沈惟敬の末路を辿る文在寅の北核特使外交

 鄭室長は北側が言う‘非核化’という用語に基づいて北韓の‘非核化’意志を云々している。だが、北側がいう‘非核化’は、われわれが言う‘非核化’とは内容が違う別の‘非核化’だ。

李東馥

(2018.3.13)

 

 北韓が‘6・25戦争’や分断70年の歴史を通じて数千回も繰り返してきたあらゆる対南武力および暴力挑発行為のうち、たった一つも公に認めていない状況で、“核兵器はもちろん、在来武器を南側に向けて使用しない”と言った金正恩の言葉を、いわゆる‘平和のメッセージ’だと持って帰ってきた鄭義溶室長一行の行動を見ながら、筆者は1938年9月30日、ドイツのミュンヘンでヒトラー(Adolf Hitler)からもらった偽りの平和約束を盛り込んだ文書を高く掲げて帰国して、ロンドンのダウニング街10番地の首相官邸前に集まった群衆に“われわれの時代の平和”を叫んだイギリスのチェンバレン(Neville Chamberlain)首相(当時)を連想せざるを得ない。

 

 文在寅大統領が平昌冬季オリンピックを利用して演出している対北‘特使外交’は外見上に電光石火のような状況展開をもたらしているように見える。特使団長の鄭義溶青瓦台国家安保室長がソウルに帰還して報告した金正恩の‘破格の’の発言をもとに、南北間には4月末に文在寅と金正恩の南北首脳会談、5月中にトランプと金正恩の米朝首脳会談の開催が既成事実化される信じられない状況が展開している。だが、青天の霹靂のようなこの状況の展開はこれまでで、前途にはまた明日を予測しにくくする暗雲が覆われてきている。

 

 この暗雲を暗示する異常信号が出た。その初めての異常信号は、トランプ大統領が金正恩との米朝首脳会談の開催を受け入れると発表した翌日の9日に出た、サンダース(Sarah Sanders)ホワイトハウス報道官の発言だ。CNNは9日、サンダース報道官が“金正恩が非核化を目指す具体的かつ検証可能な行動を断行しない限り、トランプ大統領は彼に会わない”と言ったと報道した。サンダース報道官のこの発言はおかしな話だ。なぜなら、鄭室長側の主張によれば、前日トランプ大統領は何の前提条件なしに、彼は接見した鄭義溶文在寅大統領国家安全保障室長に“金正恩に5月中に(by May)会う”と言った彼の言葉を、すぐホワイトハウス記者団に発表するよう情報室長に‘指示’(?)したからだ。

 

 にもかかわらず9日、サンダース報道官がトランプ-金正恩会談開催の‘前提条件’を取り出した理由は、この日のサンダース報道官の発表の他の件に現れている。サンダース報道官は、彼が米-北首脳会談開催の‘前提条件’を取り上げる‘理由’は、“北側がいくつかの重要な約束をしたため(They have made some major promises)”と主張した。サンダースは“北韓は核とミサイル試験を中止すると約束した”といい“トランプ大統領は、北韓が彼らの言葉(rhetoric)を具体的に行動をもって実証するまで金正恩との会談を持たない”と附言した。

 

 ホワイトハウスが報道官を通じて、トランプ大統領が明示的に言及しなかった‘前提条件’を取り上げた原因に関しては、二つの可能性が考えられる。まず、トランプの独断的でかつ即興的な米-北首脳会談開催の受け入れについて政権内外の北韓関連専門官僚集団から異意の申し立てがあったためで、二番目は、鄭義溶室長がホワイトハウスの記者たちを対象に行った、英語のブリーフィングの内容に問題があったためらしい。

 

 鄭室長は、ホワイトハウスの記者たちに、彼ら一行の平壌訪問のとき、金正恩がそれらに“非核化の意志があり”(committed to denuclearization)、“これ以上の核とミサイルの試験をしていないと誓い”(pledged to refrain from any further nuclear or missile tests)、“韓米両国の日常的な合同軍事訓練は続けられるべきだという事実を諒解した”(understands that the routine joint military exercises between the Republic of Korea and the United States must continue)と言い、“可能な限り早くトランプ大統領に会いたいという意思を表明した”(expressed his eagerness to meet President Trump as soon as possible)と説明したと引用されている。

 

