韓国総選挙、左翼大進出

洪熒・佐藤勝巳

(2012. 5. 2)

 

佐藤 4月11日韓国で総選挙が行なわれましたが、どんな評価をされましたか。

 

与党、事実上の敗北

 投票率は54.3%で、関心の割には高くありませんでした。20の政党が候補を立てて、議席を獲得できたのは4つの政党だけ、無所属もわずか3人です。定員300議席(内比例が54)の中で、右派の自由先進党が5、中道のセヌリ党(前ハンナラ党)152、左派の民主統合党127、極左(従北)の統合進歩党が13議席です。つまり、右派と中道で157、親北左派が140です。

単純に見るとセヌリが過半数を取りましたが、事実上20以上議席を減らしました。反面、野党の親北・従北左派連合は議席を53も大幅に増やし、比例区の得票では46.8%対46%で親北・従北の左派連合が「右派と中道」に勝ちました。つまり、これが総選挙でなく大統領選挙だったら左翼候補が勝ったわけです。さらに保守的価値を打ち出した群小政党は全滅し、ソウルは野党の圧勝です。

右派と中道は伝統的な野党の牙城で1席も取れなかった反面、「親北・従北の左派連合」は伝統的な保守性向の地域を大きく蚕食しました。つまり、セヌリ党が「親北・従北の左派連合」の傲慢で無茶な攻勢を効果的に攻略していたら、セヌリはもっと善戦できた筈です。セヌリ党は候補公認や公約において国家安保という要素は棄てました。

今回の総選挙で左派に過半数を許さなかったのは、「親北・従北の左派連合」の一本化に危機意識を持った有権者たちと国家安保意識の高い軍人やその家族の票が左翼を牽制したためで、朴槿恵が勝利したように見えるのは正しい見方ではありません。

 

危険な朴槿恵氏の対北認識

佐藤 最近出版された朴槿恵氏の著書『絶望は私を鍛え、希望は私を動かす』(晩聲社刊)を読んで、当惑しました。お母さんが北のテロによって凶弾に倒れるまでの記述

部分までは興味深く読みましたが、朴氏が国会議員になって北朝鮮を訪問したとき、金正日が朴槿恵氏に約束したことの殆どを実行してくれたから、話せば分かるという文脈に接し、その甘さに驚き、裏切られた思いがしました。

朴氏には目的のためには手段を選ばないテロ政権という認識が全く見られません。父親朴正熙大統領を狙った北の手先の銃弾が外れて母親にあたり、彼女は母親を失ったのです。しかしこの本からは、北に対する敵意はおろか、警戒心も感じ取ることができません。これは政治家という以前に人間として如何なものか、との印象を受けました。

洪教授は以前から「朴槿恵氏は北のテロ行為に対して一言のコメントもしない」と批判していた意味が、本書を読んでよく分かりました。李明博大統領は、盧武鉉や金大中と違って、北が核を放棄しない限り食糧支援はしないと言って、実際に支援していません。朴槿恵氏は、北の核についてどう対処するのかをコメントしていません。北に対しては李明博大統領より甘いのではないか。

韓国、日本の政治家の資質をはかる物差しは、北の独裁政権、前近代的な権力世襲をどう見て、どう戦うかの態度でわかります。この物差しで朴槿恵氏をはかると、問題外という甘さです。韓国の左翼は、北がこけたら同時に自壊しますが、「中道」云々している政治家の頼りなさは、日本より深刻なような気がします。

 

金大中・盧武鉉路線の支持

 朴槿恵には、韓国の指導者に当然求められる国家安保への責任感と、主敵である金正日や金氏王朝の国家犯罪やテロリズムを断罪するという意識がありません。朴槿恵とその熱烈な支持者たちの感覚は、封建王朝時代のままです。つまり、「偉大な大統領」の娘だから大統領になれる筈だという、民主主義社会では認められない権力世襲を「例外的に容認」しようとする半封建的意識です。

朴槿恵は基本的に政治をポピュリズムとして把握しており、自分が大統領になることばかりを考えています。彼女は自分には確固たる支持層があるから、左派からいくらか票が得られれば充分だと考えているらしい。総選挙の前に、わざわざ金大中と盧武鉉の対北路線を継承すると明言(2月28日)しているのですから。

朴槿恵のセヌリ党は、「経済民主化」という奇怪な概念で「従北勢力」らの革命を目指す社会主義的政策に迎合しています。ヨーロッパの「失敗した福祉国家ら」の真似をしているのです。

 

信じがたい国会論議

佐藤 日本も、ミサイル発射の国会論議に“国家の安全”などの観点はゼロでした。官房長官や防衛大臣はミサイルが発射された時どこにいたかとか、防衛大臣は、なぜ官房長官に電話しなかったとか、電話はしたが官房長官がエレベータの中だったので電話が通じなかった、という質疑に終始しました。

06年、09年、2回ミサイル実験と核実験を行なった北に対して、国連は2回とも制裁を科しました。しかし、北は無視して今回4回(うち1回は実験を失敗している)の弾道ミサイルの実験を行ないました。

弾道ミサイルの頭に核を搭載するための開発も平行して行なっており、この次の核実験はそのためのものと推定されます。北の核が、韓国と日本に向いていることは言うまでもありません。日本は安全をどう確保するのか緊迫した事態に直面しているのに、そのことが全く国会で論議されませんでした。

メディアは、弾道ミサイルを大気圏外で撃ち落すことが出来なければ、迎撃ミサイルで撃ち落すと報道していましたが、その撃ち落す確率はどれくらいなのか。野党は質問すらしませんでした。撃ち落せる確率が仮に70%だとすれば、10発核ミサイルが飛んできたら3発の核爆弾は命中するのです。仕方がないから諦めろと言うことなのか。そうでないとすれば、わが国の安全をどういう手段で確保するのか。それが国会議員の仕事だと思いますが、誰もその任務を果していません。

頭の上で核が爆発しないと、安保に関心がもてないほどわが国の政治は劣化してしまった、という情けない思いで国会での的外れで、愚劣な質疑を聴いていました。

 

 韓国は、紆余曲折はありましたが64年間、北との戦いで負けませんでした。当面、何が起こるか予測困難ですが、大局的には、勝利に近づいていると確信をふかめています。 

更新日:2022年6月24日