選択肢は多くない

(2020.1.14)岡林弘志

 

 強がりの後ろから悲鳴が聞えてくるようだ。2020年、北朝鮮は米朝会談が始まる前と同様、展望が開けないまま始まった。そのためか恒例の「新年辞」がない淋しい元日だった。暮れの中央委総会で、金正恩・労働党委員長は連日長い演説をぶち、「正面突破戦」を連発したが、苦境が色濃くにじみ出る内容だった。当面、朝鮮半島情勢は不透明なまま動くのだろう。

 

「年内」守らないから、「新戦略兵器」

 

 「これからの世界は、遠からず共和国が保有する新しい戦略兵器を目撃することになろう」(2019・12・28~31)。労働党中央委員会第7期第5回総会で、金正恩は延べ7時間も演説したという。そのなかで、対外的に一番言いたかったのはこのことか。総会は通常1、2日だが、今回はなんと4日間も続けられた。それだけ、総括すべきことがあった、北朝鮮にとって重大な局面にさしかかっているということだろう。

 

 朝鮮中央通信は、元日にこの内容を詳しく報道した。このためか例年の施政方針である最高指導者の「新年辞」はなし。2013年以来初めてだ。金日成時代から見ても極めて異常。それだけ、北朝鮮がただならぬ状況に置かれているということだろう。

 

 前回の総会(2019・4・10)で、金正恩は、米朝交渉の期限を一方的に「年内」と定め、「米国が約束を守らず、制裁や圧力を続けるなら、新しい道を模索する」と宣言した。しかし、米国はあくまでも「北朝鮮の完全な非核化」を求める。歩み寄りは望めないとみて、「重大な問題を討議、決定する」(12・4)と予告して、今回の総会が開かれた。

 

 議題の中心は、「醸成された対内外形勢の下で我々の当面の闘争方向について」だ。朝鮮中央通信の報道(1・1)によれば、ほとんどが金正恩の演説だ。内容は、米朝関係を中心に、「自立」を強調する国内経済の課題と目標。長さは、いつもの「新年辞」の半分ほどか。毎年、これを学習させられる労働者にとっては、大助かりだろう。もっとも総会の課題貫徹集会が全国各地で開かれ、動員されている。

 

 まずは米朝関係。金正恩は「米国は対話を云々しながら、朝鮮を窒息、圧殺するための悪巧みを露骨にし、白昼強盗さながら、二重の振る舞いをしている」「米国の本心は、制裁を維持しながら、我々の力を消耗、弱化させることだ」。米国は交渉と言いながら、実は独裁体制崩壊を狙っているというのだろう。そして、「70余年の米国の敵視政策により、朝鮮半島情勢はより危険で重大な段階に至っている」のである。

 

 具体的には、北朝鮮は①核実験と大陸間弾道ロケット試射の中止②核実験場を廃棄―という「先制的重大措置」をとった。ところが、米国は①中止を公約した米韓合同軍事演習を数十回②先端戦争装備を南朝鮮に搬入③10余回の単独制裁措置―を行ったのだ。すなわち、こっちが誠意を示しているのに何だ!「体制圧殺の野望に変わりない」のだ。

 

 このため、「我々は必要な力を培い、自身を守る」「誰も手出しできない無敵の軍事力を強化していく」ことになり、冒頭で紹介した「新しい戦略兵器」という決意表明になる。要するに、経済制裁解除など米国としての誠意を示せといったのに、言うことを聞かない。それなら2年前に戻って、核兵器、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射ミサイル(SLBM)の開発を再開するぞ。ということだろう。

 

 もっとも「年内」という期限は、金正恩が勝手に決めたものだ。自分で好きなところへ土俵をつくって、相手が上がってこなかったから、おれは勝手にするぞとおどしている格好だ。相手もいないのに、肩すかしをくって、怒りまくっているようなものか。4日間も演説した割には迫力がない。

 

「正面突破戦」は、経済のこと?!

