テロ支援国家指定解除の延期と、日朝実務者協議
佐藤勝巳
(2008. 8.13)
法律的には8月11日に米政府が、金正日政権に科してきたテロ支援国家指定を解除はできたはずである。
しかし、ブッシュ大統領は、解除に署名しなかった。理由は、金正日政権が「しっかりとした(核施設の)検証体制を示さない」(国務省ロバートウッド・副報道官代理8月11日)からだという。
正直に言って、6者協議の中でこんな話はうんざりするほど聞かされてきた。過去の米朝協議の経過を見ていると、交渉当事者には失礼を承知の上で言うのだが、儀式か、八百長試合を見せられているような印象は捨てきれない。
一般には、ブッシュ政権の果てしない妥協を、「業績作りで焦っている」という見方が支配的であるが、北朝鮮にも焦りがある。
ブッシュ政権下で、テロ支援国家指定解除を実現しなかったら、アメリカでの政権交代は目前に迫っている。これから1年程は事実上交渉が中断する。つまり、テロ支援国家指定(制裁)が続くことになるのだ。
金正日政権にとって、テロ支援国家指定の継続という選択はありうるのか。金正日政権が8月11、12日の中国・瀋陽での日朝実務者協議に応じてきたのは、米朝のテロ支援国家指定解除と連動していると考えるのが順当な見方であろう。
分かりやすく言えば、ブッシュ政権が、金正日政権提出の核施設申告の検証(査察)問題で妥協すれば、拉致の「再調査」などするはずがない。
逆に、ブッシュ政権が、検証問題と日本人拉致解決で妥協しなければ、金正日政権は、検証問題と拉致で若干の譲歩の可能性があるのではないか。
しかし、北朝鮮内部では金正日の後継者問題をめぐって、各派閥間の対立が高まる中、国内政治が、外交にどう跳ね返ってくるのかよく分からない。
日本政府がこの現状をどう捉え、特に、ブッシュ政権に対してどのような外交を展開するのかが焦眉の課題であろう。