菅首相の巨額カンパを暴くことが出来るのか

対談・洪熒 佐藤勝巳

(2011. 8.12)

 

佐藤 「首相、訪朝を検討」と産経新聞(7月26日)が1面トップで報道しました。

中井洽元拉致担当大臣(現衆議院予算委員長)が中国で、春頃から北の宋日昊(ソンイルホ)朝日国交正常化交渉担当大使と秘密裏に接触、「日本人拉致解決」の話し合いを進めている。「首相は拉致問題に進展が見られれば、自ら北朝鮮を訪問し交渉に臨む意向だ」と、首相訪朝の可能性を強く示唆した記事を掲載しました。菅総理はつい夢を果たせず辞めることになりましたが、こういう動きは、当然起こるだろうと推測していましたが、洪さんはどう思いましたか。

 

「6者協議」は北京の謀略

 今までの2人の対談で指摘してきましたが、金正日は後継者の金正恩を後継者に定着させるために、何とか突破口を開きたいが、現実は四面楚歌。中国は、北がこのまま行けば後継者問題などをめぐって内部矛盾で北が崩壊しかねない、と危機感を抱いています。そこで北京は、まず南北対話、そして米朝対話を実現させ、次に「6者協議」の再開、そうすると北に対する国際的制裁の解除に繋がり、金正日独裁政権を助けることが出来るとのシナリオを描き、見せ掛けの外交に尽力したと言えます。

李明博政権は、7月21日のインドネシアのバリ島のASEAN外相会議で、 北に対して天安艦と延坪島攻撃への謝罪要求を曖昧にし、南北外務長官会談を演出しました。日本は、前原前外務大臣が「独自の日朝交渉」への意欲を言い出した2010年の年末以来、北側と裏接触に出たことがこのたび明らかになりました。アメリカは食糧支援の話し合いに続き、7月28日(~29日)にはニューヨークで米朝接触を再開しました。中国は金正日政権を助け、北に対する支配権をより強化するという戦略目標の延長線上で、あれこれの動きが始まったということです。もちろん、中国共産党は一方では空母を用意することを忘れていません。

 

米、韓、日は中国にいつまで騙されるのか

佐藤 1994年の「ジュネーブ合意」以来、中国、アメリカ、韓国、日本、ロシア5ヵ国は韓半島で戦争や混乱が起きては困る、という思惑でー致しています。放っておけば金正日独裁政権が崩壊するのに、そのつど、アメリカが北に石油を与え、次に6者協議で日本を除き、4ヵ国が北に石油を供与し、呆れた話ですが、その間、金正日に2度も核実権をされました。

韓国、日本、アメリカは恥ずべきです。それなのに、またぞろ中国のタクトで動き出しました。金正日政権が崩壊して中国は困るかもしれませんが、韓国、日本、アメリカは歓迎すべきことでしょう。

 

概念なき政治家

中井洽衆議院予算委員長の北朝鮮認識ですが、彼が、拉致担当大臣のとき、北から見れば金正日を裏切った「反革命分子」のキムヒョンヒを日本に呼んで、ヘリコプターで首都圏を観光させて、内外から顰蹙(ひんしゅく)を買った政治家です。

今度はキムヒョンヒを「裏切り者」「殺しても飽き足らない」と思っている北の宋日昊大使と数回にわたって秘密接触しています(前掲)。この一事を見ても、中井氏は、理念、思想どころか概念なし。北のことは勿論、国際、国内情勢も何も分かっていない政治家です。

北の工作員が日本の国会議員を篭絡(手なずける)するとき「先生だけが頼りです」という殺し文句と「“女性”“カネ”を使うと殆ど騙すことができた」と元工作員から直接聞いたことがあります。中井議員はこの3点セットに強い人だろうか。北から見れば、最も取扱いやすい政治家のように見えるでしょう。菅直人政権は後で触れますが、拉致解決など出来るはずがありません。拉致問題が政権や政治家個人の売名、利権、政権の延命策などに使われるのは、今も昔も変わらない政治の宿痾(しゅくあ)ですが、たまらないですね。

しかも、平壌側はいつでも秘密接触をばらす連中ということすら分っていない。

 

絵に描いたような北の対日工作

 問題は、菅直人首相などの来歴です。菅首相の政治資金団体をはじめ、民主党関係者から、警察庁が日本人をヨーロッパから北韓に誘拐、拉致した実行犯として国際的に指名手配している森順子(夫は田宮高麿)の子供が所属する新左翼・過激派崩れの政治団体「市民の党」(代表酒井剛)などに多額のカンパ(2億円という報道もある)をしていることが明らかになったことです。