 ところが、このような鄭室長の説明には致命的な誤謬があった。なぜなら、平壌で鄭室長一行に言った金正恩の実際の‘発言’のうち、鄭室長がホワイトハウスの記者団に行った説明で取り上げた‘金正恩の約束’には、例外なく北韓版の‘前提条件’が提示されていた。にもかかわらず鄭室長は、ホワイトハウスの記者たちに行ったブリーフィングで、金正恩が言った‘前提条件’は一切無視する方向に事実上、金正恩の言葉を歪曲、変造して伝えた結果になってしまったからだ。

 

 このような事実は16世紀末、壬辰倭乱(*文禄・慶長の役)のとき、明と倭の間で倭將・小西行長と共謀して明の神宗と豊臣秀吉の‘国書’をそれぞれ僞・変造した‘詐欺講和’交渉をして、事実が発覚されて命を落とした明の沈惟敬の前轍を鄭義溶室長の‘特使団’一行が踏襲しているという疑惑を払拭し難くするのだ。

 

 鄭義溶室長一行の平壌訪問期間中、金正恩が彼らに言った‘言葉’の中には、北韓が韓国を相手に常套的に駆使してきた‘用語混乱’戦術に立脚した語彙が多数登場しているのに、鄭室長一行が、意図的にそうしたかどうかを分からないが、これに眩惑されて、解釈上の混乱と同時に、いわゆる‘合意’事項の履行の段階から北に籠絡される余地をたくさん敷いておいていることを指摘せざるを得ない。

 

 いくつかの例を挙げてみよう。

 

 鄭室長は北側が言う‘非核化’という用語に基づいて北韓の‘非核化’意志を云々している。だが、北側がいう‘非核化’は、われわれが言う‘非核化’とは内容が違う別の‘非核化’だ。われわれが言う‘非核化’(Denuclearization)は、大韓民国がすでに非核国家という厳然たる事実を前提として“北韓の保有核物質(保有の可否が確実に検証されない核兵器を含む)と核関連施設および核兵器開発計画を、完全かつ検証可能で不可逆的な方法で解体(CVID・ Complete、Verifiable and Irreversible Dismantlement)して、北韓の核保有を阻止する”という概念で、この概念は、米国をはじめ、国際社会全体が共有するものだ。ここには、“北韓の‘核保有国’地位を絶対に容認しない”という、断固とした立場が前提されている。一方、北韓がいう‘非核化’という言葉は、実際には‘非核地帯化’(Nuclear Free Zone)を意味する。“自衛用である北韓の核を取り上げる前に、その原因を提供した北韓に対して敵対的な米国の核兵器問題を先に解決”せねばならず、“少なくとも‘国際的核削減’の枠組みの中で兩者の核問題を同時に協商の対象とせねばならない”ということだ。特に最近、北韓は自ら“核兵器を開発、生産して実戦配備までに完了した”という検証されていない主張を言い、自国を9番目(米国、ロシア、中国、英国、フランス、インド、パキスタン、イスラエル続き)の‘核保有国’として認めろと要求している。

 

 このような状況で金正恩が“非核化の議論に応じる意思がある”と言ったからと言ってむやみにこれを歓迎するわけにはいかない。なぜなら、トランプが金正恩に会った場で‘(北韓の)非核化’をいう場合、金正恩は間違いなく‘(韓半島の)非核地帯化’をもって話し合おうといい、トランプとの議論するのが火を見るより明らかであるためだ。こうなれば、トランプは不覚を取るしかない。米国と北韓の間で‘(北韓の)非核化’と‘(韓半島の)非核地帯化’の議論が対決するようになれば、その様子は2004年に始まって今まで漂流中の‘北京6カ国協議’の再演になるしかない。そうするうちに、北韓の核問題は、現象が無期限延長され、北韓はここで稼ぐ時間を持ってまだ不十分核兵器と運搬手段の開発を完成させることは間違いない。

 

 鄭義溶室長がホワイトハウスでトランプを騙すことに活用した金正恩のもう一つの語録、つまり“対話が続く間に追加の核実験や弾道ミサイルの試験発射など、戦略的挑発を再開することはない”という話も荒唐な話だ。金正恩のこの言葉は“核兵器はもちろん、在来武器を南側に向けて使用しない”という言葉と共に、2つの意味を含んでいる。大韓民国と米国が金正恩のこのような‘言葉’を受容れる場合、北韓が‘核保有国’であるという事実を認める結果を招くだけでなく、核とミサイル問題を含む韓半島問題に関する議論で、北韓が主導権を行使することを大韓民国と米国、そして国際社会が受け入れることを意味する。こうなれば、今まで9回にわたって行われた国連安保理事会の対北制裁決議らはもちろん、国際社会の対北圧迫共助も崩れるようになる。

