ガンが国を滅ぼす④

佐藤勝巳

(2010. 2. 2)

 

 専門とする朝鮮問題よりも、本連載にいろいろな反響が届くことに、正直驚いている。私の周囲でも、何人かの知人友人がガンの再発で入院治療を受けていることを考えると、いかに多くのガン患者が再発などで苦しんでいるかということであろう。

 

ガン治療の最高権威者、奥さんをガンで失う

 「がんの専門医である私の前でがんが妻の命を奪う。なすすべがありませんでした」と呻(うめ)くように語る記事(産経新聞2010年1月29日17面)もその一例であろう。最愛の夫人を失った衝撃を語っているのは、日本のガン医療の最高峰と言われている国立がんセンター垣添忠生名誉総長である。

 「臨床の現場で患者さんを救えない喪失感は大変なものです。しかし、妻との別れはさらに底が知れませんでした。 作家、江藤淳氏が自死しましたが、私も亡くなってからの3ヵ月(百カ日)は自死できないから生きている状態でした」、「肺小細胞がんや膵臓がんの多くは現代医学では難しい。妻のがんもその一つでした。6ミリの早期に見つけ、一時は良い検査結果に興奮しながら助けることができませんでした」と現代医学のガン治療の限界を率直に語りながらも、「現代医学の壁を破るのは基礎研究です。病理、細胞、とりわけ遺伝子の研究と新薬開発には期待がかかります」と述べている。

 垣添氏の語る言葉に私は深く考えさせられた。昨年12月25日私の主治医である「素問八王子クリニック」院長・真柄俊一先生が『がん、自然治癒力のバカ力――「ガンを治す遺伝子」があなたの体に眠っている』(現代書林、1300円、以下『バカ力』と略す)という著書を出版されたのを読んでいたときなので、その書評との関連の中で、感想を述べたい。

 

免疫治療なら救えたかも知れない

 『バカ力』にはステージⅢBまたは同Ⅵの末期ガン患者で、他の病院で「余命1年」と言われた肺腺ガンGさんを始め末期ガン患者が素問クリニックで、「自律神経免疫療法」を受け、治癒したケースが18ページ(46~64 ページ)にわたって紹介されている。前述の国立がんセンター垣添忠生名誉総長の奥さんのガンと『バカ力』で紹介されている肺腺ガンと、同じガンなのかどうか特定できないが、似たようなものであることは間違いないと思われる。

 それゆえ新聞記事を読んだとき咄嗟に、「垣添氏の奥さんがガンと分かったときから、自律神経免疫療法を施していたら、助かったのではないか」と思ったことを、正直に記しておく。

 

気力喪失

 9ヵ月前の09年4月末から「素問クリニック」で診察を受け、治療を始めたころの私の体調は、あまり良くなかった。体調不良だなと思ったのは、私の唯一の趣味の社交ダンスに魅力を感じなくなっていたからだ。四半世紀以上プロの先生から個人レッスンを受けてきた私は、胃ガンの手術(06年8月)を受けたあと、抗がん剤を服用(10月から)しながらレッスンに通っていた。だが、以前の自分とまるで違っていた。手術前は、音楽を聴けば自然に体が動いていたのに、動きたくない、面倒くさい、と思うようになった。覚えも極端に悪くなった。それでも踊りを止めなかったのは、私の変化を「危ない」と感じた先生が叱咤激励し続けてくれたおかげである。

 時折気力が失われ、「俺は死ぬのではないか」とさえ思うようになっていた。抗ガン剤を服用しているのに、腸に悪性ポリープが発見(09年2月)され、ガンの再発である。内視鏡で切除したものの、何時どこに転移するか分からないという不安に見舞われた。私は、初めて真剣にガン関係の書籍を読み出して愕然とした。

 

基礎体力を養う

 現代医学ではガン再発を抑える手立てがないことが分かった私の憂鬱な日々の中で、ようやく「素問八王子クリニック」にたどりついたことは前に書いた。前述のように、抗ガン剤のせいで、私の体力は、手術前と後では同じ人間とは思えないほど変っていた。そこで免疫力が強化されても、体力・気力が衰えたら治療の効果も落ちると考えた。体力は自分で鍛える以外にないと思い、目的意識的に歩き出した。ところが足が重くて早足で歩けない。それにやたら疲れるのだ。歩くのが辛かった。だが、ここでくじけたたら駄目になる、と思って歩きつづけた。

