6者協議再開に強く反対する

洪熒・佐藤勝巳

(2012. 1.18)

 

NHKの報道姿勢に異議あり

佐藤 金正日の死亡後、誰がどんな発言をするのか関心を持ってきましたが、中国、韓国、日本の首脳たちは、口を揃えて「韓半島の平和と安定」(2011年12月26日胡錦濤・野田佳彦会談)を言っています。

 

日本は、「不測の事態に備えて、情報収集する」「6者協議の再開」、あらゆる可能性を視野に入れて拉致問題に対処するが、現状においては制裁の強化はあっても緩和はない」(松原仁拉致担当大臣)旨の認識を示しています。しかし外務省や民主党、自民党の一部には、制裁緩和の意見が根強く存在しています。

 

特にNHKは、田中均(元外務省審議官)、小此木政夫(慶応大学教授)、李鐘元(立教大学教授)氏など6者協議賛成論者を機会あるごとに番組に出演させ、正しくない情報を流布しています。このNHKの番組は、NHK自身が、6者協議の歴史と現実を正しく認識していない、無知から起きている偏向報道だとお思います。

 

 李明博大統領も新年の国政演説(1月2日)で、「韓半島の平和と安定を維持するのに最善を尽くします」、「最も緊要な目標は韓半島の平和と安定です」、「対話を通じて相互不信を解消し相生共栄の道へ進まねばなりません」、「われわれは6者協議の合意を通じて北韓の安保憂慮を解消し経済を回生するのに必要な支援を提供する準備を整えています」と現実化から逃避する話をしました。

これまで北が、核を放棄しない、核保有国として認めろと粘ってきた経緯は、説明の要らない事実です。繰り返しこの対談で指摘してきたことですが、そもそも6者協議は、北の核廃棄を追求する目的で始めたはずです。だがその協議の最中に、金正日によって2006年、2009年と2回も核実験を強行されています。この事実は、韓国、日本、米国などの恥ずべき外交であり、安全保障面での大失態です。それなのに今また、6者協議を再開しなければならない、というのは何故なのかということです。

 

「6者協議」で何を話すのか

佐藤 ピョンヤンは「話し合いも戦争」と位置づけ、時間を稼ぎながらミサイルに搭載可能な核爆弾の縮小化を図ってきました。核武装こそ金氏王朝を護る唯ーの活路という切迫した認識で6者協議に臨んできている北に対して、韓国、日本、アメリカに必要なのは、北の独裁体制を本当に除去するという“決意”です。その決意をもって「中・朝の連帯」に臨まなければならない。ところが、それがないだけではなく、結果として中・朝に騙されてしまった。北に2回も核実験をさせた挙げ句、独裁者が死亡したら、またもや6者協議をしましょうと言うのですから、気は確かかと言わざるを得ません。

北が核を放棄するはずがないという認識は関係者の誰もが持っています。北が「核武装は金正日の遺産だ」と宣言した以上、野田政権は「日本も核保有の準備に入る」と通告するために6者協議を再開する、というのなら賛成ですが、そんなことは毛頭考えていないでしょう。だったら、6者協議を再開して何を話し合うのかを国民に説明する義務があります。改めて説明を求めます。

かつて金日成は「われわれは核武装する意思も能力もない」とウソをつきました。このウソというより「謀略」を、岩波書店の雑誌「世界」や「朝日新聞」、和田春樹東大教授ら「進歩的文化人」が擁護してきたことをわれわれは忘れていません。騙される方が愚かなのですが、外務省は6者協議でなぜ失敗したのかを総括して、国民に対して説明する責任があります。

 

NHKが報道しなければならないのは、「北の悪辣さ」と「中国の策略」についてです。そしてそれに踊らされた外務省の無能を批判することが公共放送の任務のはずなのに、逆のことをやっています。金正日が拉致を認めているのに10年が経過しても解決できないでいます。こんな状況に対して、誰も責任を取っていません。そして、外務省はまたもや6者協議を口にして憚らない。これでは国のため戦わず給料ばかりを取っているということだ。国の安全、国民の生命財産を守る意思のない外務官僚は、職を辞すべきです。

6者協議は金正日を助け、中国に利 用されてきた

 まだ6者協議を云々している人達は、これまでの自分の誤った主張や分析を正当化するため、客観的情勢を無視し、日本の世論を平壌や北京が望む方向へ誘導する無責任な主張を続けています。自分の主張が客観的に何を意味しているのか、分かろうとしていない不誠実な人達です。