 

 北韓が‘6・25戦争’や分断70年の歴史を通じて数千回も繰り返してきたあらゆる対南武力および暴力挑発行為のうち、たった一つも公に認めていない状況で、“核兵器はもちろん、在来武器を南側に向けて使用しない”と言った金正恩の言葉を、いわゆる‘平和のメッセージ’だと持って帰ってきた鄭義溶室長一行の行動を見ながら、筆者は1938年9月30日、ドイツのミュンヘンでヒトラー(Adolf Hitler)からもらった偽りの平和約束を盛り込んだ文書を高く掲げて帰国して、ロンドンのダウニング街10番地の首相官邸前に集まった群衆に“われわれの時代の平和”を叫んだイギリスのチェンバレン(Neville Chamberlain)首相(当時)を連想せざるを得ない。

 

 分断70年史に対して正常に理解している人なら、“北韓に対する軍事的脅威が解消され、北韓の体制安全が保障されれば核を保有する理由がない”と言ったという金正恩の‘狂言’をあえて大韓民国の国民に伝えることができるのかを、文在寅や鄭義溶に問わざるを得ない。建国以来、果たして大韓民国が、米国と共に、北韓に対して攻撃的な軍事的脅威の主體となったことがあるのか。金正恩のこの‘狂言’に異議を提起どころか、それを北韓の‘平和の意志’の証左として大韓民国の国民に伝えることで、北側の脅威を体験していない若者たちに、大韓民国が北韓に対する軍事的脅威の主体であるかのように誤認させることが文在寅氏と鄭義溶氏の意図なら、これだけでも、彼らは刑法第93条の‘与敵罪’を犯していないと言えるのかを問わざるを得ない。

 

 しかも、“北韓に対する体制安全”を云々するのはとんでもない妄言だ。理論的に大韓民国や米国が北韓に対して‘不可侵’を保障するのは可能だ。実際、北韓は、南と北が1992年2月19日『南北間の和解と不可侵および交流協力に関する合意書』という取り決めで、相互“相手の体制を認定、尊重し”(1条)、“相手の内部問題に干渉せず”(2条)、“相手に対する一切の破壊、転覆行為を止揚し”(4条)、“強固な平和状態が実現するまで現在の軍事停戦協定を遵守し”(5条)、“相手に対して武力を使用せず武力を侵略しない”(9条)、“あらゆる対立と紛争問題を対話と協商を通じて平和的に解決し”(10条)、“不可侵の境界線と区域は1953年7月27日の軍事停戦協定が規定した軍事境界線と今まで双方が管轄してきた区域とする”(11条)という内容を含んで、全文25条の実質的な‘平和協定’に合意し、相互批准の手続き(北の場合、金日成の「批准」)を経て公布、発効させたにもかかわらず、この合意書の署名のインクが乾く前に、これを一方的に死文化させ、今日に至っているのが歴史的真実だ。北韓はこれ以上いったい何の‘不可侵’の保証が欲しいのかを問わざるを得ない。

 

 それだけではない。北韓が‘保障’を要求する‘体制安全’が全世界的に嘲笑の対象である、いわゆる3代世襲独裁が標榜する、‘先軍政治’の‘安全’を保障するものなら、それは、北韓以外のいかなる国も‘保障’できない、まったく北韓自らの‘内政問題’であり、これに対する‘保障’を大韓民国や米国に取り上げてるのは言語道断の妄言だ。鄭室長一行が、このような妄言を聞きながらも耳を洗わず、それを言葉としてソウルとワシントンで、これを伝えたのは、鄭室長自身が‘從北’ゾンビに過ぎないということを自認したことだ。

 