 

 「正面突破戦」―金正恩は、演説の中で、なんと23回もこの用語を使ったという。言葉だけ見れば、米国に正面からぶつかり勝負を挑むのかとギョッとさせられる。ところが、よく見ると「自力更生の威力で、敵の制裁・封鎖を破綻させる」「正面突破の基本部門は経済部門」なのだという.なんだ、なんだ、経済のことかよー。びっくりするじゃないか。

 

 総会での演説は「新年辞」の代わりのようなので、経済にも触れる。昨年は「国家経済5カ年戦略目標」を明記した。これは2016~20年に経済成長率の年8%を達成、これまでもっとも好調だった1980年代の水準に上げるというものだ。30年前が目標というのだから、なんともつつましく、現状がいかに停滞しているかがわかる。いずれにしても、経済立て直しの柱として打ち出したはずだが、朝鮮中央通信の金正恩の演説には出ていない。

 

 この「戦略目標」は今年が最終年だが、実現は全く不可能。経済制裁が効いていてどうにもならない。貿易は対中国が主だが、それもかつての9割減、経済成長率も一時上昇とも言われたが、ここ1、2年は下降のようだ。これでは、とうてい「戦略目標」は口に出せない。代わりに出てきたのは「10大展望目標」。「国の経済を安定的に展望的に発展させる」ものだという。また、最大の公約だったはずの「人民生活の画期的向上」という文言も見えない。

 

 演説の節々に窮状がにじみ出る。「ここ数ヶ月間、過酷で危険極まりない大きな苦難だった」「経済活動で隘路が多い」「大胆に革新できず、沈滞している国家管理と経済活動」「かつて知らない長期的な酷い環境」……。続くのは「自力更生の旗をより高く掲げて」「自力更生、自給自足の高価な富をより多く創造する」「今日の栄えある闘いで、先駆者、旗手になって勝利の進撃路を力強く切り開こう」‥‥。「自力更生」と精神論、ゲキだ。

 

 そして締めとして、金正恩は「難関は突破され『我等しあわせ歌う』の歌が全国人民の実生活となる新しい勝利を迎える」と「確言」した。しかし、演説の内容からは「新しい勝利」の青写真は見えてこない。今年のメーンスローガンは「我等の前進を妨げるあらゆる難関を正面突破戦によって切り抜けていこう」。昨年の「自力更生で新たな進撃路を開こう」に比べて、大分悲壮感が漂う。

 

金正恩演説で南北関係は無視

 

 「新年辞」がないため、総会での金正恩演説が今年の施政方針かと思って見ると、米朝と国内経済以外はほとんど言及がない。重要施策であるはずの南北関係については全く言及なし。昨年の新年辞では「昨年は民族分断史上、劇的変化が起こった年」であり「北南関係の大転換のための主導的、果敢な措置を講じた」「全く新たな段階に入った」と、高々と歌い上げた。

 

 1年に3度南北首脳が顔を合わせ、板門店宣言と平壌共同宣言、そして「武力による同族間の争いの収束を確約した事実上の不可侵宣言」をした。金正恩が言うように「民族共栄のための第一歩を踏み出した」のである。そして「2019年の新春には北南関係の発展、平和・繁栄・祖国統一でより大きな前進を遂げなければなりません」。輝かしい南北関係が目の前にあるような高揚感すら漂っている。

 

 もっとも、金正恩が持ち出した具体案は開城工業地区の操業と金剛山観光の再開だ。いずれも北朝鮮にとって貴重な外貨稼ぎの場だった。実現すれば、北朝鮮へ外貨が流れる。制裁の抜け道になりかねない。文在寅・韓国大統領はかなり前のめりだった。さらには北朝鮮内の鉄道整備などの調査団を送ったりした。しかし、米政府から経済制裁をないがしろにするのかとクギを刺され、実行は出来なかった。

 

 金正恩からすると、あれほど文在寅が南北新時代を強調するから、同調してやったのに、1ドルも寄こさないとはどういうことか。関係改善は口だけか。要するに、金正恩は、文在寅に外貨を出させ、制裁に風穴を開けたかった。しかし、過去1年、何の前進もなかった。口だけのサービスは要らない。

