稚拙で卑屈な菅内閣の対中外交

対談 洪熒・佐藤勝巳

(2010.11.24) 

 

激動の2012年!

佐藤 2012年には、米、韓国、ロシアで大統領選挙が行なわれ、中国では習近平が国家首席に就任(予定)します。北朝鮮では金正恩が後継者として現われ、2012年には「強盛大国」になると、最近連日報道されているように核ミサイルの増強に-奔走しています。東アジアでは、新しい秩序構築への模索や衝突が本格化しているなかで、特に危険極まりない独裁「金氏王朝」を支え利用している中国の膨張と覇権追求が際立ってきています。

中国は、尖閣諸島をはじめフィリピン、ベトナム、その他陸続きの国とも領土紛争を起こしています。これが今後日本や韓国にとって何を意味するのか、対中国政策が、ますます重要な問題となって浮かび上がってきています。

 

アメリカの覇権に挑戦  

 新しい秩序の構築においての最大の障害は中国の攻撃性です。国の戦略や政策の樹立において、韓国や日本、アメリカは民主主義国家ですから、「平和」を望む「民意」を無視できません。ところが、中国は一党独裁体制ですから国民の意思など関係なく、いや世論を操作しながら戦略や政策を推進するのが容易です。中国は深刻な矛盾を抱えながらも、経済力をつけてきました。中国共産党は膨れ上がった経済力を最優先的に軍事力に転換させつつ、韓国戦争(朝鮮戦争)停戦以降のアジアの現状、そしてアメリカの覇権に公然と挑戦し出したというのが現実です。

 

尖閣の地下資源

佐藤 また中国側は、資源の確保のためなら軍事力の使用も躊躇しないという攻撃姿勢を露骨にしています。今回の尖閣問題も、日本のメディアは報道を自粛していますが、相当量の石油が埋蔵されているといわれる尖閣諸島周辺を狙っての行動であると思います。中国は1993年から石油の輸入国になり、2000年代に入り穀物も輸入するようになりました。13億の人達を食わせていくのになりふりかまっておれない、という背景もあると思います。

 

「社会帝国主義」の帝国主義への復讐

 中国の行動には、イギリスとのアヘン戦争(1840~1842年)以来、列強の貪欲の対象にされてきた屈辱の歴史を、国力が強くなった今こそ晴らすべし、つまり、かつての帝国主義国に対する報復という感情が根底にあると言われています。

 それで、中国は現状打破を目指し、自己中心に歴史の書き替えに出ました。中国の次期指導者と言われる習近平副主席は、11月25日、韓国戦争を「平和を守り、侵略に立ち向かった正義の戦争」だったと言いました。もっとも、中国側は2008年李明博大統領の訪中に際し、「韓米同盟は冷戦の遺物だ」とまで言ったのです。

 

憲法の不備が侵略に道開く

佐藤 本ネット「情報の陰蔽はビデオ流出より何百倍も悪質だ」(2010年11月8日)で書いたように、「支配・被支配」は言うまでもなく、国家関係は力関係によって決まっていくのです。そういう問題意識から言うと、超観念論である日本国憲法の前文並びに9条が改正されない限り、中国は日本から反撃される心配はありません。安心して尖閣諸島に侵入する可能性が高いです。非武装の漁船が武装した巡視船に安心して体当たりしていた今回の映像が証明しています。金正日もまた、余裕を持って「日本人拉致は解決済み」とうそぶくのです。日本にとってこれほどの屈辱はないのですが、その自覚が、政権担当者にも国民にあるかどうかが一番問題なところです。

 

メディアの自主規制?

 日本はアジアでー番先進社会ですが、安保問題に関する意識面では果たして大丈夫なのかという気がします。というのは、国力動員において最も重要な要素である国民意識の結集が難しそうだからです。普通の人々にとって、身のまわりの生活が大切なのは当然ですが、大衆への情報を牛耳るメディアのニュースの中身が、いくら商業主義と言っても、殺人とか放火など犯罪や事件が中心のような気がします。日常の些細な問題や知らなくても構わないような事件などで、結果的に、安全保障と関係のあるニュースを隅に追いやっています。どう考えてもバランスを欠いています。

