町村信孝官房長官と緊急面会
佐藤勝巳
(2008. 6.19)
下記の3団体代表は、6月17日、町村信孝官房長官に面会し「申し入れ」書(下記)を手渡し、改めて口頭で要請を行った。
平成20年6月17日
内閣総理大臣 福田 康夫 殿
内閣官房長官 町村 信孝 殿
北朝鮮による拉致被害者家族連絡会 代表 飯塚繁雄
北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 会長 佐藤勝巳
北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟 会長
平沼赳夫
申 し 入 れ
政府は日朝協議後の6月13日、北朝鮮が「拉致は解決済み」という立場に固執せず「再調査」をすると約束し、それと引き換えにわが国は制裁の「一部」解除を実施することになったと発表した。
北朝鮮が従来の立場を変更して拉致問題での協議に臨んできたのは、近年のわが国と国際社会からの圧力が効果を上げたからに他ならない。
にもかかわらず、被害者の帰国実現が見られない時点で、先走って制裁の解除を行うのは、「行動対行動の原則」に反した一方的な圧力緩和であり、到底受け入れられるものではない。特に万景峰号などの北朝鮮船舶の入港再開は、積み込み可能な「人道物資」の定義が不明確な以上、「一部」どころか大きな解除となる可能性がある。交渉のテクニックといわれても容認できない。政府は政策を変更していないと言うが、その説明は納得できない。
報道によると日朝協議の数日前から万景峰号入港に向けた手続きが取られていたというが、事実なら交渉の中身を知っている人間が事前に金正日政権に漏らした大変不透明で不可解な現象である。
憂慮されるのは、わが国が制裁の一部解除を行うことが、米国におけるテロ支援国家指定解除の動きを加速させかねないということだ。そうなれば、北朝鮮が被害者を帰国させるための調査を実施せず時間稼ぎやごまかしに出る可能性が一層高まる。
事態が動き始めた中、すべての被害者を帰国させるという拉致問題解決の本来の目標のために、政府関係者のより一層の覚悟と努力を心から求めたい。
私たちは、以下のことを政府が行うよう強く要請する。
1.拉致問題に対する政策が変更されたのかどうかについて、多くの国民に分かるような十分な説明をしていただきたい。
2.北朝鮮が、納得のいく「被害者の帰国につながるような再調査」を実行するまで制裁解除の手続きを進めないでいただきたい。
3.北朝鮮が約束に反して、調査を引き伸ばすなら、より強い制裁を科していただきたい。
4.「拉致被害者全員を帰国させるという方針のもと具体的行動を北朝鮮が取らない限り拉致問題の実質的進展はなく、テロ国家指定を解除すべきでない」ことを、全力を尽くして同盟国米国に対して働きかけていただきたい。
政府の方針に変化なし
われわれが最も懸念していたことは、金正日政権が拉致被害者を帰す具体的行動もとっていないのに、一部であれ制裁解除の中身を公表したことである。北が「再調査すると」発言しただけで、制裁解除を口にした日本政府に対して、国民から「そんな馬鹿な」という声が澎湃として沸き起こった。
当然のことである。その声を反映したのが上記3団体の「申し入れ」である。申し入れの核心部分は2点。
①金正日政権が拉致被害者を帰すことが確実視されるまでは、制裁を解除してはならない。
②拉致の進展がない限り、テロ支援国家指定解除に反対すべきである。
これに対して官房長官は、金正日政権との交渉は「言葉対言葉、行動対行動で、拉致被害者を帰すという具体的行動がない限り制裁解除はありません」と回答をした。
さらに「拉致解決に進展がない限り米国にテロ支援国家指定解除には同意できないことを伝えていきます」と明確に回答している。
また最後の方で、政府の拉致救出の姿勢については従来と変わりがない、と官房長官は再度言及した。
よど号犯には重労働刑を
それでは、今回の騒動は何だったのかということになるが、ヒル国務次官補と金桂寛外務次官の間で進めている米のテロ支援国家指定解除のための動きにすべての原因があった、と私は見ている。
日本国内に、拉致解決の進展なくしてのテロ支援国家指定解除は日米同盟に亀裂が生まれる、という考えが定着化して来ている。政府もあらゆるルートを通じ、米政府に同趣旨のことを伝えてきた。
そのため、ヒル国務次官補と金桂寛外務次官は、日朝関係を「改善」しない限りテロ支援国家指定解除は難しいと判断して、日朝交渉の中身として、拉致被害者の「再調査」と「よど号犯釈放協力」を提案してきたのだ。
この提案に①制裁の一部解除、②人の往来の制限解除、③チャーター便制限解除で、対応する旨官房長官が発表したので、騒然となったのである。
しかし、上記3団体はじめ、マスコミや国民の多くが、金正日政権の言う「『再調査』など信用できるか。よど号犯など拉致進展と何の関係もない。刑務所に入れておくと税金を使うことになるから、受け取るな」と、政府に抗議したのである。
話はそれるが、よど号犯のようなふざけた人間は、中国に頼んで彼らの足に鎖を付け、地震の復旧工事の重労働に終生参加させる、という刑罰を科すのが相当だと筆者は、考えている。責任を取るということがどういうことか、教えてやるべきである。
釈放に協力した金正日政権をわが国がどうして制裁解除の対象にするのか。馬鹿なことを言ってはならない。テロ犯をかくまってきた金正日政権に謝罪を要求するのが常識というものであろう。
そして6月17日の拉致関連3団体の「申し入れ」に対する町村官房長官回答と、従来の政府が言ってきた「拉致の進展」の定義と表現は違うが中身は同じものである。
福田首相も16日自民党役員会で、「相手が何もしないのに、人的交流やチャーター便乗り入れ、船の入港を認めることはない」(6月16日時事)と言っている。
先行き流動化
さて、金正日政権が望んで止まないテロ支援国家指定解除はどうなるかであるが、17日の町村官房長官の回答で、大きな壁に突き当たったと言える。
今までのヒル・金桂寛両氏のやり方を見ていると、このままおとなしく引き下がるとは思われない。何か仕掛けてくる可能性が高い。
テロ支援国家指定解除の条件として、
①米政府が、日本人拉致被害者を帰せと金正日政権にどこまで主張するか。
②金正日政権が拉致被害者を本当に帰す気があるのかどうか(筆者は政府認定拉致被害者などを帰す可能性は、現時点では極めて低いと見ている)。
③テロ支援国家指定解除に対する米国内の議会やメデァなどの動向。
こうした国内外の複雑な力関係のなかで、テロ支援国家指定解除の行方が決まっていくであろうが、日本政府の態度は、拉致被害者を帰してきたら動く、ということで一番はっきりしているものの、現時点では流動的で、どうなるのか予測は難しい。
かなり角度の高い米国からの情報として、金正日政権がブッシュ政権に渡した寧辺の核関連の18882ページの資料の中身は、プルトニウム抽出はゼロというものだと伝えられている。遠くない将来、真相が明らかになるであろう。
このペーパーの内容如何によって、情勢は大きく動く。