 “北韓の体制安全に対する脅威”と“北韓の軍事的脅威”の主張には“米国の対北敵対政策の廃棄”という要求が内在されている。具体的には、①駐韓米軍の撤収(または金大中によれば、“在韓米軍の性格変更”)、②米韓合同軍事訓練の中断、③韓米連合作戦体制の解体、④韓米相互防衛条約の廃棄および⑤大韓民国を実質的に排除して締結される米北平和条約の締結などがこれに含まれるのだ。故黄長燁氏が生前によく口にした、いわゆる‘纓(えい)戦術’がここに溶け込んでいる。つまり、大韓民国の存在は、米国を意味する‘笠’によって支えられ、このような米国との同盟関係は‘纓’に該当するもので、このような‘纓’を切って同盟関係を解消させれば、‘笠’が飛んで去った頭になった大韓民国は自ら自滅するようになるという話だ。

 

 もちろん、北韓も彼らの要求が短期間の米国に受容れられないことを知らないのではない。しかし、北韓が堅持している北韓式‘革命的浪漫主義’はこのような無理な‘要求’を正当化させる疑似理論を備えている。このような‘要求’が受け入れられなくても、このような‘要求’を持って大韓民国と米国の‘世論’を揺さぶって、①韓米関係を離間し弛緩させることで、米国の対韓安保公約を弱体化させ、②大韓民国の左派および‘従北’勢力の伸長させて大韓民国体制の‘容共化’ないし‘聯共化’を促進して北側が追求する‘赤化統一’の中間段階である‘南朝鮮革命’に有利な状況を造成することだ。統一戦線戦術で典型的に登場する、いわゆる‘干潮期’戦術の典型だ。

 

 今、韓半島の南と北では、非常に不吉な暗雲が空を覆っている。南で文在寅を大統領候補に立てて‘弾劾政変’で政治権力を掌握した‘主思派’主導の左派勢力が、長期執権の布石の一つとして6月の地方選挙で勝利するため、大韓民国の建国•護国と産業化を主導した保守勢力を‘積弊’勢力と罵倒し‘粛清’しながら、大韓民国社会の‘容共社会化’-‘連共社会化’を組織的に推進している中、瀕死状態の北韓が核を利用した偽装‘平和攻勢’という‘干潮期’戦術を断末魔的に展開していることに、共助している状況が展開されている。

 

 今“沈惟敬の詐欺強化交渉”の軌跡を辿っている文在寅大統領の‘特使外交’は、沈惟敬ときのように遠からずその馬脚が現れ難破する可能性が濃厚だ。まず、文在寅氏の‘特使団’は、トランプ大統領が金正恩の米北首脳会談提案を受け入れた事実と共に。“トランプ大統領は、北韓が彼らの言葉(rhetoric)を具体的な行動で実証するまで、金正恩と会談しない”と言った、ホワイトハウス報道官の9日の発言を北側にどう伝えるのかという難題に直面している。

 

 文在寅大統領と鄭義溶室長は、トランプ大統領側が後から持ち出している問題の‘前提条件’をどう北側に説明するか知りたい。どうやら文在寅大統領側は、トランプと金正恩の間で両方の言葉を適当に編集し歪み、変造して相手に伝えて、首脳会談の流産を防ぐと言った、沈惟敬方式の外交を踏襲する可能性が濃厚だ。この過程で、文在寅政権は特に、米国との信頼関係で破局を招き、トランプの米国が大韓民国の‘頭越し’に独自に北韓の核問題に対処することを強いる公算が大きい。

 

 このような状況は結局、米国が単独の軍事行動で北韓核問題の根源を解決を選択する道を開いてあげる可能性が高いと思われる。北韓核問題に関する米国の立場について‘易地思之’(相手の身になって思う)の問題がここで登場する。昨年の11月、北側がいわゆる‘火星15型’の大陸間弾道ミサイルの試験発射の成功を主張する前と後の、北韓核問題に関する米国の立場がはっきりと変わったという事実に注目する必要がある。‘火星15型’の開発成功は、それが事実なら、北韓が実際に米本土のどの目標でも核弾頭、それも北韓の主張によれば‘水素爆弾’で打撃する能力を備えたことを意味する。しかも、ポムペオ(Mike Pompeo)が指揮する米中央情報局(CIA)は昨年の11月、“北韓が核兵器で米本土を攻撃するのを先制的に防止できる時間的余裕は今後3ヶ月に過ぎない”とトランプ大統領に報告している。その3ヶ月は、今年の2月ですでに過去のことになった。世界最強の軍事力を保有した米国が果たして金正恩の核詐欺劇にまた騙されるのか見てみよう。

 

www.chogabje.com 2018-03-10 23:05

更新日:2022年6月24日