対談・自滅する金正日を助けるな(下)

洪熒・佐藤勝巳

(2010. 1.20)

 

制裁の効果

佐藤 北の経済が破綻(はたん)した要因は、社会主義経済自身のもつ矛盾に加えて、3つのことが考えられます。①経済の拡大再生産を阻害する核とミサイルの開発に資源を費やしたこと。②金正日一族を頂点とするごく一部特権階層の栄耀栄華のため多額の資金を消費し続けていること。③海と空から国際的制裁が強化され、北朝鮮の武器輸出がうまくいかずに収入が減少していること(09年6月、北の貨物船が米第七艦隊に追跡され、ミャンマーに行けず、北に追い返されている。また同年12月11日にも航空機を使っての武器輸出をタイで阻止されている)です。

 

 北朝鮮のインフレを解決するには、貿易で消費財などを大量に輸入するか、生産することです。そうすれば物価はたちどころに安定します。しかし、そのいずれも外貨不足で実現できないでいるから矛盾が先鋭化してきたのです。 

 

 北は、一方では「市場資本」の撲滅作戦をやり、他方では「貨幣改革」 (100分の1に切り下げた) 後、労働者の賃金は旧通貨と同じ額を支払っています。これは勤労者などの支持を得るために給料を新100倍に上げたことになります。しかし、物の供給が増えないところで、こんな滅茶苦茶なことをやれば、経済の法則として物価はあっという間に100倍に跳ね上がります。結局、「交換(改革)」前の状況になって、100倍になった月給でも米は3kg 前後しか買えなくなります。

 

 北の住民にとって、配給はない、市場はないということになれば、300万人の餓死者を出した15年前の再来ということになります。北の住民は、生存のためあらゆる手を使って市場を復活させるでしょう。だから興南など一部地域で、住民と当局の衝突があったとの報道も流れていますが、矛盾が益々深刻化し、金正日と人民の衝突が起きると思います。

 ハイパーインフレは歴史的に敗戦国家で現れる特徴ですが、北で今ハイパーインフレの方へ進行するということは、まさに人民と金正日が戦争中であることの現われだと言えるのかも知れません。

 

佐藤 金正日にとって、物を確保し供給を拡大する方法は、現時点では外部から支援を得るか、騙し取るしかありません。これまでも金正日は、アメリカを騙し400万トン近くの重油を、6者協議では5者から55万トンの重油などをタダでせしめてきました。韓国外交通商部がまとめた資料によると、日韓米3国が北の「非核化」のため使った(タダ取りされた)費用は約22億1000万ドル、日本円にして2007億円だと言われています(09年10月5日付読売新聞)。このほかにも金正日政権は、金大中・盧武鉉政権を篭絡して莫大な食糧や肥料、カネなどを騙し取り、核ミサイル開発などを行なってきました。

 

 この1年間金正日は、朝鮮戦争の「停戦協定」を「平和協定」に変えようとオバマ政権に求め続けてきました。しかしこの要求は、核を保有したまま金王朝の独裁体制を保障させるという謀略以外の何物でもありません。国際社会は、人民を食べさせることより核兵器にこだわる金正日政権をこれ以上助けるべきではありません。

 

 原爆保有やウランの濃縮を宣言した金正日に対して、「6者協議」はもはや持続の意味がなくなったはずです。「非核化」を論議している最中に金正日には2度も核実験されたにも拘わらず、米・中は北に対して「6者協議」への参加を呼びかけています。われわれは現実を直視し、もっと利口にならなければなりません。自国民の生存権を否定、破壊する金正日に何を期待するのか。弥縫策で問題の先送りを繰り返すのは重大な誤りです。

 