 

 それに、米朝首脳会談も文在寅がしつこく勧め、必ずや経済制裁、米国の敵対行為の削減につなげると言うから乗ったのに、米国は北朝鮮を丸裸にする「完全な非核化」に直ちに踏み切れと言う。話が違うではないか。トランプを説得する力なんてないじゃないか。対北融和というのは口先だけ、何の実利ももたらさないなら、これ以上付き合うつもりはない。このあたりが、演説での南北関係言及なしの理由だろう。

 

 「近いうち、金委員長が返礼として来韓できる条件が整えられるよう南北ともに努力することを臨んでいる」(1・7)。文在寅は、新年辞でこう呼びかけたが、当然ながら、北からは何の反応もない。また「南北協力を一層強化する現実的方策が切実に求められている」とも言ったが、そんなときではなさそうだ。

 

 韓国の聯合ニュースは、「北朝鮮の官営メディアは50日近く韓国非難なし」(1・7)と報じて、「南北関係修復の可能性を残している」との見方もあるという。同時に、我が民族同士やメアリなどの対外宣伝組織は、「北侵合同軍事演習をし、先端攻撃兵器を導入し、情勢を悪化させたのは南朝鮮当局だ」「恥知らずの無駄口だ」と、対韓非難を続けていることも紹介している。文政権の焦りはわかるが、およそ関係改善にはほど遠い。

 

核ミサイル開発再開に最新偵察機で警告?

 

 問題は、これから北朝鮮がどう出るかだ。金正恩が明言したのは「新しい戦略兵器」の開発だ。すでに述べたが、ICBM、SLBM、それに搭載可能な核爆弾のことだろう。しかも「世界が目撃する」というのだから、実験によって実際に使えるぞと、世界に見せつけるということだろう。実際に昨年末、北西部の東倉里衛星発射場で、2回「重大試験」を行った(12・8、14)。長距離ミサイルのエンジン燃焼実験のようだ。それ以前から、核関連施設拡充の動きが、衛星からとらえられていた。

 

 「(金正恩が)私との約束を破るとは思わないが、破るかもしれない」(1・5)。トランプは記者団にこう語った。約束とは、トランプ米大統領が成果として誇る核とICBM発射実験中止のことだ。昨年末には「米国は世界最強の軍隊を持っている。必要なら使う」(12・3)と、しばらくぶりで北朝鮮に警告した。昨年十数回あった短距離ミサイル発射には口をつぐんでいたが、「重大実験」は戦略兵器につながると見てだろう。

 

 同時に、米国は11月末から連日のように、最新鋭の偵察機RC135Vなどを朝鮮半島上空に飛ばしている。地上をレーダーで監視して、特にミサイル発射基地や移動発射台、それに軍の移動などもとらえ、味方地上部隊を指揮、管制できる。無人の偵察機グローバルホール、早期警戒管制機E8Cなども飛来した。グアムからは、金正恩が最も恐れるという戦略爆撃機B52Hが日本上空まで来た。これらの警戒活動は年を明けても続いている。

 

 それでも、金正恩はエンジン実験以上のICBM発射や核実験などを再開出来るか。昨年末、北朝鮮は米国の譲歩、経済制裁解除などを迫るため、「クリスマスプレゼントに何を選ぶかは米国次第だ」(12・3李泰成・外務省米国担当次官)と脅しを掛けた。しかし、年末は中央委総会を開いただけ、具体的な「プレゼント」はなかった。そして年明け、金正恩にとって、鳥肌が立つような出来事が起こった。

 

イラン司令官殺害と「斬首作戦」

 

 イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が隣のイラク・バクダッドの空港で、米軍の無人攻撃機(ドローン)MQ9リーパーのミサイル攻撃で殺害された。命令を出したのはトランプだ。「世界最悪のテロリストだ。何千人もの米兵を殺害し、新たな攻撃を計画していた」というのが理由。新計画の確証があるかどうかは不明、米軍をはじめ政府内でも最も極端な選択肢の一つと言われる命令だったという。はっきりしたのは、要人をピンポイントで攻撃できるということだ。

