金正日宮殿内から「反革命分子」出現

佐藤勝巳

(2010.10.15)

 

 今、関係者の間で話題を呼んでいるのが金正日の長男、金正男が10月9日テレビ朝日(ANN)のインタビュー(10月11日放映)で、後継者は「父親がご決断なさったものと思います」「個人的には三代世襲について反対しています。しかし、それなりに内的要因があったのではないかと思います。内的要因があったから、それに従うべきだと思います」(「ネットANN NEWS」10月12日より)との発言だ。

 本ネット10月13日付趙甲済氏の「金正男の反動的発言」によると、インタビューの中で彼は「北韓」という表現を使用していたという。これは韓国人が北を呼ぶときの呼称である。北が、南を差して「南朝鮮」と呼ぶのと同じ表現に当たる。韓国人が韓国を「南朝鮮」と呼ぶことは殆どない。金正日の長男が北朝鮮を韓国の一部とする「北韓」と呼んだのだから「反動的発言」どころか、「反革命分子」として政治犯強制所送りになることは間違いなかろう。

 

 正男の「北韓」発言もさることながら、私が仰天したのは、あの儒教色濃い北朝鮮で生まれた正男が、父親の決めたことではあるが、個人的には三代世襲は反対、と「敵国」日本のテレビカメラの前でためらわず口にしたということを知ったときだ。

 だが、正男をはじめ金正日の子どもたちは、儒教色濃い北朝鮮の中で、北朝鮮の学校に通学していない。儒教とは関係ない教育を家庭教師や外国で受けた可能性が高く、正男は数ヶ国語を解しているというから国外生活が長いと推測される。その結果、上記の言動となったとすれば、これはもう「漫画」である。

 

 なぜなら、正男の父親金正日の指導で出来たといわれている金日成を神格化した「党の唯一思想体系確立の十大原則」(1974年2月11日からの中央委員会総会採択)の「十、偉大な首領金日成同志が開拓された革命偉業を代をついで最後まで継承し完成させなければならない」(1)の中で、「全党と全社会に唯一思想体制を徹底的に打ちたて、首領様が開拓された革命偉業を代をついで輝かしく完遂するために首領様の指導の下に党中央の唯一的指導体制を確固と打ち立てなければならない」と規定しているからだ。

 

 今回の金正男の発言は、この「十大原則」に照合しても徹頭徹尾違反していることになると同時に、金正日がわが子に、金日成の「革命偉業」を継がせることに失敗したことを図らずも露呈したことになる。

 

 いや、そうではないのかもしれない。最初から金正日にそんな意思がなかったのではないか。真面目に息子に代を継がせようと考えていたのなら、自国の学校教育を受けさせないという信じがたい愚行を行なうであろうか。

 

 正恩が初めてテレビカメラの前に現れたとき、私は「危ない」と直感した。兄・正男と似ていて北朝鮮の臭いが感じられず、正男と同じ教育を受けてきた正恩の表情や雰囲気が、周囲の老幹部たちとあまりにも異質だったのだ。金正日が初めてテレビに登場したときには感じなかった違和感があった。

 

 興味深いのは、あろうことか革命の「聖家族」金正日宮殿内から正男のような「反革命分子」が現われてきたことだ。しかしわれわれの価値観からすれば、正男の発言の方が、国家権力を世襲させる「封建クーデター」に比較したら、はるかに正常といえる。巷には「市場勢力」が、宮殿内から「反革命分子」が現われた。北から目が離せない。

更新日:2022年6月24日