中道路線が破れた、韓国地方選挙

対談・洪熒・佐藤

(2010. 6.15)

 

佐藤 6月2日、韓国で地方選挙の投票が行なわれました。北の魚雷攻撃による哨戒艦撃沈の調査結果発表された2週間後でしたから、北に近い民主党系候補は全滅するのではないかと思って見ていました。ところが意外や意外、ハンナラ党が苦戦した。結果、知事・ソウル市長など15人のうち、ハンナラ党6人、民主党7人、自由先進党1人、無所属2人が当選しました。一体選挙で何が起きたのか、聞かせて下さい。

 

親北左翼が問題をすり替え

 投票日の1週間前にソウルに行き、投票日に帰ってきたので、ソウルで選挙戦を観察できました。撃沈された天安艦の調査結果を5月20日、24日に李明博大統領が国民に談話で発表しました。あの談話の内容は、北が再び類似の侵略を行なったら「断固反撃する」という、威勢のいい極めて常識的なものでした。

 あのまま行けば、地方選挙は与党ハンナラ党が大勝するという雰囲気でした。だが、政治は生き物で、アッという間に雰囲気が変ってしまいました。つまり、天安艦沈没の当初から北を庇護してきた民主党など親北左翼は、「天安」を轟沈させたのが北側の重魚雷であることが証明されるや、慌てて、李明博大統領やハンナラ党の対北「強硬路線」で行ったなら「戦争が起きる」「戦争か平和かの戦いだ」と選挙の争点をすり替えてきました。

 絶対に有利な戦いでも決定的な勝利の瞬間に攻勢を緩めれば敗北する。という常識を再確認させられました。

 

佐藤 5月29、30日に済州島で韓、日、中3国の首脳会談が開催されました。平壌はそれに狙いをあわせて24日の李明博発言を糾弾する10万人の抗議集会を30日平壌で開き、「戦争も辞さず」と声高に叫んでいました。韓国の左翼(金正日に従う勢力)は、北と打ち合わせて、そして中国共産党も巻き込んで「戦争か平和か」という戦術転換を図ったのでしょうね。

 

若者の半分が政府を信用せず

 哨戒艦に対する政府発表があった直後の世論調査で、多少の誤差がありますが、約25%が政府の発表を信用しない、という反応でした。若者では約半分が信用しない、という数字でした。多分、北はそれに着目したのではないかと思います。現在の韓国では、何が何でも李明博政府に反対という勢力が4人に1人います。だから、この25%の扇動に成功すれば、事案によっては2人に1人が政府に反対、あるいは北の肩を持つということになり得るのです。

 5月24日の大統領談話の中で、今回の平壌側の侵略行為に対して韓国独自の制裁や国連などで協力して北へ圧力を加える、と色々言及したのですが、肝腎の韓国内の金正日への追従勢力をどうするのかについて言及がありませんでした。実際何もしませんでした。

 

海外にデマ宣伝

佐藤 韓国では、〝アメリカの潜水艦が韓国哨戒艦を撃沈したのだ〟という出鱈目な情報を英文で世界中に発信していたそうですね。私の知り合いの新聞記者は、社内では韓国語より英語を読める記者の方が圧倒的に多いから、英文の出鱈目な情報を信用する仲間が多いと言っていました。これは北がいつもやる手口なのですが、哨戒艦は間違いなく北が撃沈したということを、韓国内に周知徹底されていれば何も恐れることはありません。しかし若い人たちの半分が、政府発表を信用しないというのは、深刻ですね。

 

内部の敵との戦いを軽視

 そうなのです。韓国内部の敵、つまり平壌への追従勢力が英文で世界にデマ情報を流しているのですが、この連中を押さえなくては、韓国の安全は守られません。

 もっとも、「従北左翼」より問題なのは「中道勢力」です。ハンナラ党を含むいわゆる「中道勢力」は親北・反逆勢力と戦おうとしません。彼ら(中道)は、嘘や悪や独裁に対して怒りません。そういう病んだ価値観をもった中道論者や奸臣、左翼らがあらゆる権力を押さえています。

