以下の文章は、08年3月16東京で開かれた「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」で佐藤勝巳が報告した「情勢」である。

 

拉致救出を取り巻く情勢

佐藤勝巳

(2008. 3.18)

 

テロ支援国家指定解除問題

 07年9月の幹事会以後情勢はめまぐるしく動いている。

 救出運動がピンチを迎えたのは昨年11月、米国務省がテロ支援国家指定解除に動き出したときである。

 だが12月上旬、ブッシュ大統領は金正日に親書を送った。親書の中身は、①寧辺の核施設の無能力化、②核施設などの「完全で正確な申告」=使用済み核燃料棒の処理、保有されているプルトニュウの量、保有している核爆弾数、超濃縮ウラン施設。③海外などに移転させた(拡散)核関連の申告、の3点である。

 この「親書」によってヒル・金桂寛の裏取引が出来なくなり、6者協議が行き詰まった。テロ支援国家指定解除も立ち消え、米朝国交樹立も話題にもならなくなった。楽観は出来ないが、拉致救出に不利な状況が打開されつつある。

 

日本国内の動き

 上記米朝接近を見て、米朝国交正常化が近いと判断、自民党内に昨年12月上旬、日朝国交正常化を視野に入れた「朝鮮半島問題小委員会」、民主党内には2月22日同じ趣旨の「朝鮮半島問題研究会」なる議連が立ち上げられた。

 しかし、ブッシュ「親書」で米朝が動かなくなったため、二つの議連は (公安情報によれば)一部家族会のメンバーなどを帯同、訪朝する計画を立てていたが、訪朝は中止されたとのことである。

 理由は、米朝関係が冷却化し情勢が変わった。山崎拓・加藤紘一氏らが福田首相に制裁解除を求めたが応じられず、訪朝の土産がなくなり、金正日政権からも土産のない訪朝団を受け入れても仕方がないということで招待状が届いていない。これもブッシュ「親書」効果である。

 

韓国情勢

 盧武鉉政権から李明博政権に変わった。李明博政権は、金正日政権に核の破棄を援助の前提条件としているこの点が前政権と違う。韓国人拉致についても、前政権よりは積極的であり、北の人権問題も取り上げる発言をしているのが大きな違いである。

 他方、「実利主義」を掲げているが、自由主義的価値観、韓国憲法の擁護、などの理念ではなく、「実利」が基準であるから、情勢如何では金正日を援助することが「実利」ということもありうる。理念なき「実利」の不透明さ不安定さを持っている。

 

金正日政権の動き

 金正日総書記は、1月30日「朝中友好は、両党と両国の指導者が残した貴重な財産だ。われわれが中国を裏切ったり、信義を忘れたりすることがあろうか」と胡錦濤国家主席の特使として北朝鮮を訪問した王家瑞中国共産党対外連絡部長に伝えたと、中国国営通信新華社1

 月31日報道した(北朝鮮は報道していない)。

 上記会談は、ブッシュ「親書」の約1ヵ月後である。金正日が今まで中国を裏切って、米朝接近を図ってきたことは天下周知の事実。ブッシュに「親書」を突きつけられて、今度は胡錦濤に「裏切りはしない」と忠誠を誓った。

 ライス・ヒルから見れば、これは金正日の裏切りである。6者協議などうまく行くはずがない。金正日は米中を手玉に取ろうとして、両方から見放された、というのが現実である。中国の金正日政権援助の絶対条件は核放棄である。これからの朝中関係がどう動くのか注目される。

 米国の朝鮮半島への関心は、核さえ拡散しなければよい、それだけである。したがって米中が金正日に核放棄させるために手を結ぶ可能性も否定できない。

 問題は日本である。このような情勢の中で、日本の拉致救出の従来の方針を断固堅持し、外交を展開すべきであろう。金正日政権は後継者問題でも矛盾が顕在化し、張成沢派が他の系列を粛清し出している。

 

救う会の当面の課題

 福田内閣成立以来、政府の拉致救出6項目に対して、自民党内外から話し合い路線に転換しろとの圧力が一部の報道機関も含め強まってきている。

 運動方針に示されているように、われわれは政府の救出方針を支持・補強することである。具体的には、救う会・県・国の3者主催で、国民を結集、内外に強力にアピールしていく。結局、政府の方針は、世論の支持の度合いによって決まっていく。拉致救出を担う「救う会」の責任はますます重大になってきている。

更新日:2022年6月24日