蓮舫候補への171万票の懸念

佐藤勝巳

(2010. 7.20)

 

 7月11日参議院選挙が行われた。

 一番驚いたのは、民主党凋落の中で、東京選挙区の民主党蓮舫候補が171万票も獲得したことであった。東京はもっとも浮動票が多い選挙区であるから、こんな現象が起きるのかも知れない。だが私は、蓮舫候補に投票した選挙民の心理に何が起こっていたのかを無視するわけにはいかない、と思っている。

 

 連舫氏を有名にしたのは、鳴り物入りで行われた「事業仕分け」であった。景気が悪く収入が減り、いつ首を切られるか分からないという不安な状態に置かれている人たちにとって、天下り先を転々として、巨額の退職金を手にしている高級公務員は許せない、と考えていた。こんな不公平なことが許されるはずがない。

 

 その高級公務員を、蓮舫氏は事業仕分けで、悪代官を懲らしめる水戸黄門のように視聴者の目には映ったのではないか。毎日何度となく放映される彼女の仕分けの姿に、一部選挙民は快哉を叫び、171万票を投じたと考えられる。

 

 事業仕分けをするまでの彼女は、政治家として無名で、実績らしい実績など耳にしたことがなかった。 手にした人気は事業仕分け以外に考えられない。公務員の人員整理を掲げ、躍進した「みんなの党」についても同じことが言える。

 

 だが、問題なのは、自分が不幸なのに、身分も収入も安定している公務員、とりわけ高級公務員に対する不満や「嫉妬」を彼女が仕分けてくれたことでカタルシスが満たされたとして、彼女に投票した有権者の「意識」を「仕分け」する必要がある。

 

 彼女に投票した有権者は、国の安全保障や国家財政の危機、景気の回復策、社会保障への対策、教育、人間の生き方、国家像などよりは、個人の不満や嫉妬、恨みを晴らしてくれたことへの共鳴、情緒の方がより勝っていたと判断せざるを得ない。

 

 なぜなら、労働者や沖縄県民の味方のようなことを言っていた社民党福島瑞穂党首(テレビへの露出度は蓮舫氏よりはるかに多い)が手にした得票は、比例で38万票。蓮舫氏は選挙区で福島氏の4.5倍、東京選挙区の2位公明党候補の倍以上得票している。彼女が選挙区で活動したのは選挙期間中たった5日間だけであったにも拘わらず、事業仕分けは、一部有権者の鬱屈した感情を十分に捉えていたと推測される。

 

 他方、国家の安全保障という観点から普天間移設問題を考えたら、民主党は20議席を失って当たり前というのが私の考えである。十議席減ですんだのは、有権者が安全保障などまじめに考えておらず、身近な役人を攻めた蓮舫氏に拍手を送っている、政治意識にもならない感情、情緒と言うレベルのものであるからだ。

 

 民主党は仕分けで無駄を摘出、それで子ども手当などをまかなえるといっていた。子ども手当は2兆2500億円必要だが、彼女らが無駄といって摘出した金額は、1兆円にも満たなかった。蓮舫氏がかっこよく、仕分けをすればするほど、私の目にはスタンドプレーヤーとしてしか写っていなかった。

 

 政策でもイデオロギーでもない個人的な「怨念」や「情緒」が多ければ多いほど、危険なファシズムの臭いを感じるのは、私の思い過ごしであろうか。有権者の今後の動向を注目したい。

更新日:2022年6月24日