ICBM「成功」ではしゃぎすぎ

(2017. 7.23)岡林弘志

 

 「大陸間弾道ロケット」の発射大成功――。金正恩・労働党委員長を先頭にしてのはしゃぎようは尋常ではない。米大陸にまで届くと自賛する弾道ミサイル発射実験がよほどうれしかったに違いない。しかし、大量破壊兵器が成功したといって、こんなおおっぴらに騒ぐ国家指導者は珍しい。これで米国や周辺国が「へ、へーっ」と頭を下げるわけでもなかろうに。

 

「米国の野郎ども」にプレゼントだ!

 

 「今日、米国の野郎どもは非常に不愉快だっただろう。『独立節』の『贈り物』は気にくわないだろうが、これからも退屈しないよう『贈り物』をしばしば送ってやろう」(7・4朝鮮中央通信)。金正恩は、大陸間弾道弾発射を現地指導し、監視所のディスプレーで飛行状況を見学し、「完全に大成功だ」と宣言したあと、「豪快に笑いながら」米国を皮肉った。

 

 わざわざ米国の独立記念日を選んで発射、精一杯からかったつもりだろうが、大陸間弾道弾は、世界戦略に関わる最重要の武器だ。これでは子供が近所の誰もが持っていないようなおもちゃを手に入れて、鼻高々、はしゃいでいるのとかわらない。なんとも軽い。うれしいのだろうがあまりに幼いし、品がない。

 

 最新兵器の開発は、多くの国で取り組んでいるが、ほとんどは秘密裏に行う。これほど、おおっぴらに騒ぐのも珍しい。目立ちたがり屋だ。それに大量破壊兵器というのは、文字通り数多くの生命を奪い、大量の財物を破壊、消滅させる残酷な兵器だ。事の重大さ、深刻さを認識していない。あるいは想像力が欠けているのだろう。

 

 金正恩は、試射の数日前からロケット組み立て現場を訪れて、科学者、技術者と一緒にいて、「発射準備過程を細心に指導した」のである。そして、当日の明け方には、発射場まで出向いて、発射計画を点検したという。思い入れが強いのはよくわかる。

 

米帝の『心臓部』打撃は疑問

 

 「米国の心臓部を打撃する火星14を成功させた」(金正恩)ことで有頂天になっているのは間違いない。そして、「米国の対朝鮮敵視政策と核脅威が根源的に一掃されない限り」、「核と弾道ロケットを協議のテーブルに置かないし」「核戦力強化の道からたった一寸も退かない」と宣言したのである。米国が言うことを聞かない限り、話し合いにも応じないというのだから威勢がいい。

 

 果たして、今回の「火星14」は、金正恩が大喜びをするほどの性能を持っているのか。北朝鮮国防院の発表によると、ミサイルの高度は2802㎞、飛行距離は933km、飛行時間は39分間だった。韓国軍のレーダー追跡でもほぼ同じ。米国防省は「新型で、ICBMの水準を満たす5500km以上の飛行能力がある」(7・5)と、ICBMであることを認めた。韓国の韓民求国防相も、角度を変えれば「射程は7000~8000km」という。アラスカ、ハワイへ十分届く距離だ。

 

 北朝鮮は今回も、実験の具体的な項目などを発表した。特に、第2段階分離後、弾頭部分の姿勢制御、大気圏再突入時の誘導はうまくいき、弾頭内の温度は「25~45度に安定的に維持され、核弾頭爆発制御装置は正常に作動し、目標水域を正確に打撃した」(7・5朝鮮中央通信)という。従って金正恩は「完全に大成功だと宣言」したのである。

 

 ただ、韓国国家情報院は「ICBMクラスの射程があるものの、初期のレベルの実験段階。特に大気圏への再突入は本当に成功したかどうか不明」(7・11)という分析結果を国会に報告した。米韓共に、政治的思惑もあっての発表なので、どこまでが本当かわからない。北朝鮮のミサイル技術が進んでいることは間違いないが、実戦配備まではまだ時間がかかりそうだ。金正恩が誇る米帝の「心臓部」を正確に狙うところまでは至ってないということか。

 

「歴史的大慶事」とお祭り騒ぎ

 