 

 世界中に大きく報道された。ニュースを見る金正恩の頭に「斬首作戦」がよぎり、思わず首筋をなでたとしても不思議ではない。「斬首作戦」は有事の際の北朝鮮・戦争指導部を排除するのを狙う米韓両軍の秘密作戦だ。戦争指導部とは、言うまでもなく金正恩のことを指す。奇しくも、韓国のメディアはつい最近、この訓練が韓国内で行われたと、一斉に報じたばかりだ。

 

 米国防総省が公式ウェブサイトで、「韓国国内で今月8~11日に行われた訓練の写真12枚と動画を公開した」(12・16)からだ。朝鮮人民軍らしき制服の兵士がいる拠点を攻撃し、私服の要人らしきを制圧、連行する場面が出てくる。米軍は「斬首作戦」を否定という報道もあったが、北朝鮮が「クリスマスプレゼント」などと、盛んに米国を脅していた時期だ。絶妙のタイミングではあった。

 

 そうした動きに続く、イラン司令官の暗殺だ。いわば、トランプがへそを曲げると、平気で戦争状態にもない国の要人殺害を命令することを世界に知らしめた。何とも乱暴な話だが、金正恩にとっては決して人事ではない。金正恩が肝を冷やしたとしたら、結果として北朝鮮の暴走を抑止することになる。

 

核ミサイル実験はトランプを怒らせる

 

 「ハッピー・バースデー」。トランプは金正恩に誕生日(1・8)祝いのメッセージを送った。ただ、北朝鮮国内では、この日は祝日になっていない。実際に公式の行事はなかった。個人崇拝を柱とする独裁体制の中では異常だ。母親が出自の悪いと定めている在日のため、誕生日やその場所を明らかに出来ないのか。母親がだれかも公表されていない。

 

 金正恩は先の演説で米国の対北対応を口汚くののしったばかりだ。それなのに「おめでとう」はないだろうというのは常識。トランプに常識は通じない。ただ、トランプが金正恩を見限っていないことは伝わるだろう。それを裏切って、核ミサイル実験、「新しい戦略兵器」の実験に踏み切ることが出来るか。トランプの本年最大の命題である再選を狙う大統領選挙(11・3)が近づいている。北の実験はトランプの顔に泥を塗ることになる。トランプが言う米朝会談の成果を無にする、再選にとって大きなマイナス要因だ。

 

 トランプが黙っているはずがない。その気になれば、他国の軍隊の首脳を殺害するのもいとわない。金正恩が実験に踏み切るならば、自らのクビをかける覚悟がいる。演説ではいきり立ってはみたが、実際に対米対応の選択肢の幅は限られているのではないか。

 

 誕生日メッセージには余聞がある。この話は、最初韓国・青瓦台から出てきた。ちょうど、鄭義溶・韓国大統領府国家安保室長と、北村滋・国家安全保障局長が米ホワイトハウスを訪ねたところ、文在寅を通して伝言して欲しいと頼まれ、さっそく北朝鮮に伝えたと公表した(1・10)。トランプは、韓国を仲介役として重視していると誇示したかったのだろう。

 

 その翌日、「南朝鮮当局は朝米首脳間に特別な連絡ルートがあることを知らないようだ」と、金桂官・北朝鮮外務省顧問が談話を発表。韓国が「興奮の余り全身を震わせて」伝えてきたが、「大統領親書は直接伝達されてきた」。「朝米関係での仲裁者の役に未練が残っているようだ」が、「差し出がましく、僭越」「愚かな考え」「自重しているのがよかろう」と皮肉たっぷり。とんだピエロ役にされてしまった。

 

 ついでに、金桂官は「我々は米国との対話で1年半以上だまされ、時間を失った」と非難。ベトナムで北が持ち出した「一部の国連制裁と(共和)国の中核的核施設を丸ごと換えよう」という提案は「二度としない」と、今のままでの会談を拒否した。同時に、「我々の行く道はよく知っている」とは言ったが、具体的なこれからの話はない。