 中国に対して遠慮するのは、政府だけでなくマスコミにもあるのでは、という印象を受けます。もしかしたら、見えない自主規制でもあるのかな、と思われるほどです。政府であれメディアであれ、市民の健全な自覚を育てるのが彼らの仕事ではないのでしょうか。

 

卑屈な菅内閣

佐藤 65年間も「平和」が続くと、こんなことになるのでしょう。尖閣問題の国会論議を聞いていても、尖閣事件は「第二の黒船」というより、中国が日本の領土を奪いに来たと捉えるべきもので、日本が直面している安保問題の核心です。ところが安保問題であるという認識を欠如しているから、手続き問題に終始し、刑事訴訟法何条に当たるがどうかなど、ずれた論議が見られます。与野党とも尖閣事件の本質を理解していないのではないか、という印象を強く受けました。 

 また、恥ずかしいと思ったのは菅首相の態度です。 11月14日横浜で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に胡錦濤が参加することが分かるや、菅首相は胡錦濤に会いたいと申し入れ、中国側は直前まで返答を保留しました。そのときの菅首相の慌てふためいている様子が刻一刻報道されました。抗議と謝罪を求めるのならともかく、日本の領土を侵略しようとしている国のトップに、辞を低くして会わなければならない理由はない。会談しなくて困るのは胡錦濤のはずです。そうした見識とプライドがあれば、あのような卑屈な態度にはならなかったはずです。首脳会談のときメモを見ながらおどおどした菅首相の態度は正視できませんでした。あれが恥ずかしいと思わない菅直人なる政治家は駄目です。

 会談は、たった22分間(通訳が入るので実質11分)でした。具体的に何が話し合われたのかさえ不明です。菅内閣は、中国漁船が巡視船に体当たりをしたビデオも未だに公表せず、胡錦濤との会談の中身も国民に教えません。加えて閣僚の失言、辞任、そして妄言。政権担当能力の欠如が日々明らかになっています。それにしも国民はなぜこんな政党に投票したのか。深刻な反省が求められています。

 

予測可能なのだが

 天気予報は過去のデータを活かして予報します。外交や政治においても、革命的な場合でさえも、科学的な予測や判断を可能にする多くのデータがあります。このような科学的な姿勢が危機管理の出発点でしょう。

 私は今度の尖閣諸島での衝突映像をなぜ公開しないのか理解し難いです。そもそも、そういうものを秘密にすべきなのか、一体何時まで隠せたのかが疑問です。映像を公開せず得られる、あるいは期待する利益と、堂々と公開して得られる政府への信頼を比較して見たのでしょうか。

 

佐藤 民主党政権の外交は普天間も、尖閣も話になりません。中国の攻撃にどう対処するのかは、日本の将来、国民の意識や士気に影響する焦眉の課題となっています。日本の製品の輸出・投資先などを中国から、戦略的に転換すべきときです。日本の領土が直接脅かされても人質のため反撃し難くなります。 安保環境を急遽整備すべきです。

 日米安保条約第5条でアメリカが日本を守ってくるかのような幻想がありますが、自分の領土を護る自覚も覚悟もない国を、同盟国アメリカが護ってくれるはずがありません。甘い幻想は早く捨てるべきです。この一点だけでも、民主党に政権担当させておくことは危険です。

 

 中国は軍事力で直接周辺を脅かすだけでなく、帝国主義中国の尖兵として失敗国家の「金氏王朝」も利用しています。「金氏王朝」も、中国を背景にして核の暴走を止めようとしません。いや、2006年の北の核実験からの歴史を見れば分かるように止められません。

 中国の覇権主義に加えて、金正日の核の脅威にさらされている日本と韓国は、賢く勇敢な対応が求められています。平壌側は、金正恩への世襲を含め、今の暴圧体制が続く限り、哨戒艦撃沈、延坪島攻撃など凶暴な独裁政権の本性を露わにしています。中国が金正日の核武装暴走を許し彼らの尖兵として利用する以上、北の核問題への対応も、結局中国共産党の覇権に対応する課題に帰結します。韓国と日本は、自由と法治、人権という価値を中心に、米国との同盟を強化しながら、アジア・太平洋地域の国々と連帯するしかありません。

 また、韓日両国の政治指導者たちは、新しい連帯・同盟の強化の前に、まず、「南北首脳会談」のような平壌側の撹乱戦略・戦術に騙されてはなりません。

更新日:2022年6月24日