これは、とんでもないことです。菅直人首相は国会答弁で、市民の党などを「ローカルパーティー」と呼んでカンパしたことを認めました。あの団体の酒井剛代表は、以前から平壌を訪問ハイジャック犯らに会っています(産経新聞8月1日)。そして、今春の統一地方選挙で、森・田宮(夫婦)の長男(28歳)を酒井剛氏らが担いで、三鷹市議会に立候補させた。落選しましたが、北、ハイジャック犯との関連で動いていることは明らかです。このハイジャック犯の子供の地方議会の立候補こそが、朝鮮労働党の対日工作の根深さを物語っています。

そもそも日本社会には理念的動機や生計型で平壌の「金氏王朝」や朝総連と同志関係を結んだ者やその後輩たちが少なくありません。もちろん政界も例外でないでしょう。

 

知らないことは犯罪だ

佐藤 よど号グループは、1975年頃、金日成から主体思想で「日本革命」実現を指示されています。ハイジャック犯2世たちは合計20名が日本に帰国しているそうですが、日本で「主体思想革命」実現を目指して活動し出した極めて注目すべき事件と捉えるべきです。そのグループに民主党が高額のカンパをしているのですから、深刻な売国事件です。

菅首相は国会答弁で、酒井剛氏らを支援したのは民主党の党活動として「連帯・支援」のためと説明しています。そうだとすれば、カンパの原資は、国民の税金から支払われている「政党助成金」からです。これは国家と国民に対する民主党の裏切り、買国行為と断じざるを得ません。

また、菅首相は、韓国で逮捕された日本人拉致実行犯の辛光洙とその共犯(金吉旭)をはじめ北のスパイたちの釈放嘆願書に署名したことを糾されると、そんな人物とは“知らなかった”。この度も、カンパ先の団体の性格を“知らなかった”と答弁しています。菅首相個人が在日韓国人から政治資金をもらったことが表面化したときも、相手が在日韓国人とは“知らなかった”と、知らない、知らないと答えていますが、知らないといえば免罪になると思っているようです。

 

 どの国でも平気で嘘がつけるのが左翼の特徴です。嘘に平気でないと左翼活動はできませんから。ところが、日本を主体思想で革命化するとか、いわんや朝鮮労働党の指導で、日本人を拉致し、母親が、警察庁から国際的に指名手配されている子供が構成員である団体に、仮にも総理が億単位のカンパをして、知らなかったといえば、で済むはずがありません。知らなかったことでも法に違反したら不法で犯罪なのです。

 

酒井剛氏らと総聯のつながり

佐藤 報道の中で、この「市民の党」などが入居している東京都千代田区にある龍伸ビルの所有者は、総聯内では知らないものがいない有名な貸金業・具次龍氏です。この具次龍氏こそが、1967年朝鮮信用組合の前身、同和信用組合を使って脱税し、関東国税局の査察を実力で拒否、国税局の職員が、機動隊に守られて職務を遂行するという前代未聞の「同和信用組合事件」を引き起した張本人です。

総聯は、脱税調査が「在日朝鮮人弾圧だ」と称して傘下朝鮮人を扇動、国税局に在日朝鮮人を抗議に差し向け、業務に重大な支障を与えました。総聯の文書によれば、1976年総聯傘下の朝鮮人商工会と国税庁の間に「税金についての合意」をかち取ったと記しています。事実だと思いますが、日本の国税当局が総聯の暴力に屈した、恥ずべき事件です。このビルを管理していた具次龍氏の会社は、現在も次男・豊田本憲氏(朝総聯東京新宿商工会長)が経営しているそうですが、「市民の党」などが総聯と関係のあることもこの事実から見て取れます。

 

北のスパイは日本で誰と会っていたのか

 今回の事件を見て、北の対日工作の実態を政治家は殆ど知りませんし、知ろうともしていないのが残念です。古いことはともかく、最近韓国で朝鮮労働党の謀略機関「対外連絡部」(現225局)指導の下で、韓国内に地下組織を作り、韓国の政界、労働界、学界などに工作してきた「旺載山」(ワンジェサン)グループ幹部5名がスパイ容疑で逮捕されました。このスパイ組織の総責任者は、「1994年以降、日本に38回、中国には18回の計59回の渡航歴がある」(韓国当局が7月29日発表)と報道されています。

特に、この「旺載山スパイ団」に連累した者の多くが、韓国の民主労働党の党員か、金大中と金正日の「6.15宣言」の翌年の2001年に創刊された「民族21」という月刊誌に関与しています。この雑誌は親北勢力の巣窟で、あの「225局」(旧「対外連絡部」)の機関紙と言えるほど徹底的に平壌を代弁してきました。

