金正日政権との戦いは続く

佐藤勝巳

(2007.11.21)

 

 日米首脳会談で「テロ支援国家指定解除」問題がどう議論されたのかが関心の的となっていた。11月21日付産経新聞は1面トップで「北テロ指定解除―〝核と拉致進展条件〟―米大統領、首脳会談で提示」という見出しで報道した。

 中身は、「日米関係筋」が明らかにしたものとして、ブッシュ大統領は首脳会談で、テロ支援国家指定解除についての条件として、北挑戦の①核施設の無能力化、②核不拡散、③拉致問題の進展を「掲げていたことがわかった」というものである。

 上記報道が事実かどうか政府筋に確認してみたが、否定はしなかった。筆者は、11月19日の「日米首脳会談を評する」の中で、「リスト解除」問題は、平行線か問題の先送りであっただろうと推定したが、それよりも中身は「有利」に進んでいた。

 上記産経新聞の記事によると、ブッシュ大統領が一方的に提案したかのような書き方になっているが、政府筋の話によると、「福田首相は被害者家族の具体的な氏名を上げながら、拉致解決の重要さを渾身の力をこめて説明した」結果、上述の中身となったものであるという。

 

 他方、首脳会談直前に拉致議連、家族会、救う会の3団体はワシントンに代表団を送り、議会関係者を始めヒル国務次官補など当局者とも精力的に面会し、日本の立場を積極的に発言した。

 訪朝団の訪米報告の成果を、救う会全国協議会ニュース(11月20日付)は次のように報じている。

 

 ☆訪米団は、指定解除を強行すれば日米同盟に緊張が生まれるという明確な警告を送ることに成功した。

 ☆上院で指定解除反対法案の提出を準備しているブラウンバック上院議員と連帯できたことと、中国政府がその動向を注視するローラバッカー下院議員が、9月に提出されている下院反対法案への署名および法案の精密化に向けた努力を約束したことは大きな成果だ。

 ☆ヒル次官補に日本の強い懸念を直接伝えたことも一定の牽制になっただろう。

 ☆ ヒル路線と若干距離を置くとも思われるNSC、副大統領府、国防総省の高官や民間の専門家、有力人権活動家に日本の強い憂慮と日本側主張のポイントを伝えたことも有意義だった。

 ☆ 米国籍の拉致家族、金東植夫人と連帯でき、日本人救出への協力を米国に求めるという構図ではなく、普遍的なテロとの戦いへの参加を米にも求めているという我々の姿勢を明確化できたことも収穫だ。

 

 ☆訪米団が入手できた諸情報を総合すると、

 (1)国務省ヒル・ライスラインは年末までに北朝鮮が核問題で第2段階の措置(寧辺施設「無能力化」と核計画申告)をそれなりに果たすならば、解除したいと考えている。

 (2)しかし、大統領の最終決断は下っていない。

 (3)議会内、特に与党共和党に反対の声が広がっている。

 (4)従来、静観気味だった中間派の専門家、メディアからもヒルはあまりに功を焦りすぎて、北朝鮮に対して譲りすぎという批判が出てきた。

 (5)福田・ブッシュ会談で首相からも訪米団と同じ趣旨の警告が伝えられたという。ただし、どれくらい明確な表現であったかは不明。

 (6)北朝鮮が年末までに実施を約束した核計画の申告と寧辺施設の「無能力化」の中身がかなりいいかげんなものであることが明らかになり、シリアやイランとの共同核開発に関する新事実が明るみに出たりすると、ヒル路線への批判が一気に高まる可能性がある

 

 という以上の活動、シーファー駐日米大使の発言、横田早紀江さん拓也氏のブッシュ大統領の面会など、色々な働きかけが首脳会談に反映したことは言うまでもない。では安心できるかというと、そうはいかない。ヒル国務次官補は、首脳会談が終わった直後から下院議員らにテロ指定解除要請を活発に働きかけている。

 また、広くメディアが報道しているように、ヒルと金桂寛との間に「無能力化と指定解除の裏約束がある」という話は、ヒル氏の言動を見ている限り否定できない。

 この種の政治的約束事は、力関係でどのようにでも変わっていく。初期のブッシュ政権は、金正日に強硬路線で臨んでいた。昨年11月の中間選挙での共和党の敗北とイラク政策の失敗で、民主党当時よりひどい宥和政策に変化し、今日では日米関係への緊張となっている。日本も自民党の参議院選挙敗北で、国際テロとの戦いからの離脱という不名誉極まりない地位に転落している。

 国内の政治情勢によって対外政策は変わっていく。結局、日本人拉致被害者の奪還は、基本的に他国に依存するのではなく日本が解決しなければならないものである。外国の政権の多少の政策の変化に一喜一憂することなく、日本国民と政府が、奪還の基本政策を確立し、行動することである。

 われわれは、さしあたってテロ支援国家指定解除を踏みとどまらせることが出来た。しかし、これは同時に金正日政権、盧武鉉政権の後退を意味する。必ず巻き返しが行われる。その兆しは既に11月6日付「金正日政権の対日工作が始まった」に触れているように、これからも金正日政権・盧武鉉政権、そしてヒル・ライス路線との厳しい戦いを覚悟しなければならない。

更新日:2022年6月24日