総聯の「犯罪」⑤

佐藤勝巳

(2010. 5.10)

 

連載の終りに当たって

 陳述書は以上であるが、法廷は限定された場であるから、争点から離れての陳述は出来ないため、もっとも重要な問題に言及することができなかったので補足する。 

 

朝鮮労働党の存在を許している日本

 わが国の安全保障上最大の問題点は、北朝鮮の朝鮮労働党がわが国に存在し、今でも活動を続けていることである。労働党の組織が「学習組(がくしゅうぐみ)」と呼称して総聯内に秘かに組織されたのは1958年、帰国運動が始まった年である(中央幹部Kさんの証言)。  

 総聯には各都道府県に本部がある。また、総聯傘下の朝鮮青年同盟、朝鮮女性同盟、朝鮮商工会、朝鮮信用組合など階層別職業別の組織がある。その組織の「副」理事長など「副」のつくポストには「学習組」の(労働党員)が配置されていた。

 

 共産主義国家では党が大衆団体(いろいろな考えを持つ人たちの集まり)を指導するのは秘密ではない。総聯に対するあらゆる活動方針は、平壌の労働党中央から、総聯中央の「学習組」責任者に指示され、そこから、総聯の県本部並びに青年・婦人、商工会など大衆団体の「学習組」に指示が伝達される。総聯を動かしているのは朝鮮労働党なのである。わが国の安全保障にとって、この事実こそが最大の問題なのであるが、このような観点からわが国の安保問題が国会で議論されたことは私の記憶にない。

 

拉致を手引きする労働党員

 前述した1968年の貸し金業具滋龍氏の脱税容疑に対する、税務署などへの抗議行動は朝鮮労働党の指導によるものであることは言うまでもない。日本の政界工作も労働党の指導に基づいて行なわれている。日本の政治家の誰に、いくら総聯がカンパするか、総聯の「学習組」から労働党の謀略機関3号庁舎の担秘書に報告され、同秘書が査定し「学習組」に戻し、朝鮮信用組合の裏金から日本の政治家当にカネがばら撒かれていた(中央幹部Kさんの証言)という。

 

 朝鮮労働党が日本国内で総聯を隠れ蓑にして、「脱税闘争」や韓国への赤化統一工作の前線基地として日本を利用、さらに「学習組」は日本人を拉致する手引きをしている。

 北朝鮮の工作船が日本の海岸に近づきゴムボートで砂浜に上陸し、たまたまアベックがいたから拉致したなどありえない話だ。日本国内に手引きする工作員がいなかったら、日本人拉致などできるはずがない。手引きするのは洗脳された口の堅い労働党員で構成する総聯内の「学習組」に決まっている。非党員などは間違っても使わない。

 

 これだけ沢山の日本人が拉致されたということは、日本国内に少なくない手引きをした在日朝鮮人という仮面を被った朝鮮労働党員がいたからである。だが、警察が逮捕したのは能登半島から久米裕氏の拉致(1977年9月10日)を手引きした在日朝鮮人1人だけだ。また、歴代の日本政府は「学習組」の活動を規制しようともしなかった。民主党鳩山政権にいたっては、朝鮮労働党のフロント組織総聯が経営する朝鮮高校生に、授業料を援助すると言い出した。正気の沙汰ではない。

 

北に1兆4000億円援助した自民党政権

 小泉純一郎政権は、破綻した朝鮮信用組合に合計1兆4000億円の税金を使って救済した。

 前述のように国税庁が、脱税の温床朝鮮信用組合の前身同和信用組合を強制査察したら、総聯はそれを「弾圧」と称し、数年間にわたって在日朝鮮人多住地域の税務署に押しかけ、威力業務妨害を行い、1976年に前述の「税金についての合意書」なるものを国税庁と取り交わした(彼らは勝ち取ったと言っている)。

 

 総聯系在日朝鮮人は、日本に納めるべき税金を、金日成・金正日政権にカンパと称し支払った。金日成・金正日はそのカネで一族などの栄耀栄華と核ミサイル開発に使った。バブルがはじけ、カンパ集めが困難になると、金正日は朝鮮信用組合の預金を北に運ぶように「学習組」に要求した。もともと乱脈経営であった朝鮮信用組合は当然のことながら破綻した。

 

 当時(1990年代後半)、金融庁は「法律に基づいて」と言って公的資金を朝鮮信用組合に投入を始めた。現代コリア研究所機関誌『現代コリア』は、毎号のように公的資金投入反対の論文などを掲載し、国会議員にも働きかけ、議連も立ち上げ国会で追及もした。他方、資金も集め訴訟準備をし、幾つかの法律事務所をまわったが、引き受ける法律事務所がなく訴訟を断念し、朝鮮信用組合に合計1兆4000億円の税金が投入されていった。

 