「民族21」は特に朝総聯や韓統連などと活発に交流をし、朝総聯、韓統連の広告を出してきたことでも有名です。今回この雑誌が「旺載山スパイ団」事件と関連して捜査対象になるや、朝総連と韓統連が韓国当局を糾弾する活動を活発に始めました。

スパイ団の連累者たちは、日本に来て北の偵察総局の工作員と接触した模様ですか、日本当局は知っていたでしょうか。関心を持って注視していたら知らないはずがありません。

今回のスパイ団事件に「民族21」と共に組織的に繋がっているのが民主労働党ですが、この民主労働党の李正姫代表を韓統連が先月日本に招待して、日本の極左や親北勢力はもちろん、民主党国会議員とも交流や共闘を確認したようです。

 

佐藤 日本のどの公安機関も、この対日工作を知らなかったとすれば、関係公務員達は給料分の仕事をしていなかった、職務怠慢ということになります。朝鮮労働党の韓国でのスパイ組織やその連累した者が、前述の酒井剛氏など平壌の手先らに日本で会っていたのなら、公安当局は公表すべきです。

 

在日韓国人に投票権付与

佐藤 来年4月の韓国の国会議員選挙の比例代表候補と、11月の大統領選挙に、大韓民国の国籍を持つ19歳以上の在外国民すべてに投票権が与えられることになりました。今関係者の間で問題になっているのは、外国人登録証国籍欄に「朝鮮」(国籍ではなく記号)と記載されている在日朝鮮人で「韓国籍」(国籍です)に切り替えた人達が、韓国の左翼候補を当選させるべく策動が始まっていることです。民主党の小沢一郎元代表をはじめ、多くの民主党の国会議員は、民団に扇動されて、在日韓国人に地方参政権を与えるべきだと主張してきたことは周知の事実です。在日韓国人に「特権を与えよ」という主張です。前原誠司元外務大臣、菅直人首相は、在日韓国人から政治資金規正法に違反して、政治資金を貰っていたのですが、それの見返りなのか、だが、菅直人氏らが、よど号2世の属する団体へのカンパは巨額すぎます。胡散臭い変な話です。

 

うごめく韓統連と朝総連

 在外居住韓国人に関する正確な統計は知りません。だって日本国内の数字も日本政府当局が秘密にしていますから知りようがありません。世界各国に住む19歳以上の韓国人有権者を240万人と推定する数字がありますが、その全員を対象にした選挙管理は物理的に不可能です。

仮に大統領選挙が、数十万票の差で当落が決まると見られる場合は、平壌の金正日は必死で在外韓国人への選挙工作を展開するはずです。そうでなくても韓国の選挙を対南政治闘争の機会として徹底利用します。

在日韓国人の有権者は二十数万人と推定されますが、私は、金正日が朝総聯は陰で動かし、前面に出すのは韓統連だと思います。韓統連は既に動き出しました。

中井洽議員などは、北の上記のような対日、対南工作など気配も感じていないはずです。そもそも中井洽議員に誰が話を持ってきたのか、です。工作されている議員が、それを自覚していないほど、構造的にボケているのが民主党の現状ではないでしょうか。

 

菅直人氏は確信犯では?

佐藤 1990年の金丸訪朝以来の日朝関係だけを真面目に検証しても、朝鮮労働党の正体が分かるはずです。日朝交渉をエサに自民党政権は、150万トンのコメをタダ取りされています。韓国の金大中・盧武鉉政権は、太陽政策で独裁政権を軟着陸させるなどと誤った判断で、10年間に100億ドルもつぎ込んで、その挙句、金正日に2回も核実験されました。われわれの基準で、独裁政権を計ったがために、金正日の核武装やミサイル開発を助けたのです。この教訓からすれば、今回の民主党の愚行は、控えめにいって無知なるがゆえに、国を売る行為となったのです。

テロリスト田宮高麿の子供は、北朝鮮で生まれ、主体思想で教育された日本国籍を有する労働党員と見てよいでしょう。それを支えているのが、菅直人氏と市民運動で30年来の付き合いがある酒井剛氏です。菅直人氏は「知らなかった」と言っていますが、菅直人氏の思想経歴から言って、承知のうえで多額のカンパをしたと見た方がよいのではないでしょうか。

 

菅政権や日本政界に仕掛けられた罠

  一度だけでも専門家の話に耳を傾ければ金正日に騙されません。専門家の意見を退ける傲慢さでは安全保障や危機管理は最初から期待できません。民主党などが朝総聯を庇う姿勢に見られるように、敵を恐れ敵の悪事を隠蔽する体質は致命的です。

