親中反米の鳩山政権

佐藤勝巳

(2009.12.14)

 

6者協議は日韓の核抑止の場

 米政府ボズワース特別代表(北朝鮮政策担当)訪朝の目的は、金正日政権を6者協議に復帰させることにあった。

 北朝鮮を除く5者は金正日政権に核を破棄させるのだと言って、2003年から延々と金正日政権相手に交渉をし、55万トンの石油を無償供与してきた。挙句の果てが、2006年10月と09年5月の2 回、核実験をされてしまった。また09年4月には、中距離弾道ミサイルの実験をした金正日政権に対し、国連が制裁決議を採択すると、北朝鮮外務省は同月14日、北朝鮮の核をめぐる6者協議に「2度と絶対に参加しない」と声明を発表したのであった。

 つまり6者協議は明らかに、アメリカ、中国、ロシア、韓国、日本の完全な〝敗北〟であったにもかかわらず、5カ国は言い合わせたように総括を行なっていない。それどころかオバマ政権と胡錦濤政権は、金正日政権に6者協議参加を熱心に促している。6者協議を継続している限り金正日政権の暴走を阻止できる、という狙いのほかに、米中にはもっと大きな思惑があると私は見ている。

 そのことについて10月8日付本欄「日韓の核保有を押さえ込む6者協議」のなかで、以下のように記した。

 「今ひとつ米中が恐れているのは、北の核保有を理由に、韓国、日本、台湾が核保有に動き出すことである。この場合米中の利害は一致する。6者協議に台湾は入っていないが、日本と韓国はメンバーである。金正日政権が核放棄しないことを知りながら、米中が6者協議、6者協議と空疎なことを言っている本当の狙いは、日韓の核保有を押さえ込む謀略ではないのかとさえ思える。金正日政権は、米中のこの思惑をうまく利用し、今後も物などをせしめ、生き延びを計るであろう」

 

 上記のように私は、ボズワース氏の訪朝は、日韓台の核保有を押さえるための具体的行動だと予測していたが、案の定、具体的な合意はなく、6者協議再開の必要性と金正日政権の核放棄を明記した2005年の共同声明の履行の重要性を確認した、というものであった。 

 本欄で繰り返し言及してきたように、アメリカは、金正日政権が核など放棄する気は全くないのを承知の上で、交渉を続けていくことが目的であるから、米朝交渉が進まなくても、日韓が核武装を言い出さない限り、困ることはないのだ。

 

 問題は、金正日政権がデノミを断行せざるを得ない経済状況下で、のんびりとアメリカと交渉している余裕はない、ということだ。このまま物資が供給されなければ、またインフレが進行し、貨幣単価が低下していく。国民は、紙くず同然の自国の通貨ウォンではなく、中国元や、米ドル、円などの外貨を、そしてコメなどモノも蓄えるようになるだろう。そうなるとデノミすらも無意味になり、ますます金正日政権の威信は失墜していくことになる。前回も本欄で指摘したように、北朝鮮の今後は、中国がどう動くかにかかっている。予断は許されない。

 

反米朝貢外交

 その中国に民主党小沢一郎幹事長は630名の家臣を引き連れ、北京に「朝貢」(中国の皇帝に貢物を捧げること)した。中国は、小沢氏のために巨大な黒塗りのリムジンを用意し、一般車両を止めてノンストップで市中の人民大会堂に向かった(産経新聞12月11日)という。小沢氏は胡錦濤国家主席と握手するとき、満面の笑みを湛え颯爽と歩いていた。その姿は、生気に溢れ、1972年に周恩来首相と日中共同宣言を発表した小沢氏の師匠、田中角栄氏の往年を彷彿させる。

 胡錦濤主席、小沢一郎氏を中心に訪中団の大集合写真や、国会議員1人1人が錦濤氏と写真を取る様は、金日成時代に平壌を訪問する外国人要人と金日成は必ず写真をとって労働新聞に掲載していたのを思い出した。この大仰な騒ぎは中国にとって、日本人が600余名も胡錦濤氏を慕って北京を訪れたと、中国人民に強力にアピールできる。そして、胡錦濤の政治基盤の強化に連なる。訪問した民主党国会議員は、中国のトップと握手できたと選挙民にアピールできる、ということなのであろう。

 果たしてそうであろうか。小沢一郎氏が民主党の実権を掌握したことによって、時代は一挙に1970年代の日中関係に戻った。共産主義国家のトップを偉いと思う小沢一郎氏はじめ民主党の本質は、かつての日本社会党や日本共産党と余り違わない時代錯誤の政党であることをわれわれに改めて教えてくれた。

 集合写真と握手のお礼なのか、近く訪日する中国要人が天皇陛下に会えるよう鳩山内閣が慣例を破って、宮内庁に圧力を加えたとして問題になっている。北京では古い感覚で胡錦濤氏と癒着し、国内では天皇陛下も政治に利用する。こんな政党に衆議院に議席308を与えた選挙民は不明を深く恥ずべきだと思う。

 

社民党に近い安保認識

 一方、鳩山由紀夫首相は、普天間の基地移設問題で右往左往した挙句、同盟国アメリカよりも、時代錯誤の社民党に傾斜したのは、中国や北朝鮮の捉え方が小沢幹事長と同じく社民党に近いのではないのか。

 日本から米軍基地をなくし、日本の安保は日本の核で守る、と言うのなら分かる。そうではなくてわけの分からない「アジア共同体」などと言われると、民主党支持者でも〝大丈夫か〟と不安に陥ると思う

 小沢・鳩山両氏の言動は、鳩山政権の軸足は北京にあると言われても仕方がない。わが国に親中反米政権が出現したのである。

 オバマ政権は日本政府との会談に一切応じなくなることだろう。だが、鳩山首相には危機感も、自分の国は自分で守るという気概もなく、報道機関のカメラに向かって「沖縄県民の気持ちを重く受け止め」「日米合意も重く受け止め」など矛盾することを平気で口にして、問題の先送りを図っている。

 予算の編成をめぐっても、国民新党との不協和音は理解出来るとしても、民主党の閣僚が国債発行高をめぐって、勝手なことを発言している。また、ここ数年間で10億円近いカネが母親から首相に子ども手当てとして渡されていたことも判明した。首相の脱税容疑が避けられなくなってきた。日米合意の辺野古移設を認め、辞任の可能性は否定できなくなってきた。

 

不透明な政治

 民主党の迷走に、野党・自民党は切れ味鋭く迫るどころか、その存在感さえ薄らいでいる。いまやわが国では拉致も核も口の端にも上らなくなった。3ヵ月前までは全く予想も出来ない事態の急変である。

 北朝鮮でのモノ不足とは反対に、わが国では激安物価で深刻な不況を招いている。景気の悪化で、来年は失業者がもっと増えると言われているなかで、12月中に予算編成はやるとは思うが、後がどうなるのか全く予測がつかない。 

 小泉純一郎元首相が総選挙直後「民主党政権は年内までもたないのではないか」と言ったという話を耳にしたとき、内心まさかと思っていたが、政治のプロ小泉氏の予見が現実のものとなりつつある。

更新日:2022年6月24日