 

観光開発を大宣伝するが

 

 当面、金正恩は演説で力説した経済の「自力更正」、いわゆる「正面突破戦」に邁進する。このためか、今年初めての現地指導は「順川燐酸肥料工場」の建設現場だった(1・7)。金正恩は「正面突破戦の先頭で闘っている」とご満悦だった。しかし、肥料製造は、後進国がまず手を付ける分野だ。これが「先頭」というのは、いかに工業分野が遅れていることを裏付けているのではないか。

 

 もう一つ、かねて力を入れているのが観光による外貨獲得だ。年明け、北朝鮮メディアは「陽徳温泉文化休養地」が稼働開始(1・10)を大々的に報じた。「同地を訪れる勤労者らの便宜のため、平壌~温井(オンジョン)間の列車運行が始まりました」(朝鮮中央テレビ)と、大勢の親子連れがつめかけた平壌駅のプラットフォームを映し出した。この観光地は、金正恩が何度も現地指導して、完成させたものだ。

 

 「国際的水準」と誇る「馬息嶺スキー場」も今冬の営業を開始した(1・8)ことも大々的に報じた。これも金正恩の肝いりで2013年に完成。制裁が厳しくない時期で、リフトなど外国の製品が使われている。いずれも、観光は経済制裁の対象外となっているため、外国人観光客を呼び入れて外貨を稼ごうという狙いだ。

 

 しかし、日米韓などは北朝鮮への渡航制限、対北感情もよくないことから観光客は望めない。北朝鮮が便りにするのは中国だ。すでに年間180万人(2018年、大韓貿易投資振興公社推定)が訪れている。そのうえ、習近平国家主席が訪朝した際(2019・6)に、観光客の増加を約束したと言われる。しかし、鉄道や道路などの整備は遅々として進まず、宿泊施設もごく限られている。外貨稼ぎにも自ずと限界がある。

 

 制裁により昨年末で出稼ぎ労働者は全員帰国を強いられた。一方で、労働ビザでなく、観光や研修などを名目にした短期ビザによって、出稼ぎするケースが増加と報じられている。ほとんどが中国のようだが、それでもかつてのように10万人近くには遥かに届かない。北朝鮮当局がピンハネする額は激減した。

 

「正面突破」の掛け声にも限界

 

 経済立て直しのためには、まず産業や生活の基盤となるインフラ整備が不可欠だ。しかし、金正恩が力を入れている様子はうかがえない。かねて鳴り物入りで宣伝され、金正恩も何回も足を運び叱咤激励した水力発電所の完成は数年前に報じられた。その後水漏れ、工事の手抜きなどの情報があり、発電事情が改善された様子もない。そのためか、総会演説でも全く触れていない。これでは、「正面突破戦」もすぐに息切れする。

 

 自力更生経済はすでに目一杯だ。精神論で突破できる段階ではない。といって、米国に言うことを聞かせる、脅す最大の方法である核ミサイル開発の推進、大々的な実験も危険が大きすぎて難しい。経済制裁の八方ふさがりに穴を開けなければならないが、選択肢はあまりない。

 

 「祖国と革命、民族史に意義深い出来事が記された2018年を送り、希望の夢を抱いて新春2019年を迎えました」-。昨年の新年辞の冒頭だ。大晦日の総括との落差は大きい。昨年は南北関係、米朝関係改善の展望があった。核を手放さないまま、経済制裁に風穴を開けられるという目論見がうまくいく、トランプは与しやすしという希望があったのだろう。

 

 このため、核実験場の入り口を爆破するなど派手な演出もして見せたが、結局北朝鮮が手にしたものはないまま1年が過ぎてしまった。口には出さないが、人民は期待した分、失望も大きい。体制の基盤にもひびが入りかねない。金正恩にとっては、何とも寝覚めの悪い元旦、とうてい「新年辞」などという心境にはなれなかったに違いない。

 

更新日:2022年6月24日