鳩山首相の真意を問う

佐藤勝巳

(2009.11.11)

 

 鳩山由紀夫首相は、「日本政府としては、(北朝鮮による)日本人拉致、核、ミサイルなどすべての問題が解決した後でなければ、国交正常化交渉を行わないという立場ではない。国交正常化プロセスの中で一つずつ解決していく方法もありうる」(朝鮮日報11月4日)と発言した。

 

 この発言を引き出したのは、2000年から01年にかけて韓国駐日大使であった崔相竜高麗大名誉教授で10月31日話したものだという。それを崔名誉教授がまとめて朝鮮日報に寄稿したものである。

 

 この中身が事実なら、鳩山内閣の対北朝鮮政策は、従来の自民党政権のそれと大きく変わったと言うことである。ただ、鳩山首相の発言で理解できないのは、拉致、核、ミサイルが解決しないと国交正常化交渉を行わないなどと、自民党、公明党、民主党も言ったことがない。鳩山首相は、自公政権が採ってきた「拉致の進展がなければ、重油、食糧など一切支援しない」という政策を勘違いして発言している可能性がある。

 

 問題なのは後半部分の拉致、核、ミサイルを「正常化プロセスの中で一つずつ解決していく方法もある」という箇所だ。思いつきで発言したのなら訂正すれば済むことだが、考え抜いて発言したものなら(鳩山内閣ではこういう外交政策を誰と誰が、どの会議で決めるのだろう)大問題である。

 

 何が問題なのか。鳩山首相は、拉致が「進展」(自民党政権は、金正日政権が拉致を認め、全員を帰すための交渉についたときと規定していた)しなくとも日朝正常化交渉を始めるということなのか。国会で是非とも確認していただきたい。そして、なぜ、正常化プロセスの中で一つずつ解決する方針になったのか、その根拠も国会で糾して欲しい。

 

 そもそも拉致の「進展」を日朝正常化交渉の入り口に持ってきたのは、金正日政権の拉致被害者は死亡しているという出鱈目な主張を封じ込めるためだ。また、もっとも重要なことは、鳩山首相の言う「国交正常化交渉のプロセスの中で一つずつ解決していく」などという甘いやり方をしたら、150万トンのコメをタダ取りされた過去の自民党政権の二の舞を演ずるだけだ。そして機会を見て、拉致被害者を消すという金正日政権に手を貸すことになる危険極まりない政策である。

 

 拉致を解決しない限り、「コメ一粒、油一滴、部品一個」与えないという厳しい態度で臨むことが、拉致解決の近道なのである。 これが今まで10年余、拉致救出運動に関係してきた人たちの実戦から導き出された教訓である。 

 あくまでも鳩山首相が自分の考えにこだわるなら、拉致被害者の生命に直接かかわることであるから、かつてわれわれがコメ支援に反対して、外務省前や自民党本部前に座り込みをしたように、首相官邸前や民主党本部前に座り込んでも反対しなければならない。

 ただ、この鳩山発言を日本の報道機関はどこも報道していないことが気になる。幸い、国会開会中であるから、是非とも急いで、鳩山首相の真意を正してほしい。

更新日:2022年6月24日