 核武装をした金正日が停戦協定を事実上破棄したから、戦争に対処できる体制を固める必要があるのに、それをやっていません。その結果、左派に巻き返される隙を作ってしまったのです。

 艦長が「敵の魚雷にやられた」と報告しても、それを大統領にもマスコミにも伝えず、北の犯行隠しに手を貸した青瓦台の安保・広報ラインを李大統領は一人も辞めさせていません。

 

佐藤 大統領府の安保ラインにまで北のシンパを抱えていること自体が考えられないことです。李明博大統領は24日にあれだけ原則を明らかにしたのですから、当然、「軍を信用するな」と言ったスタッフは更迭すべきです。李大統領の中道路線の限界なのでしようか。

 

 従北左派から「戦争勢力」と攻撃がかけられると、李大統領は投票2日前の5月31日「中道実用の基調に変わりはない」と発言しました。哨戒艦を奇襲したのは北です。戦争勢力が北であることは明白です。何が中道なのか。なぜ断固として反撃しないのか。保守勢力は李明博大統領の姿勢を降伏路線と見なし、支持を撤回した、だから選挙に負けたのです。まったく話にならない。 

 

安保に対する曖昧な態度が敗北を招いた

佐藤 李明博大統領は制裁の一つとして、軍事分界線で対北放送を再開する、と言っていました。北は、それに対して武力で放送施設を攻撃すると言っていましたが、放送を始めたのでしょうか。

 

 昔あった拡声器など施設は取り外しましたから、新しく施設作業が必要です。それには一定の時間がかかるということを、事実通り言えばよいのに、それを言わないから、脅されて中止したかのような印象を与えてしまった。とにかく、投票1週間ほど前から、左派の扇動・心理戦攻勢に完全に押されて流れが変わってしまいました。

 

選挙に負けたのは中道で、保守ではない

 今度の地方選挙を通じて「成果」があったとすれば、李明博とハンナラ党の性格・正体が非常にはっきりしたことです。金大中・盧武鉉に繋がる金正日と連帯する従北左派、李明博とハンナラ党のようないわゆる中道派はあるが、健全な常識人、つまり愛国・保守勢力を代弁する政党がないことが明らかになったことでした。

 趙甲済氏に代表される韓国の愛国・保守、常識人の声に、ハンナラ党はまったく耳を傾けようとしませんでした。今回の選挙は、中道勢力が左派に敗れたのであって、保守が敗れたのではありません。愛国勢力は、韓国社会の健全な常識人を代弁できる、安保と統一を目指す保守政党を持つべきだと痛感しました。

 

佐藤 そのほか今回の選挙を総括すれば……。

 

 今回の選挙で盧武鉉路線の継承を誓った李光宰(江原)や安煕正(忠南)や宋永吉(仁川)など「主体思想派」の「486世代」が復活したこと、そして、人口の半分を占める首都圏の教育長を北に近い全教組系に取られたことは、李明博政権2年間が真の政権交替でなかったことを、さらに2012年の大統領選挙の前哨戦が始まったことを物語っています。

 特に、江原道知事に当選した李光宰の場合は、彼自身や彼を公認した民主党も破廉恥ですが、兵役忌避や政治資金法違反の候補を選択した有権者も責任を免れません。

 ポピュリズムや宣伝扇動に弱い愚かな有権者を覚醒させねばならないのに、小学校から高校までの教育を掌握するのが教育長です。それが左翼に握られたのは痛かったです。

 地方選挙で「従北勢力」が威勢をふるい、そして保守には陣地がないことが分かったことで、愛国保守勢力を奮発させる契機になったのではないかと思います。

 

佐藤 大統領選挙まで約2年となりました。ゆるぎない理念を持った保守党の創出を期待しています。

更新日:2022年6月24日