国内で北朝鮮の核保有に抗議するデモが方々で起きている。韓国、日本、アメリカはこの情勢の変化を正確に把握、戦略を立てるべきであろう。現政権が崩壊したら、自衛隊が救出に行け、と言う論議がなされているが、拉致被害者の居所が分かっているのだろうか。慌ててはならない。

更新日:2022年6月24日