 周辺国の受け取りようはともかく、金正恩が得意の絶頂にあることは間違いない。実験成功を受けて、次々と祝賀行事が行われた事でもよくわかる。この間の催し一覧表を見てもらえばわかるが、時に人民を大量動員して、1週間ほどお祭り騒ぎが続いた。

 

 「火星14の大成功は、白頭山大国の英雄的気概と強大無比の国力の一大誇示であり、共和国の歴史に特記すべき大慶事である」(7・6)。ICBM開発を担当した国防科学院の張昌河院長は、早速開かれた平壌市軍民交歓大会で演説し、歴史的快挙を強調した。

 

 もちろん、金正恩も率先して祝った。とくに音楽舞踊公演(7・9)は豪華だった。牡丹峰楽団、青峰楽団、勲功国家合唱団、王在山(旺載山)芸術団という北朝鮮で超一流の楽団が一挙に出演、美女がミニスカートで活発な踊りを見せ、声量豊かな合唱が会場に流れた。バックスクリーンにはICBMがしばしば映し出された。そこに金正恩が姿を現し、右手を高く上げ、満面笑みを浮かべて、会場の拍手に答えた。

 

 また、「火星14成功を祝う宴会」(7.10)には、金正恩夫妻が顔を見せた。豪華な食事が出され、牡丹峰楽団の公演もあった。ここでは黄炳瑞・党政治局常務委員が祝賀演説「米国と追随勢力が白旗を揚げ、降伏書を捧げて来るまで闘っていく」と威勢よくぶち上げた。なお、久しぶりに姿を見せた李雪柱夫人はほおがふっくらしていた。なかなか顔を出さないので、不仲かなどという推測も流れたが、元気ではあるようだ。

 

 もちろん、これらの行事には、ミサイル開発に関わる「国防科学部門の幹部、科学者、技術者」が大挙して参加、数台のバスを連ねて、平壌市内に入ってきたときは、雨天にもかかわらず動員された人民が沿道に長い列を作って歓迎した。ご苦労なことだ。行事に参加した後は、平壌市内見物(7・11)。まずは朝鮮革命博物館、続いて自然博物館、中央動物園、綾羅人民遊園地とイルカ館を見物。

 

 そして、締めくくりは万寿台議事堂での表彰式(7・13)。金正恩が「開発した科学者らを空高く持ち上げて全世界に押し立ててやりたくて、この意義深い席を用意した」と恩着せがましく演説。金日成勲章、共和国英雄称号、国旗勲章第1級などを次々と与えた。また、金日成、金賞日の名前入りの腕時計、金正恩の表彰状なども授与した。

 7・4

「大陸間弾道ロケット・火星14型発射実験・成功

 金正恩が「直接指導」

 7・6 平壌市軍民交歓大会、花火大会、市内各所で
 7・8 金正恩、錦繍山宮殿を訪問、火星14開発メンバーも
 7・9 成功記念の音楽舞踊公演、金正恩も鑑賞
 7・10 成功を祝う宴会、金正恩夫妻が参加
 7・10~12 成功記念音楽舞踊総合公演
 7・11 試射に寄与した国防か科学部門のメンバーが平壌市内参観
 7・12 労働者階級と職業総同盟の慶祝集会(平川革命事績地教育場)
 7・13 (報道)開発関係者の表彰式、金正恩が祝辞

 

 もちろん、金正恩も率先して祝った。とくに音楽舞踊公演(7・9)は豪華だった。牡丹峰楽団、青峰楽団、勲功国家合唱団、王在山(旺載山)芸術団という北朝鮮で超一流の楽団が一挙に出演、美女がミニスカートで活発な踊りを見せ、声量豊かな合唱が会場に流れた。バックスクリーンにはICBMがしばしば映し出された。そこに金正恩が姿を現し、右手を高く上げ、満面笑みを浮かべて、会場の拍手に答えた。

 

 また、「火星14成功を祝う宴会」(7.10)には、金正恩夫妻が顔を見せた。豪華な食事が出され、牡丹峰楽団の公演もあった。ここでは黄炳瑞・党政治局常務委員が祝賀演説「米国と追随勢力が白旗を揚げ、降伏書を捧げて来るまで闘っていく」と威勢よくぶち上げた。なお、久しぶりに姿を見せた李雪柱夫人はほおがふっくらしていた。なかなか顔を出さないので、不仲かなどという推測も流れたが、元気ではあるようだ。

