水から見た北朝鮮 グローバルウォータ・ジャパン代表 吉村和就さん

田中良和

(2016. 4.18)

 水問題のコンサルタント、グローバルウォータ・ジャパンの吉村和就代表が2015年10月、北朝鮮を訪問した。核やミサイルの開発・実験で世界の耳目を集める北朝鮮だが、人間の生活に欠かせない水から見るとどんな国なのか。吉村氏に聞いてみた。(田中良和)

北朝鮮の水事情を語る吉村和就さん=東京都内(田中良和撮影)


水の出ない蛇口

 ――人間にとって水はなぜ大事ですか。

 太陽から約1億5000万キロの距離にある地球は、太陽光線によって、水が液体、気体、固体と循環する惑星。水が媒体となって有機物やアメーバ-などの生命も誕生した。

 人間の体は、赤ん坊は約80%、30歳くらいで約70%、高齢者で約65%が水分でできている。食べた栄養分は水になって血管で運ばれる。体内の細胞に栄養分を届け、廃棄物を運び出す。この水の循環がうまくいけば、細胞は生き生きする。生命の中で一番大事なものは水です。

 ――訪朝で一番、印象的だったことは。

 平壌周辺から板門店まで足を伸ばしたが、どこへ行っても水道の蛇口から水が出ていなかった。トイレの中にはポリバケツがあってひしゃくが置いてある。水洗トイレはあっても流す水がないからだ。その原因は電力が足りないこと。電力事情を改善しなければだめだと思った。

 

高い5歳未満児死亡率

 ――上水道の現状は。

 平壌市内の外国人向けのホテルでは、蛇口から水が出た。だが、東京から持参した粉末の薬品を水道水に入れてみると、塩素消毒されていないことがわかった。

 北朝鮮は、地下資源が豊富。河川や井戸の水がヒ素やカドミウムで汚染されている恐れがある。インド、パキスタン、バングラデシュ、ネパールなどでもそうだ。国連児童基金(ユニセフ)の「世界子供白書2015」によると、2013年の5歳未満児の出生1,000人当たりの死亡率(推計値)は、北朝鮮は27人。日本(3人)、韓国(4人)はもとより、中国(13人)やベトナム(24人)などを上回っている。汚染された水と栄養失調が原因とみられる。

 

エリート団地でもトイレの水出ず

 ――エリート科学者たちが住む平壌郊外の「宇宙科学者団地」も行かれたとか。

 昼ごろ訪問すると、幼稚園もあり、住宅内にはテレビ、洗濯機、ステレオも備えられていた。ところが、電気が来ていなかった。「今日は電気が来ないんですか」と聞くと「朝晩来ます」という答え。横に置いてあったバッテリーをつなぐと、LEDの電球がついた。それでも室内は薄暗く、ろうそくのようだった。

 立派な洗面所があって、ぴかぴかにめっきされた蛇口がついていたが、水が出ない。水洗トイレの水は出なかった。平壌市内では、外国人向けのレストランなどではトイレから水は出たが、平壌駅前の食堂に入ったところ、トイレの入り口に大きなポリタンクとひしゃくが置いてあって水は出なかった。

 

インフラ整備に1・5兆円必要

 ――北朝鮮の水事情を改善するにはどうしたらよいですか。

 水道の視察で世界85カ国ほどを訪れたが、北朝鮮はちゃんと立派な台所があって、ぴかぴかにめっきされた蛇口がありながら水が出ないので驚いた。便器も日本製が入っていて水が出ない。

 旧ソ連の援助でつくったとみられる水インフラはあるが、老朽化して使えなくなっている。取水設備、浄水場、配管、水洗を含む給水など新たに水インフラの整備が必要だ。それには約1・5兆円かかるとみられる。

 電力不足、水問題を解決してこそ、衛生状態の改善や食糧増産につなげることができる。

 

 

 よしむら・かずなり 1948年12月15日 秋田市生まれ。1972年に秋田大学教育学部理科を卒業し、荏原インフィルコに入社、浄水場をつくって水を配るなど水処理エンジニアリングを担当。荏原製作所経営企画部長を経て国連に出向、1998年から3年間、経済社会局環境審議官を務める。帰国後、荏原製作所を早期退職し、2005年、水資源から上下水道まで水問題を総合的に扱うグローバルウォータ・ジャパンを設立。2015年10月6日から10日まで、北朝鮮の友好団体「東京・平壌虹の架け橋」第4次訪朝団(江口済三郎団長)の一員として訪朝した。

更新日:2022年6月24日