また、政権の中核はもちろん、実務レベルに安保意識と、敵や悪を科学的に観察する姿勢が欠けていることです。6月のはじめに平壌側が南北の秘密接触を暴露した時点で、平壌の異常事態が分ると同時に、北側の次の出方もはっきりしました。李明博に圧力をかけて全面屈服させるか、屈服しないと裏交渉をばらして李明博に恥を掻かせます。そして、いつものように、東京かワシントンに接触することで李明博の孤立を測る。彼らの行動パターンは10年1日のごとく変わっていません。

この度の日・朝間の裏接触は、常識のある人なら、政権延命のためもがいている菅直人民主党政権を北側が利用しようとしたものであることが分かります。北の日本における工作能力から見て罠を仕掛けるのには、そんなに難しいことではありません。

例えば、6月15日に「日朝国交正常化推進議員連盟」が休眠から活動を再開したそうです。今更3代目への世襲独裁と「国交正常化」を云々する人間を私は軽蔑しますが、会長に衛藤征士郎(衆院副議長)、会長代行に額賀福志郎(日韓議連幹事長)などと日韓議連のメンバーが同時に日朝国交推進派に登場し、特に、役員の面々を見て違和感を覚えます。どうせ「理念」どころかそもそも「概念」も無い政治家たちですから諦めますが、「北人権国際議員連盟」の共同議長のはずの中川正春先生が副会長の一人として名前を連ねているのには驚きました。今まで脱北者や北の人権を云々してきたのは何だったのかと思う人は私だけでないはずです。

自民党の先生方が多数参加したのを見るとやはり平壌や朝総聯の対日工作の年輪が分りますね。

 

なぜ菅首相を追い詰めないのか

佐藤 拉致議連は調査委員会を立ち上げ、菅直人氏のカネの流れを調査することを決めたようですが、是非とも真相を糾して欲しいものです。金正日はカネがなくなり「敵の武器を奪って敵を倒す」というパルチザン(ゲリラ)戦法に戻ったのかも知れません。それにしても政治家の無知ほど恐いものはありません。

菅直人氏のカンパ問題で、野党議員がいろいろ追求しました。私がテレビで見た限り、菅直人氏が金正日政権を独裁政権と捉えているのかどうかを糾した議員はいませんでした。菅首相は、韓国の朴正熙政権が軍事ファッショだと称して日本人拉致実行犯辛光洙らの釈放を求めたのです。この言動は日本人を拉致した金日成・金正日政権への動かすことの出来ない加担、擁護に他なりません。菅氏の左翼思想の欺瞞性、売国的言動をなぜ暴露しなかったのでしょう。そもそも菅首相は、日本人を拉致した政権をテロ政権と捉えているのかどうか。また、なぜかくも長きに亘って拉致を解決できないでいるのか。その理由を聞き糾し、首相を追い詰めるべきなのに、それをしませんでした。なぜ追い詰めることが出来なかったのか。運動を進めている側の不勉強さは言うまでもありませんが、何よりも運動関係者から怒りが感じられません。感じられるのは運動のプロ化とマンネリ化です。

そもそもこの時期に、何のための家族会や「救う会」、議連の訪米なのか。アメリカに行く前に、同じメンバーで、各県の知事や県議会議長に会って国内での運動を組織すべきです。自分たちのやるべきことをやらないで、アメリカの国会議員に救出を要請するなど本末転倒も甚だしい話です。だから拉致は解決しないし、国民の支持が得られなくなっているのです。

 

問題意識の曖昧な日韓

 日本社会の大半は、全体主義独裁体制との戦いの本質が分っていない。戦いの相手も目標も判然としていません。これでは戦いになりません。現に日本側の面子の立つ何人かの拉致被害者を取り戻したら3代目の独裁体制と国交も正常化し、巨額の支援もする、と多くの政治家などが言っているではありませんか。

日本の政治もレベルが落ちましたね。いや落ちたと言うより基準がなくなった。親北極左勢力との癒着疑惑の菅総理の場合も、多分総理を辞めることで追及を止めるでしょう。後継政権の行方にばかり関心を持つでしょう。

金正日を悪と捉えることができない。問題意識が無いから無能な権力を追及できないのです。仮に、いくら攻撃の材料が溢れても無理でしょう。非正常の日常化が進むと、反逆もどうでもいいようなことになります。

もっともこの最後の部分は韓国社会、李明博政権やハンナラ党へ向けて言うべきことでもあります。

更新日:2022年6月24日