大統領選挙勝利の課題

佐藤勝巳

(2010. 7. 5)

 

 6月2日韓国で行われた地方選挙は、哨戒艦が北に撃沈された(3月26日)という調査結果が発表された直後にも拘わらず、親北派が勝利した。その理由がよく理解できないでいたのだが、本ネット6月29日付、金成昱氏の「全国の至る所で会う善良な人々」を読んで、ようやく少し分かったような気がしてきた。

 

 金氏は、今年の春まで軍をまわって多くの兵士や下士官、将校などに保守派の立場から愛国を訴えてきた第一線の若き活動家である。ところが彼の講演を嫌った軍内左派勢力の妨害によって、軍での講演ができなくなったので、今年の春から全国の教会をまわって講演している。

 

 金氏によれば、韓国には悪い人間もいるが、地方に行けば行くほど多くの人が素朴で善良だという。教会に来る多くの人は「北韓の可哀相な2300万の同胞のため祈って献身」している。だが、その同じ人たちが、戦時作戦統制権や韓米連合司令部なる単語を知らないのはもとより、女性たちの多くは、北が核実験したことも知らないでいる。

 

 この“優しい”おばさんたちは、「赤化統一が何か分からずに」、赤化統一でも自由統一でも〝平和であれば何でもよい〟と考え、分断費用が統一費用より高く、自由統一が実現すれば、就職など飛躍的に拡大、莫大な国家利益を創り出すという事実を良く知らないまま、自由統一は「費用がかかり税金が高くなるのではないか」と見当外れのことを危惧する。

 

 その一方で、「人道援助」が金正日政権を援助することになるのだということが分からないまま、素朴に北韓の子どもたちが可哀相だから、おカネ、コメ、肥料を援助すると考えている。

 

 また、韓米軍事同盟が北の暴力を抑止しているという事実をよく知らないために、「金正日を刺激すれば戦争が起きるのではないかという恐れを持っている」と指摘する金成昱氏は、善良であるが物事が分かっていないから「偽りの扇動に騙されている」のだと結論付け、大韓民国の愛国者たちは「分かりやすい言葉で繰り返し説明すること」が必要だと強調している。

 

 ここまで読んできて、韓国地方選挙投票数日前に、左派の「ハンナラ党系の候補に投票したら戦争になる」というデマ宣伝が選挙民に容易に浸透した理由が理解できた。

 

 今回の金氏のレポートを読んで、「善意」が地獄の道に繋がってしまう危険性を孕んでいるのは、どこの国でも変わらないことを改めて確認した。

 

 金氏は、愛国運動を進めている側に、誰にでも分かるような言葉で、繰り返し訴えることが重要だと強調している。これは訴える側の自己変革が必要という重大な問題提起を含んでいる。非常に難しいことであるが、それを克服できなければ2年後の大統領選挙での勝利は難しい。

 

 金正日とその同調者は、味を占め2年後の大統領選挙投票前に、今回と似た戦術を取ってくる可能性が高い。勝利するためには選挙民の自覚を高める以外にない。金氏の発言は実践の中から提起されてきたものだけに重い。

更新日:2022年6月24日