「ならず者」にまた騙された

佐藤勝巳

(2008. 1. 8)

 

 金正日政権は、07年末までに約束した寧辺の核施設の「無能力化」も北朝鮮の「全核施設の申告」もすべて反故にした。またもやヒル国務次官補を先頭に5カ国は騙されたのだ。

 金正日政権は、07年7月に韓国、同9月に中国、同10月に米国からそれぞれ5万トン計15万トンの重油を手に入れた。取るだけ取って約束は実行しない。詐欺としては立派な腕前である。

 当初、6者協議は100万トンの重油と引き換えに北の全核施設の破棄という約束であった。ところが、昨年10月のエネルギー作業部会で、「重油45万トン」「重油50 万トン相当の経済援助」と中身が変更された。それによって韓国は昨年12月鉄鋼材5010トン、金額に換算して約12億1000万円を援助した。

 11月分はロシアが重油を5万トン(約28億円)援助することになっていた。理由は不明であるが、予定より船積みが遅れた。すると北朝鮮の玄鶴峰米州局副局長は07年12月26日「6カ国協議の参加国が果たすべき経済的義務の履行が遅れている。無能力化のペースを調整する措置を取る以外ない」と恫喝した (朝鮮日報07年12月28日)。

 この発言は表向きロシアの重油支援遅延に対してであるが、裏には「ブッシュ親書」に対する脅しも当然含まれていると見るべきであろう。12月分の重油は日本が援助することになっている。日本は拉致問題が進展しない限り、一滴の重油も出さないと明言している。対応を韓国と米国が「協議」しているという。色々な意味で行方が注目される。

 それはともかく冒頭指摘したように5カ国は、昨年の「2・13合意」を破った金正日政権の責任を当然追求すべきだ。金正日政権流にいうなら「行動対行動」で「支援のペースを調整する措置を取る以外ない」といって言葉通り実行すべきである。これまで「金持ち喧嘩せず」でそれをやらないから、見透かされて重油をただ取りされるのである。

 1月4日北朝鮮外務省は声明で「核開発リストは昨年11月すでに提出済み」と言い出した。ヒル国務次官補は慌てて、リストの内容は不十分なものでメモ程度、正式文書ではないと否定した。

 これが事実なら、米朝交渉の実態たるや土地ブローカーが、場末の喫茶店で怪しげな書類をチラつかせ「取引」しているのとあまり変わらない。だが、こんなことで日本の安全が脅かされたのではたまらないと思ったのは私一人ではあるまい。

 一連の過程を見ているとヒル国務次官補個人にも問題がありそうだが、「米朝野合」の一言に尽きると言われても返す言葉はなかろう。

 他方、李明博次期政権は、突然、北の核放棄を前提に400億ドル(4兆3000億円)の援助を国際協力基金で行うとの検討を始めたという(産経新聞1月5日)。しかし、この考えは現在6者協議がやっていることで目新しいものではない。新政権の気負いは分からないわけではないが、この程度の提案で北の核問題が解決出来ると本気で考えているとすれば甘い。「南北裏取引説」など色々な憶測が流れているが、日本はこれらの動きを慎重に見極める必要があろう。

 金正日政権は、新年の施政方針演説に当たる「3紙共同社説」(労働新聞、朝鮮人民軍、青年前衛)で日本については言及しなかったが、5日付「労働新聞」は、日本が韓国との協調を模索していることを指して、「圧力の強調」と非難し「わが国はより強力に対応せざるを得なくなる」と「牽制」したという。

 だが長年、金日成の「新年辞」、金正日の「3紙共同社説」を読んできたものにとっては、大問題なっている核にも、李明博当選にも触れていない。余りにも弱々しい。また、労働新聞の記事は、「日本が李明博次期政権と仲良くすれば金正日政権が困る」ということを自ら告白しているようなものだ。

 日本が誰と友好関係を維持しようと金正日政権の関知することではない。金正日政権口癖のわが国の「自主権」に属することだ。核を放棄し、拉致した日本人全員を帰したなら、援助を得ることが出来る。それ以外に生きる道がないことを「将軍様」は速やかに理解すべきであろう。

 朝鮮半島情勢はすでに動き出している。日本政府は国益を軸に明確な方針を立てて慎重に対処して欲しいと思う。

更新日:2022年6月24日