過去の6者協議に即して言うなら、共産党ー党独裁の中国をまともな普通国家と期待したアメリカや関係国の外交官たちが、金正日に重油などを支援し、野蛮な金氏王朝の延命を助けてきたのです。金正日が核ミサイルを保有することに決定的に手を貸してきたことは否定できません。リビアやシリアなどの独裁者を支持するのと同じ、歴史に対する反動、平和に対する反逆勢力です。

 

佐藤 なぜこんな馬鹿馬鹿しいことが繰り返されてきたかと言えば、北の独裁政権にモノを与えれば改革開放に誘導できる、「軟着陸」は可能である、と考えた人たちがいたからです。そんな間違ったことを言ってきた代表的人物が、韓国の金大中大、盧武鉉元両大統領でした。それに加えてアメリカと日本の政府(小泉政権まで)でした。

 

野蛮と独裁におびえる韓国と日本

しかし金正日政権は、改革開放どころか、核兵器を手にしてしまった。軟着陸論者たちの主張や分析が完全に誤りであったことは、誰の目にも明らかになっています。それなのに李明博政権は、新年になって、無条件対話を北の独裁政権に提案しています。これでは金大中や盧武鉉とどこが違うのでしょうか。要するに、独裁との闘争が恐いから南北対話とか、6者協議を云々しているだけです。この点に関しては、日本政府もオバマ政権も大差ありません。自分たちの臆病を隠すために独裁政権の延命に手を貸す、という無責任きわまりない話です。

 

 その無責任な対応による最大の犠牲者は、独裁政権下の北の住民たちです。最小限の基本的人権までも独裁集団に奪われた北の住民たちは、搾取収奪の末、餓死に追いやられ、政治犯強制収容所の中で殺戮され続けています。

この事実を、6者協議を云々している当局者も「専門家」も見てみない振りをし、金正日が死亡すると今度は、「集団指導」などありえない空理空論のデマを振りまいて、国民をミスリードしています。彼らこそ卑劣で非人間的な人たちと言いたい。なぜなら、金氏王朝との6者協議を続けることは、これから金正恩体制の確立や権力闘争の過程で行なわれる筈のおびただしい粛清と虐殺に韓・日・米も結果的に手を貸すことになりかねないからです。

 

エゴとの戦い

佐藤 このような非人間的な者が一部政治家、ー部「専門家」だけなら救われるのですが、現実はそうではないと思います。今回の大震災で色々な救援活動が展開されていることは評価されることですが、どこか足が地に着いていない危うさがあるという不安を消すことが出来ません。

 

例えば、瓦礫処理についてです。政府が被災地の瓦礫を調べて放射能汚染の心配がない、と言っているのに、瓦礫を引き受けているのは、全国で東京都だけです。汚染された土砂を引き受ける自治体は皆無であるのに、世の中では“絆”が喧伝されています。しかしその中身を一皮むけば、協力とは「自分に被害が及ばない範囲」という“エゴ”が露呈したことでした。それは沖縄の基地問題にも表われています。沖縄県民の犠牲で日本国民が身の安全を図っている、というエゴを沖縄県民が感じないわけがありません。エゴイズムとの戦いなしでは何も解決しないのです。韓国もアメリカも事情は似たりよったりです。

このエゴの拡大したのが6者協議だと私は思っています。ですから、核軍縮を話し合っている最中に、独裁政権に2度も核実験されても、誰も責任は取りませんし、取れという声も上がりません。逆に6者協議や日朝交渉をやれという声が多いということは、無責任な国民が支配的ということです。

 

わが身に被害が及ぶと分かったら、基地も瓦礫も引き受けない人間が圧倒的に多いということです。エゴイズムの中から相互不信は生まれても、信頼関係は生まれようがありません。こんな日本にどうしてなったのかが、実は最大の問題なのですが、論旨が拡散するのでここでは触れません。

 

 北側の戦略は、最初から核ミサイルを持つことで韓国を人質にとって金氏王朝の安泰を図ることでした。韓・日・米は、北側の肩を持つ中国の姿勢がはっきり分かった段階でターゲットを中国に変えるべきでした。中国当局の理不尽な姿勢の根源には、言うまでもなく個人の自由と安全の拡大という普遍的価値への抑圧があります。

日・米・韓は、北に核の破棄を強いると同時に、自国の覇権追求のため核を持った野蛮的暴圧体制を利用している共産主義の中国を抑えなければなりません。自由世界の大勢の人々は独裁や野蛮を恐れます。独裁と野蛮の犠牲者になっている人々を見棄てる人は、やがて彼自身も独裁と野蛮の犠牲者になります。

だから、われわれは独裁政権や中国の覇権主義との戦いを放棄することは出来ません。

更新日:2022年6月24日