家族会横田滋会長、長い間お疲れ様でした。

佐藤勝巳

(2007.11.30)

 

 長い間の家族会の代表、心からお疲れ様でしたと申し上げます。

 家族会結成直後からのお付き合いをさせて頂きましたが、お互いに歳を取り、体のあちこちが潤滑油の切れた機械の部品のように、摩擦音に悩まされています。

 横田ご夫妻の場合は被害者家族ですから、われわれと同じ救出運動をしていても精神的負担の質が違います。よく、「皆さんのお気持ちはよく分かります」という家族をねぎらう言葉を耳にしてきましたが、当事者以外のものが拉致被害者やその家族の苦悩と苦痛を分かることなど不可能であるという場面に何度か立ち会ってきました。ストレスは本当に大変なものがあると推測しています。

 それはともかく、横田ご夫妻を始め、被害者家族の誰もが、「なぜ、助け出せないのか」という素朴な疑問を抱き続けています。横田滋前会長もこの疑問を抱きつつ代表を辞任(11月24日家族会総会)されたことは間違いありません。正直に言って、本当にどうして拉致被害者を救出できないのでしょう。深刻な問題だと思っています。

 過去の救出運動の基調は、特に横田ご夫婦を前面に立てて家族の苦しみを国民に訴えるというスタイルの運動を推進したのですが、それでも金正日が拉致を認めるまでは、孤立無援の状態でした。認めたあとも運動の基調は、依然として国民の「可哀想」という同情心に依存するというものでした。

 私は、運動を発展させ被害者を救出するために親を始めとし、肉親の感情をアピールするのは運動のある局面では必要なことであったと考えています。横田ご夫妻の訴えは第二次世界大戦後の日本史のなかで、誰もなしえなかった歴史を動かした偉大な功績であったと万人の認めるものと確信しています。

 しかし、横田代表は、体調を崩し家族会の代表を引退しなければならなくなりました。われわれはこの現実をどう受け止めたらよいのか、という問題に直面しています。

 私は、横田代表退任は、家族依存の運動が限界に来ている表われではないかと受け止めています。別な言い方をすれば、「家族が可哀想だ」という同情心に依存した運動では、拉致被害者救出は困難であるということです。また、「金正日政権はひどい」という認識のレベルでは拉致救出は実現しないということです。

 安倍政権になり、拉致解決と核問題で独自制裁を科しました。事態が動かないことを理由に、一部に「制裁を解除せよ」という意見があります。これに対して私は、コラムなどで機会あるたびに誤りである旨指摘してきました。また、テロ支援国家指定解除問題については、福田・ブッシュ会談では玉虫色であった、と推定しています。

 福田政権はこういう状況下で、いかなる方法で拉致被害者を救出するのでしょう。策がなければ、ずるずるといたずらに歳月が流れていくことになります。具体案については後で提案しますが、福田政権は決断を下すべき時期だと見ています。

 そして今一つ大変心配なことは、わが国の政府は金正日政権の核にどう対処しようとしているのかということです。ブッシュ政権が、核の「無能力化」などという欺瞞的なことを言っているのは、金正日政権が米国に届くミサイルを持っていないからです。しかし、金正日政権は、わが国に届くミサイルを200基近く持っています。米国と日本とでは、安全保障面で置かれている事情は全く違います。立場が違う以上、異なる対応が必要です。

 「核の無能力化」とは、核開発の能力をゼロにすることです。今進められている寧辺での作業は誰にも分かりません。ヒルと金桂寛に事実上白紙委任状を与えたような状態ですが、これで日本の安全は大丈夫なのか、ということです。私は、テロ支援国家指定解除問題よりも核の「無能力化」などの方が、より危険な方向に進んでいると見ています。有り体に言うなら、ブッシュ政権を、ライス国務長官を信用していてわが国の安全は大丈夫でない危険が高まってきているということです。 日米関係の再検討が緊急に必要です。

 ブッシュ大統領は、早紀江さんと卓也氏に会って拉致救出に深い理解を示したことを疑ってはいませんが、現実に進んでいることは、核を持たない日本に対して核保有国の米朝の接近、妥協です。妥協実現のため、米国務省は日本の拉致解決の主張を明らかに迷惑と考えています。

 私は、米国の金正日テロ政権への対応は間違っていると見ています。しかし、どこの国も自分の都合に合わせて動きます。他国の利益を優先する外交などありえません。ブッシュ政権は、国際的には当たり前のことをやっているのです。当たり前のことをやっていないのが日本の方です。第一拉致された日本人を何十年も解決できない国家は変ですし間違っています。

 「米国が、テロ国家指定解除をするのであれば仕方ありません。アメリカに事情があるように、わが国にもわが国の事情があります。金正日政権に対して『送金停止』を発動します。さらに日本から北朝鮮への『輸出品の全面禁止』も準備します。それでも金正日が拉致解決に誠意ある態度を示さないなら、『在日朝鮮人の北朝鮮への渡航全面禁止措置』も視野に入れ、準備を進めます。また、核施設の無能力化が不透明、かつ核施設の申告が納得いかないものなら、自分の国は自分で守る以外ありません。望むことではないが、非核三原則見直しの検討に入らざるを得ません」

 と言うだけではなく、具体的行動に移すべきです。そうでなかったら日本の安全は守れませんし、拉致被害者の奪還も出来ない、と判断しています。

 あんなに頑張った横田ご夫妻が代表を引退せざるを得なかったのは、わが国政府が、上記のことを、断固として行動しなかったからではないでしょうか。いや、政府が行動できる国民世論の形成も十分でなかったことにも原因があったのではないでしょうか。

 この反省に立って政府・家族会・救う会全国協議会・拉致議連・県・県拉致議連、各地域の「救う会」など国民が一体となって国内の運動を盛りあげて、国際連帯と合わせて金正日政権を追い詰めていくことで、拉致被害者救出の展望が開かれてくると考えています。福田首相、日本から北朝鮮への「送金停止」を断行して下さい。そうすれば金正日始め、ライス国務長官など周辺国は日本政府が本気であることを知るでしょう。今必要なのは国を守るための首相の勇気です。

 横田ご夫妻 本当にお疲れ様でした。暫くご静養ください。

更新日:2022年6月24日