決断するときであるのだが…
佐藤勝巳
(2009. 3.23)
金正日政権は、4月4日から8日までの間にミサイルを発射すると予告した。これに対して、日・米・韓などが「反対」と大騒ぎをしているが、彼らは必ず発射をする。
なぜなら、ミサイルは朝鮮人民軍の管轄下にあり、今回のミサイル発射の直接動機は、4月9日におこなわれる最高人民会議(日本の国会に当たる)で、独裁者金正日氏を国家国防委員長に再選することになっているからだ。
テポドン2号は〝将軍様の国防委員長就任への朝鮮人民軍の忠誠の貢ぎ物である〟ということだ。あの国はいつも平壌を中心に太陽が回っている、と考えて行動していることを忘れてはならない。
さて、テポドン2号は確実に将軍様に寄贈され、実験される。後はそれへの対処の問題だけである。選択肢は
①撃ち落す。
②わざと外して迎撃ミサイルを発射、日米の迎撃ミサイルの精度を高める訓練に使う。
③発射させ、経済制裁を強化する。
④発射させる。
オバマ政権の置かれている状況と外交スタンスから見て、残念ながら現状では、①の選択肢は考えられない。可能性は高くないが、あるとすれば②であろう。一番可能性が高いのが③である。最も可能性が低いのは④である。
金正日にとって軍から献上されたミサイル実験は、オバマ政権への「ミサイルを撃ち込まれたくなかったら、交渉に応じ、ブッシュ政権と同じように俺を援助せよ」というメッセージなのだ。
このやりかたは、17年前、ヒラリー・クリントン国務長官の夫ビル・クリントン氏が大統領であったときにも、いや、もっと前から金日成・金正日父子政権の変わらない「ならずもの」集団の外交手段なのである。
民主主義国家では選挙によって政権が交代するが、当然、担当者も変るので北への対応策が変化する。これまで米国は北に対して、モノを与えれば言うことを聞くはずだという、見当はずれの対応を繰り返してきた。韓国の金大中・盧武鉉政権でも同じことを行ってきた。
その結果が金正日政権に核実験を許したのであり、今や中距離弾道ミサイルの実験直前まで来てしまったのだ。
テポドン2号発射に対処するため、日中防衛大臣会談(3月20日北京で)が行われ、日米外相会談も近く予定されている。この様子を見て、金正日氏は愉快犯のように「敵が慌てふためいている」と腹を抱えて笑っているに違いない。
しかし、彼らが最も恐れているのはアメリカの軍事力行使であるが、現時点でオバマ政権の軍事力の行使は考えにくい。
次が、誰も関心を示さず、関係国が金正日政権の言動を黙殺したときである。冗談ではなく金正日政権は、平壌を中心に世界が回っていると思っている、能天気さ加減は尋常でないところである。黙殺されると著しく「自尊心」を傷つけられる。そして関心を引くために、さらに過激なことをやって、自滅に突入していく。
担当大臣たちは立場上、発射反対と言わなければならないのは分からない訳ではないが、政治的には、高度の戦略を放棄したまず行為である。
その次に金正日政権が困るのは経済制裁である。この点日本政府の対応は安倍晋三政権以来間違っていない。
麻生内閣は、北がミサイルを発射したら、国連決議を視野に入れながら、独自制裁として、日本からの輸出品目の全面禁止、加えて日本からの北朝鮮への送金や携帯金の制限、総聯への法の適正な運用を検討している、という。
金正日政権のアキレス腱は経済である。テポドン2号発射を理由に米・韓・中が日本に倣って制裁を科したら、ミサイルを撃ち落すぐらいの効果が期待できる。その場合、当然のこととして、金正日政権の崩壊を覚悟の上での対応となる。
ところが、北朝鮮をとりまく各国が金正日政権を崩壊させることへの決断が出来なくて、問題の先送りをしてきた。そのために核実験、弾道ミサイルの実験まで来てしまった。今度もまた決断が鈍ってしまうと、核爆弾を小型化してミサイルに搭載、という最悪の事態が待ち受けているのだが……。
永田町は日本の安全保障とは関係なく、政治家・小沢一郎氏の去就に関心が集中している。これで大丈夫のはずがない。