金正日、ジョンウン後継を否定

佐藤勝巳

(2010. 9.24)

 

 9月上旬に開くと公表していた朝鮮労働党代表者会議が「9月28日に開催することになった」旨、朝鮮中央通信が9月21日付で報道した。

 この会議の開催が韓国や日本のマスメディアに注目されていたのは、金正日の後継者が発表されるかどうかという点にあった。ところが9月18日付朝鮮日報は「金総書記、ジョンウン氏後継者説否定」と報道。米の元大統領・カーター氏は、自身の経営する非営利団体「カーターセンター」のホームページに「9月6日に北京で温家宝首相に会ったとき、温首相は「金正日総書記は訪中した際、ジョンウン氏が権力を継承するという見方について〝西側の噂〟と一蹴(いっしゅう)したと語った」と掲載した。

 

 金正日がいつ温家宝にしゃべったのか不明であるが、今年の5月金正日が訪中したときに温家宝に会っているので、多分そのときと推定される。この情報は胡散臭い「消息筋」などと違って金正日、温家宝、カーターと実名入りで、これ以上確かな情報はあるまい。三男ジョンウン後継者説は、この報道でピリオドが打たれたと考えてよいのではないか。

 

 本ネット「現代コリア」は、親から子に権力世襲などナンセンスと雑誌「現代コリア」時代から批判し続けてきたし、金正日は後継者を決定していない、と分析してきた。しかし韓国のマスメディアは、ジョンウンが後継者決定という文脈で繰り返し報道してきたことは周知の事実。韓国のマスメディアは、1986年にも金日成死亡説という大誤報を流したことがあるが、この度の大誤報は北の権力構造を理解していないことから起きたもので、前者よりはるかに深刻である。

 

 それにしても、韓国のマスメディアは独裁権力の世襲は自由民主主義と絶対相容れないのに批判をしない。金日成が金正日を後継者に決めたときの理屈は、①継続革命が必要であるように首領には後継者が必要だ。②後継者には最も優秀な人物が就かなければならない。③後継者には最も首領に忠実な人物が就かなければならない、というものである。「継続革命」の中身は韓国を併呑する政策が主要なものだというのに、これも批判をしない。                     

 

 金正日が大学卒業後、1964年に党中央に入っている。権力を掌握したのが1985年であるから、約20年間、党活動に従事している。ジョンウンは党中央で、活動しているのかどうか北の人間も知らないし、写真すら公表されていない、幽霊のような存在である。仮に北から「ジョンウンが後継者に決定」という情報が流されてきても、党活動の殆どないと推定される三男を金正日がなぜ後継者に決定したのか、活動歴のないジョンウンが、240万人の労働党党員を動かすことが果して可能なのか、とまず考えるのが筋であろう。

 

 また、過去30年間、党大会が開かれなかったこと、17年間党中央委員会総会が開かれなかったことに、なぜ疑問を持てなかったのか。金正日は「唯一指導体系」の名にことよせて、朝鮮労働党を党規約に基づく運営ではなく、彼の個人独裁で党組織を文字通り麻痺させ、金正日イコール党に変質させ、それまでの党を破壊したことがわかるはずだ。だが、韓国の報道機関はこの事実に未だ気がついていないようだ。ジャーナリストの趙甲済氏は、北の実情を良く知っている数名の脱北者はジョンウン後継者説を否定しているし、自分も同意見だと語っていた(9月15日・東京)。

 

 「後継者はジョンウン」なる情報が、なぜ北から韓国に流されたのであろうか。

 

 考えられる理由は、2つある。ひとつは、異なる情報を異なるルートから流し、その情報がどこに現われるかによって、北朝鮮内の誰が南に情報を流しているかを突き止める。または情報の拡散状態を調査し、今後の情報戦に活用する。今ひとつは、北朝鮮内のジョンウンを後継者にしたいと思っているグループの謀略。ソウルや北京を通じて、韓国連合ニュース、朝日新聞、毎日新聞などに意図的に情報を流すと、特ダネと錯覚した記者が喜んで書く。それが平壌に伝えられ、ジョンウン後継者を既成事実化する。

 

 独裁者金正日は、ジョンウンは後継者でないと否定した。党代表者会議で中央委員が選ばれ、政治局員などが選出されるだろうが、金正日正が生存している限り個人独裁が続くであろう。独裁者にもしものことが起きたら、政治局が労働党の執行機関となる。この時点で金王朝支配が終焉する。その意味で、歴史的な党代表者会議となろう。歴史は確実に動き出した。

更新日:2022年6月24日