日朝交渉再開の背景

佐藤勝巳

(2008. 6.10)

 

拉致の「進展」が条件

 報道されているように、6月11日、12日北京で公式の日朝交渉開催が決定した。昨年9月のウランバートル会談以来である。

 しかし、なぜ、今、突然会談を再開したかというと、ヒル国務次官補と金桂寛外務次官は、「誤魔化しの非核化」で何とか格好をつけたいと策動しているが、この誤魔化しのシナリオ進行過程で、日本人拉致の「進展」が米朝間で避けられなくなってきた、というのが真相であろう。

 日本政府の態度は、米政府のテロ支援国家指定解除には「日本人拉致の『進展』がない以上同意できない」「非核化に必要な資金も提供できない」したがって米政府が求めている金正日政権の非核化も前進しない、というものである。

 ブッシュ政権が、日米同盟の利益を優先させるのであれば、日本人拉致の「進展」(拉致被害者の返還交渉のテーブルにつくこと)が必要と金正日政権に迫ることによって、拉致解決と非核化が同時に実現できるのである。

 しかし、従来の米国務省の態度は、テロ支援国家指定解除は日本人拉致問題とは関係ない、という立場をとってきた。多分、今もこの考えは変わっていないと思われる。

 本欄でも再三触れてきたが、昨年12月上旬のブッシュ大統領の金正日国防委員長宛の親書は、非核化の中身を内外に明示したことで、ヒル国務次官補と金桂寛外務次官の「八百長」が頓挫した。

 しかし、3月頃から再びヒル・金両氏は、ブッシュ政権による50万トンの食糧支援、金正日政権による18000ページのプルトニウム抽出関連資料の米政府への提出、という巻き返しに出てきた。

 だが、資料精査も終わらないうちに、プルトニウム抽出量は「37キロ」などという数字が米国務省筋から流れ出している。

 同時に、テロ支援国家指定解除が昨年11月に次いで話題になってきた。しかし、昨年11月と今回違うのは、金正日政権から日朝交渉が日本政府に提案されてきたことである。

 この変化は、アメリカ側から日朝関係が現状のままではテロ支援国家指定解除は難しい、というメッセージが今までよりは強く伝えられたことは外務省筋も認めている。

 この変化は、6者をめぐる日米交渉のなかで、昨年10月頃のように、拉致を置き去りでテロ支援国家指定解除を推進したら日米同盟に亀裂が入り、米国がより大きな利益を失うということをリアルに認識した、ということであろう。

 このような成果は、政府、拉致被害者家族、議連、救う会などが打って一貫となって、ブッシュ政権や議会、メディアなどに上記のメッセージを送り続けた結果である。これは評価すべきことであろう。

 次に、金正日政権はこれまで米側から日朝の関係改善が必要だと要請されても無視してきたのに、なぜここで日朝交渉を受け入れたのか。

 金正日政権は、この2年間、「拉致解決に『進展』がなければ、コメ一粒、油一滴出さない」という日本政府の方針とわれわれの運動にぶれが見られないことをみて、対策を模索しだしたということなのか。あるいは「よど号」犯人を引き渡し、テロ支援国家指定解除の環境整備なのか、様子を見ないと現時点では判断できない。

 日本にとって「よど号」犯帰国と拉致の「進展」とは何の関係もない。犯人は帰ってきたら逮捕するだけの話である。

 

謀略報道と分裂策動との戦い

 しかし、金正日政権は、本欄で指摘してきたように、5月に入って拉致問題をめぐって、読売新聞と毎日新聞が事実無根の謀略情報を一面トップで相次いで報道し、軌を一にして、「日朝国交正常化促進議員連盟」が結成される、という一大謀略攻勢をかけてきている。 

 だが、こうした一連の攻勢に対して、家族会、救う会、議連などの運動に、一切動揺は起きていない。6月8日おこなわれた、政府の拉致対策本部・福島県・救う会全国協議会・救う会福島4者共催の「北朝鮮に拉致された日本人を必ず救出する国民大集会in福島」では、1000名の県民が参集し、壇上と会場とが一体となって救出を誓った。

 引き続き、6月21日には岩手県盛岡市駅前市民文化ホール(13:30~16:00)で、1500名規模の「北朝鮮による拉致被害者救出のための国民大集会in岩手」が開催される。

 7月6日には愛媛県松山市民会館大ホール(13:30~15:30)で、2000名規模の「拉致被害者を救出するぞ!国民大集会in愛媛」集会が準備されている。

 また、8月24日富山市、11月2日さいたま市(さいたま市民会館おおみお)で、と続々と集会が準備されている。運動は全国規模で活発化している。

 われわれは、謀略情報や分裂策動に対して、政府・自治体・救う会、家族会、国民が一体となって、拉致被害者救出の決意を断固として内外に伝えていくことが重要である。

更新日:2022年6月24日