 にもかかわらず、どんどん体が硬くなっていった。友人の勧めでチベット体操を始めた。ポーズは5つしかないのだが、どれも出来ない。それでもハアー、ハアーと肩で息をしながら止めずに続けた。そのうちに少しずつ腰が柔らかくなって、股関節に変化が感じられるようになってきた。1年ほど前は瞬間ではあったが、歩いているとき「バランスを崩す」ことがあったのに、それが完全になくなった。同時に首筋の左にあった頑固な凝りもなくなった。

 1月中旬のある日のことである。鏡の前でチベット体操をしていた私は、自分の姿に目を奪われた。右肩と左肩が水平に近くなっているのだ。50余年前、私は結核に罹患して右の肋骨を6本部分切除していた。肺の気管支を物理的に潰して結核を治癒させるという原始的な手術であるが、それで命拾いした。だが後遺症で手術をした右側の肩が上がって体型が変形し、右手が背後に回らない障害がおき、身体障害者手帳が交付された。その肩が水平に近くなっていたのだから、本当にアッと驚きの声を発した。そして嬉しかった。

 自律神経免疫療法、食事療法、屈伸運動、気功、チベット体操、1日8000歩 (約5・5キロ)のウォーキング、健康食品のプロポリス服用――この何が効果あったのか分からない。だが今、ようやく手術前のように、体の中からエネルギーが湧き出る確かな感触が蘇ってきている。今の私は「現代医学に頼っていたら今日の私はなかった」とかなりの確信を持って言える。

 

現代医学ではガンに対抗できない

 現代医学はガンが再発しても対処する術をもっていない。09年12月26日、NHKテレビが夜8時45分から「働き盛りのがん」を放映した。ある銀行員がガンの転移で8回も手術した話であった。全身麻酔で手術の経験のある人なら、8回の手術がどんなに苛酷なものか容易に想像できる。現代医学のガン再発・転移に対する対応は、抗がん剤使用は論外として、手術しかないのである。だが既に指摘した通り、手術を受けた患者の生存率は5年以内で約半数近くが死亡している。

 

なぜ細胞がガンになるのか

 それに対して真柄俊一先生は、前著も今度の『バカ力』でも、ガンは「自然治癒力」で治ると主張し、実践している。現代医学は、ガン治療に①手術、②抗がん剤使用、③放射線照射で対処しているが、そこには、人間の自然治癒力に依拠するなどという考えは微塵もない。真柄先生とはガンに対しての捉え方がまるで違う。ガン治療の最高権威者の奥さんの命をも容赦なく奪ってしまう現代医学による治療と、免疫治療によって助かった患者――。ガン患者はどちらに関心を寄せるだろう。 

 

 それはともかく。真柄先生は『バカ力』の扉(表紙の裏・本文にも)にこう書いている。

 

 ①ガンは自然治癒力で治る。

 ②その「治る仕組み」は遺伝子に書き込まれている。

 ③ヒトが進化の過程で経験したことが遺伝子に書き込まれている。

 ④進化の過程で経験していないことをすると、危険なことが起きる可能性がある。

 ――これが私の基本的な考えであり、全てこの考えにそってガン治療を行なっている。

 

 人はなぜガンになるのであろうか。ガンは細胞の病気だというのなら、なぜ細胞が変化を起こすのだろうか。ガンに関する書籍を満遍なく読んだわけではないから断定はできないが、それに言及したものを、私はまだ読んでいない。

 それどころか、日本のガンの発生率と動物性蛋白や、脂肪の消費量と比例しているという趣旨の記述はしばしば目にする。だったらガンの発病と動物性蛋白質や脂肪の摂取と関係あると考えるのが常識であろう。だが、医療現場の医師たちから、動物性蛋白や脂肪の摂取を控えた方がガン再発防止に繋がる、という指導はない。本連載③で紹介した済陽(わたよう)高穂先生が唯一例外で、他の医師たちは患者に食事について何も指導していないのは、なぜなのだろうか。

 真柄先生の優れているのは、初診のとき2時間近くを費やし、①自律神経免疫療法の成果を具体的に説明し、②食事とガンの関係を「人類史発展の中で位置づけ」て説明、③メンタルケア(心の持ち方で克服できる)の重要性を説明している。既成の現代医学と異なる観点からガンを捉え、治療をすることを患者に十分説明を行なっていることである。

 

 ガンに関する出版物は少なくない。「なぜ、ガンが発生するのか」に触れている書籍はあるのかも知れないが、私が読んだ範囲内では真柄先生の前書『がんを治す「仕組み」はあなたの体の中にある』と『バカ力』だけであった。この免疫療法が日本でなぜ無視されているのかが、私には大きな疑問となっていることが、本連載を書いている主要な理由の一つである。(続く)

更新日:2022年6月24日