 

 もちろん、これらの行事には、ミサイル開発に関わる「国防科学部門の幹部、科学者、技術者」が大挙して参加、数台のバスを連ねて、平壌市内に入ってきたときは、雨天にもかかわらず動員された人民が沿道に長い列を作って歓迎した。ご苦労なことだ。行事に参加した後は、平壌市内見物(7・11)。まずは朝鮮革命博物館、続いて自然博物館、中央動物園、綾羅人民遊園地とイルカ館を見物。

 

 そして、締めくくりは万寿台議事堂での表彰式(7・13)。金正恩が「開発した科学者らを空高く持ち上げて全世界に押し立ててやりたくて、この意義深い席を用意した」と恩着せがましく演説。金日成勲章、共和国英雄称号、国旗勲章第1級などを次々と与えた。また、金日成、金賞日の名前入りの腕時計、金正恩の表彰状なども授与した。

 

 もちろん、この間、平壌市内を流れる大同江では花火大会がおこなわれた。この大騒ぎは、内外に大々的に報道された。対外的には、経済制裁にもめげず、核ミサイル開発が急ピッチで進んでいることを、世界特に米国に誇示するため。国内的には、経済的な実績がほとんどないなかで、強い指導力を人民に見せつけるためだ。

 

 一足早い「真夏の夜の宴」は終わった。しかしこの実験を恐れて、金正恩が望むように、米国や周辺国が経済制裁中止、金正恩体制の存続保証、在韓米軍撤退、休戦協定の平和条約への移行などに応じる事にはならないだろう。脅しに屈するような対応をするわけにはいかない。従って、金正恩は、これではどうか、これではどうか、とさらなる核・ミサイル開発を続けなければならないだろう。

 

北朝鮮版の「赤い靴」か

 

 こんな金正恩を見ていて、アンデルセン童話の「赤い靴」を思い出した。貧しい少女カーレンは養女にもらわれて、美しい娘になりました。ところが、赤い靴が大のお気に入り。育ての親である老婦人が危篤の時にも、看病もせず、赤い靴を履いて舞踏会へいってしまいます。すると、赤い靴は勝手に踊り出し、足にぴたっとくっついて脱ぐこともできません。疲れても踊りは止まらず、ついには、首切り役人に両足を切ってもらい、ようやく踊りから解放されました。なんとも残酷な話です。

 

 北朝鮮のキン坊っちゃんは、何不自由なく育てられました。小さいときから戦争おもちゃが好きで、本物のピストルで百発百中させたこともあります。30歳を過ぎてロケットの飛び出る帽子が大のお気に入り、周りが危ないから止めろと注意しても、その帽子を脱ごうとしません。しかも、より性能のいい遠くまで飛ぶロケットつくっては、帽子から発射し続けます。すると、発射台でもある帽子はだんだん重くなり、頭にくっついて離れなくなってしまいました。

 

 帽子をはずそうとすれば、頭を切るか、首から切り落とさなければなりません。それでは死んでしまいます。命のある限り帽子をかぶり続けなければならないのです。その前に、どこまで帽子の重さに耐えられるかもわかりません。果たして、キン坊っちゃんの運命やいかに。

 

 「赤い靴」には続きがある。両足首を失った少女は赤い靴だけに執心して、ヒトへの思いやりなど大切なものを失っていたと改心、不自由な体で教会の慈善活動を献身的に行う。そうしたある日、突然天使が現れ、これまでの罪を許される。そして、安らかなうちに天に召されていきました。めでたし、めでたし。

 

 キン坊っちゃんも、悔い改め、核ミサイル開発を止めて、「人民の生活第1」の旗の通り、人民のためにカネ、モノ、ヒトをつぎ込む。勤勉な人民は一生懸命働き、食うに困らない平穏な生活が実現する。「地上の楽園」とは言わないが、国名通りの「民主主義人民共和国」に生まれ変わる。人民から深く感謝され、夜は安らかに眠れるようになりましたとさ。

 

 寝苦しい夜が続く。「真夏の夜の悪い夢」を見たようだ。

更新日:2022年6月24日