官僚の保身

 金正日政権は日本や韓国を狙って核ミサイルを開発、アメリカも脅すことも考えていたことは疑いない。朝鮮信用組合はその金正日政権を支えてきた金融機関である。その信用組合が破綻したからといって、なぜ日本の税金で助けてやらなければならないのか。

 私は金融庁を訪問、担当部長に会って、朝鮮信用組合が預金を北朝鮮に運んでいる旨指摘し、違反行為を行っている朝鮮信用組合が破綻したからといって、公的資金を投入してはならないと強調した。

 

 するとその部長は「公的資金を投入しなければ訴訟になる。その時佐藤さんは朝鮮信用組合の誰が、いつ、どのような方法で万景峰号にカネを運んだか、法廷で証言してくれますか」と反論してきた。「では聞くが、金融庁は総聯が朝鮮信用組合の預金を万景峰号に運んでいないとこの場で説明して欲しい」「……」「なぜ説明しないのか。日本の安全保障に係わる重大事案を金融庁が判断する権限などない。この問題を首相官邸に上げて首相の判断を待つべきだ」「……」後は、私が何を質問しても答えない。黙秘で対応してきた。 要するに、彼らの頭の中にあるのは保身のみ。国家の安全など微塵もない。

 北のミサイル核開発のハード・ソフトが日本から流れていることは関係者周知の事実である。しかし、政府は本気になって取り締まろうとしなかった。何度も、何度も心底「官僚は駄目だ」「自民党政権も駄目だ」と絶望に近い気持ちを味わった。鳩山政権が特に駄目なのではない。要するに有権者の水準がこの程度になりさがったのだ。

 

キャリア官僚の思想的退廃

 東京千代田区にある総聯中央本部の土地建物の差押え判決が2007年6月12日東京地裁で下されることになった。その直前の同年5月31日、あろうことか総聯を監視・調査するする法務省・元公安調査庁長官緒方重威(おがたしげたけ)弁護士が社長を勤める「ハーベスト投資顧問」が、総聯本部の土地建物を買っていること(偽装売買)が判明、大騒ぎになったことは記憶に新しい。

 

 総聯を監視・調査すべき国家機関の元情報のトップが、総聯とつながり、整理回収機構の土地の差押えを逃れようとしていたというのだ。朝鮮労働党の工作を褒めるべきなのか。それにしてもキャリア官僚の思想的退廃は度を越している。法務省傘下の公安調査庁がこの事件をどう総括し、対策を立てたのか寡聞にして知らない。

 

「高度に発達した資本主義国の弾圧」

 自民党政権と関係官僚の名誉のために記しておくが、預金保険機構が100%株式を持つ株式会社「整理回収機構(RCC)」は、朝鮮信用組合の不良債権を買い取り、担保物件を競売などに付し、債権の回収を行なっている。

 

 朝鮮信用組合の破綻を契機に、すべての信用組合の監査は地方自治体ではなく国が統括するようにした。総聯役員経験者が朝鮮信用組合の役員に就任することを禁止、理事長は日本国籍所有者とし、総聯と朝鮮信用組合の人事交流を完全に遮断、制度として朝鮮労働党が朝鮮信用組合の運営に関与できないようにした。

 総聯のある幹部は秘かに「公的資金で助けられたときは<しめた>と思った。結果は日本政府に買収されたようなもので、総聯が利用できなくなった。高度に発達した資本主義国の弾圧の恐ろしさを改めて知った」と私に漏らした。とんでもない笑うべき誤解である。

 

国民が戦わなければ政治は動かない

 断言してよい。わが国の国家権力に、そんな深謀遠慮があるはずがない。金正日政権にコメを援助し出した橋本龍太郎首相(1996年1月)以降の歴代総理大臣を見るがよい。そんな知恵や勇気があればこんな愚かな政策を取るはずがない。朝鮮信用組合への公的資金投入に反対した一部メディア、そして議連、現代コリア研究所などが動いたからだ。

 このような動きがあったから、政府は法改正を行なって、朝鮮信用組合に対する朝鮮労働党並びに総聯の介入を断ち切ったのだ。また総聯中央本部の土地建物などの差押えも同じ理由によるものである。拉致問題もそうであったが、国民が戦わなければ(自民党・民主党共に)政府独自の判断で朝鮮問題では何も出来ないのがこの国の現状である。

 

 普天間基地移設問題で、鳩山民主党政権の信じがたい無知・無能・無定見、無気力、そして恥を知らないことが明らかになった。幸いに朝鮮問題で何のアクションも起こしていないが、行動を起こしたら何をやるか分からない。朝鮮半島の激動が目前に迫ってきているのに、拉致救出運動も姿が見えない。政治、経済、安全保障、教育、外交、文化など、なにもかも沈滞仕切っている。いやそんな危機意識も希薄のようだ。                         (了)

更新日:2022年6月24日