 昨年10月10日に温家宝中国首相、11月22日には梁光烈中国国防相が、12月8日にはボズワース米政府特別代表がピョンヤンを訪問していますが、これは一体何のためなのか。「6者協議」で騙された側が騙した国を訪問するなど、これほど屈辱的で、馬鹿な行為はありません。北と対話をしなくて「5者」が困ることは何もない。関係国が金正日政権に「6者協議に参加したくなったら連絡しなさい」と言って放っておけばよいのです。「先軍政治」よりも、人民は「先金主義」だと戦っているのですから、われわれは人民の「先金主義」を積極的に支援すべきです。北の人民が金正日政権を退場させれば、それが最も望ましいことです。

 

佐藤 米・中は膨大な核戦力を保有しているから、北の核を心配していないと思います。日本と韓国は核を持っていませんから、アメリカに依存せざるをえない。だが、民主党政権は、日本の安全保障や「国益」、東アジアの平和と安定についてまるで考えていないのではないか。鳩山内閣は「米軍は沖縄から出て行け」と社民党と共闘し、民主党幹事長は600余名を引き連れて、北京詣でをしています。

 

拉致を党利党略に使ってはならない

佐藤 金正日政権は、拉致した人間を若干名帰すから「いくら出せ」という話を水面下で民主党連立政権にしているのではないかと私は推定しています。小沢氏は「拉致解決より日朝改善が先」(本ネット09年11月13日参照)と公然と発言していますが、若干名でも帰ってくれば、7月の参議院選挙に有利と読んでいると思われます。事実、そんな話が霞ヶ関や永田町方面から伝わってきています。

 

 しかし、この話が事実なら、党利党略のために金正日政権の延命に手を貸すことになり、拉致を取引の材料にしようとするとんでもない犯罪です。だが、「救う会」も家族会も、この小沢・鳩山政権に対してなんの動きも示していません。家族会の一部には、拉致解決に小沢氏の「豪腕」を期待する、と公然と発言している人もいます。まさか、これが家族会・「救う会」の総意とは思えないのだが……。なぜ戦わないのか、理解できない。

 

 自滅する野蛮な独裁体制を救うのは愚かなことです。いや、2000万人の生存権を奪い、虐待し続ける者に手を貸すのは反文明的犯罪です。北で悪の暴政に抵抗する自由の芽を摘み、また夥しい餓死者を生む事態を助長する行為は赦せません。今自滅する金正日を助ける者は、韓半島の南北7000万人の仇になります。

 われわれ自由世界が目指すべき価値は、個人の自由と安全の拡大です。日本は、植民地35年よりもっとひどい65年間の圧制に苦しんでいる北の2000万人を解放する自由民主の韓国を支援することが、これこそ真の「友愛外交」ではないかと言いたいです。

 

傲岸不遜の小沢氏を許してはならない

佐藤 鳩山首相の優柔不断、軽佻浮薄な発言の数々から、彼は指導者としての資質が欠けていることは疑いありません。そして小沢氏ですが、彼の秘書3人が逮捕され、小沢氏にまつわるカネが問題になっています。確かにこれは大問題ですが、もっと重大なのは、彼の安保認識や独裁体質、票になるなら国益も売り渡しかねない危険な思想と人間性です。秘書の1人が自殺する危険性が取りざたされているとき、小沢氏は「またまたお騒がせし、すみません」と笑顔で講演をして回っているからです。もうひとつ不気味なのは、小沢氏が「検察と断固戦う」と16日の党大会でうそぶいたとき、会場から嵐のような拍手が起きたことです。

 自浄能力なき民主党に期待できない以上、有権者は、民主主義の選挙制度を巧みに利用して独裁権力を構築し、大衆を扇動して法治に挑戦する政治家の存在を、断じて許してはなりません。また、自国民を平気で虐殺する独裁者と汚い裏取引や庇護する政治家を、国の指導者に留めておくことは出来ません。

 健康で活気あふれる、異なる文化を持つ国々からも憧れられる日本を回復するため、日本の良き伝統を守ってきた有志たちがいまこそ行動に立ち上がる時だと思います。

更新日:2022年6月24日