民主党を占拠した危険な「小沢軍団」

佐藤勝巳

(2010. 1.28)

 

 懸案の民主党小沢一郎幹事長の東京地検特捜部の事情聴取(1月23日午後)が終わった。自民党の複数の政治家が「政治資金で4億円もの不動産を買うなど信じられない」とテレビで発言していたが、私を含めた多くの国民もそう思ったことであろう。

 小沢氏のカネの問題をめぐる一連の報道を見ながら私の中には、何か変だ、どうもピントが合っていない、という違和感がぬぐえないでいた。ところが、1月23日号の『週刊文春』の「朝5時起床、鳥のエサ、雑巾がけ<小沢秘書軍団>鉄の掟」を読んで、私の中にくすぶっていた謎が解けた。

 何より驚いたのは、書生2人、私設秘書15人を抱えているという記述であった。今どき2人もの書生(住み込みの男子のお手伝い)を置いて、鳥のエサやりや雑巾がけをさせ、秘書を15人も抱えている――目が点になった。『週刊文春』は<秘書軍団>と呼んでいるが、15人もの秘書に一体何をさせているのであろうか。問題の世田谷の土地建物は、秘書たちの寮であるという。

 昨年8月の総選挙で、民主党から164人の新人が立候補し、143人が当選した。同党が獲得した308議席のうち5割近くを新人議員が占めた。143人の新人を当選させたのは十数名の秘書を抱える「小沢軍団」の力が大きく働いていることは、誰もが認めざるをえない事実だ。

 前掲の『週刊文春』は、「三年前の参議院選挙で、ある陣営に入った小沢さんの秘書は、まだ二十代前半で、秘書経験も乏しく、スタッフに指示などできなかった。でも、候補者に随行して『小沢一郎秘書』の名刺を配るだけで十分効果がありました。 毎晩、誰が事務所に来て、候補が何時から何時まで辻立ちしたというレポートを、東京に送るものだから、陣営は締まりましたね」と民主党秘書の話を紹介している。ここから小沢軍団長(幹事長)の威光のほどが伝わってくる。

 だが、小沢氏は15人の秘書をどう使って、143人もの新人議員を当選させたのであろうかという疑問が湧いてきた。機械的に計算すると、秘書1人で9・5人の候補者を担当しなければならない。私のささやかな運動の経験から推測すると、次のようになるのではないか。

 

 まず秘書KがA候補の選対入りをして、選対幹部には地域ボスと連携させ、候補者並びに若い活動家を最低数名から10人ほど組織し、「選挙の意義と役割」、そして選挙テクニックを教育する。言うなれば活動家集団を作り、担当秘書と絶えず連絡を取るようにする。K秘書は、A候補の組織が終わるとB候補にも同じ形の集団を組織化していく。K秘書の手元には、毎日、担当候補者の選対や活動家から報告が寄せられてくる。それをまとめて小沢軍団長に報告、指示を仰ぐ。小沢氏は人手の足りないところにはその手配を、資金の足りないところには資金を(小沢氏は幹事長として民主党の莫大な政治資金を握っている)と手を打って行く。このようにして小沢氏は選挙指導と選挙資金配分で、完全に民主党を握ったのだ。

 誤解なきよう断っておくが、これは私の推測である。このように外から見えない秘書軍団の裏の動きと、表では民主党の子ども手当に象徴される大衆迎合の政策がドッキングされ、物質亡者の有権者を捕らえていった。そうでなかったら自民党のミスだけで、民主党の新人が143人も当選するはずがない。

 

 われわれ国民の目には、民主党小沢幹事長が選挙の指揮を取っているように見えるが、実は幹事長の手足になって動いているのは民主党の職員ではなく、「小沢軍団」の十数名の私設秘書である。前掲『週刊文春』は書生が「朝5時起床、鳥のエサ、雑巾がけ」と問題ありと言わぬばかりの文脈で書いているが、これは誤解であろう。 

 政治を志すものは、まず国会議員を目指す。たかが半年ほど、朝5時に起きて、庭の草をむしり、鳥にエサを与え、拭き掃除をすることで、政界実力随一の政治家の秘書になることが出来る。小沢軍団長に認められれば国会議員のバッジをつける可能性も生まれてくる(樋高剛、石川知裕両先輩が衆議院議員になっている)。二十代前半の若造が、小沢一郎氏の「秘書」という名刺を出すだけで、周辺が一目も二目もおく。それだけではなく、彼らの指示で人が動き、国会議員が生まれていく。政治が面白くて堪らなくなっていくのではないか。秘書たちが競って小沢氏に忠誠を誓うであろう事がよく分かる。なぜなら独裁者金正日と家臣の関係と酷似しているからだ。

 

 それはともかく、小沢氏は私設秘書を使って国会議員をこれほど多数当選させた最初の政治家ではないかと思われる。国会議員を大量生産できるノウハウを持っているのは、政界では小沢氏を置いて他に見当たらない。だが、多数の私設秘書を使いこなすには、多額の費用が必要となる。ゼネコン関係者の話では、例の西松建設の裏献金など「業界の常識」と言われているという。 

 そのためであろうか、陸山会(小沢の資金管理団体)の会計責任者兼公設第1秘書が西松建設からの裏金問題で、政治資金規正法違反容疑で2009年3月3日に逮捕され、小沢一郎氏は民主党代表辞任に追い込まれた。しかし、次の党人事で小沢氏は幹事長に就任し、小沢軍団の力で天下を取り、鳩山由紀夫氏を首相に他の幹部を大臣にした。小沢氏の秘書3人が逮捕されても、民主党内から小沢氏に対する批判が出てこないのは、小沢氏抜きで民主党政権の実現はなかったことを、民主党議員が一番良く知っているからだ。

 世間では、自民党をこらしめるために、有権者が民主党を選んだという見方が支配的であるが、私はそうは思わない。どんなに情勢が有利でもそれを組織する力がなかったら、選挙に限らずどんな運動でも勝てない。自民党並びに鳩山氏に代表される青白きインテリ、評論家もどきの政治家に欠けているのは、小沢氏のような行動力、組織力である。

 つまり民主党が天下を取ったのではなく、小沢氏が天下を取ったのだ。鳩山首相は小沢氏の傀儡(かいらい)ではなく、出来の悪い部下にしか過ぎない。小沢氏は天皇陛下に対して、中国共産党の幹部に面会せよと事実上命令した。鳩山氏はこんな驕り高ぶった小沢氏に抵抗できず、走り使いをしていたではないか。

 

 小沢氏は、自分の手足になって動く強力な秘書軍団を組織したが、政治家にとってもっとも重要な政策集団(シンクタンク)を持とうとしない。小沢氏はどんな日本を作ることを目指しているのか皆目分らない。このデフレ不況からどういう手段で脱出、国家収入を増やし、国民の生活を守ろうとしているのか、発言していない。

 小沢氏は、普天間基地の県外移設を唱えているが、過去60年間日本の安全は、日米安保条約で保障されてきた。「日米安保を破棄して核保有する」との覚悟があって「米軍は沖縄からで出て行け」いっているのなら見上げたものだが、そうではない。そんな度胸も気概もなく、600余人を引き連れ北京参りをし、アメリカに対してはなんの政策も提示しないで「米軍は沖縄から出ていけ」といっている。これ以上の無責任の政治家はいない。

 

 政策なき政治家は、単なる独裁的選挙屋にしか過ぎず、豪腕が聞いて呆れる。それにしても、こんな政治家、民主党を選択した日本の有権者の見識の程が問われている。早く気づかなければ大変なことになる。余りにも憂鬱すぎる話ではないか。

更新日:2022年6月24日