大衆迎合の民主党政権を糾す

洪熒・佐藤勝巳

(2009.12.28)

 

ポスト金正日

佐藤 今年は金正日政権が中距離弾道ミサイルを太平洋に発射し(4月)、引き続き核実験(5月)をした。8月には突然南北対話を提案し、他方、国内では「150日戦闘」などの労働強化を進め、突然、11月30日「通貨改革」を強行した。これはいきなり市場に原爆投下したようなもので、多くの住民の生存権を奪った。 北の言動の背後に何があったと見ていますか。

 一連の挑発から感じられるのは神経質的な焦燥感、その焦りには金正日の健康問題があったと思います。平壌の極めてわずかな核心メンバーのみが知っている情報といわれていますが、金正日は脳梗塞などで今年の春までに3回倒れたそうです。それで核心メンバーは金正日の寿命は長くて2、3年と予測したという情報があります。急いで体制固めの現われが、ミサイルや核実験でアメリカの関心を引こうとした見るべきです。

 金正日勢力が、権力承継、体制維持の最大の抵抗勢力、振興市場勢力を抑えることに失敗した。「通貨改革」は、その市場勢力破壊に出たものと見るのが妥当でしょう。

佐藤 金正日が元気になるに従って、金ジョンウンの名前が消えていったことは関係者周知の事実です。権力継承の問題は大変デリケートの問題で、金正日が父金日成から権力を継承するとき、金日成は権力を離したくない。金正日は早く手にしたい、という確執が見え隠れしていました。金正日が元気になるとジョンウンの名前が出なくなるのは金正日が気に入らない顔をしたと言う事情があったのではないかと推定しています。

洪 北は金大中元大統領の葬儀に弔問団をソウルへ送ってきました。様々な動きがあったようですが、頂上会談の可能性を探った南北間の水面下の交渉が結局物別れに終わり、11月末の「通貨改革」で、韓国民は普通の人でも金正日の医学的退場が「北の緊急事態」に発展するかも知れない。それも遠くない、という認識を持つようになった。皆がポスト、キンム・ジョンイルを考え始めるようになったことが南北関係で今年の重大な変化の一つと言えます。

 

反韓・左翼政権

佐藤 今年日本における最大の出来事は、総選挙によって自民党から民主党に政権が交代したことです。保守派の韓国人から見て、鳩山政権はどんなふうに映っていますか。

洪 韓国のほとんどのメディアが、民主党連立政権の出帆に当り、非常に皮相な報道をしました。鳩山由紀夫総理は靖国神社参拝には行かない。友愛外交と言っているし、奥さんは韓国人の何とか言う俳優が好きだし、韓国料理も好んでいる。したがって鳩山政権は親韓政権と言う見方が支配的でした。だが、こういう浅薄な見方は困る。 金正日が側に寿司職人を置いて好んで寿司を口にし、日本映画も良く見るから金正日は親日と言えるのか。 

 鳩山連立政権を見ると盧武鉉政権を思い出します。盧武鉉政権の特徴は、法治無視、ポピュリズム、偽善的観念論、(韓国の成功的成就の)歴史の全否定、(反米・親北の)安保軽視などですが、民主党連立政権はこれらを真似しているのではないかと思われるほどです。

 今、日米で最大の問題になっている沖縄県普天間基地の移設問題ですが、沖縄の米軍基地は、日本の防衛を超えた、共産主義の脅威から自由主義陣営の安全を保障する砦であり、テロリズムや暴力的事態などに対処するための基地です。その砦を鳩山内閣はグアムなどに移転させると主張している。北京やピョンヤンが喜ばないはずがありません。

保守の立場から見れば、韓国の安保などは眼中にない、中国、北朝鮮に甘く、アメリカから離れる反韓的・左派政権だ。ポスト金正日という歴史的変革期に韓国、米国、日本の共同歩調は今後取れなくなるのではないかと危機感を持って見守っています。

 

親中・反米政権

佐藤   民主党を支配しているのは小沢一郎幹事長ですが、普天間をめぐって緊張している最中の12月10日、小沢氏は643名を引きつれ、北京を訪問した。唖然としたと言うより、北京と握手し、アメリカへの挑戦状を突きつけた行為以外の何ものでもありません。本ネットでも書いたが、中国は共産党が権力を握っている共産党独裁国家だ。国民の一切の自由、人権を奪っている民主主義の敵だ。その敵のトップと143人の民主党の国会議員一人ひとりに握手をさせた。

 日本に帰ってきて小沢氏は、中国習近平国家副主席を天皇陛下にあわせろ、と宮内庁長官を罵倒した。民主党国会議員の握手と習副主席の天皇陛下との面会が、バターだったのではないかと誰だって疑う。そうなると小沢氏の言動は、国家の利益は言うまでもなく、民主党の利益でもなく、小沢氏個人の利益のために天皇陛下を利用したことになります。 

 自民党についは後で触れるが、民主党内から異論らしき異論が聞かれない。情けない、この国は完全に知性もエネルギーを喪失してしまっています。

洪 小沢さんは「国連中心主義」とか、第七艦隊があれば米軍基地は要らないとか、言っているが、国連が日本を守ってくれるのか。鳩山さんはつい先日まで「駐留なき安保」などといっていた人です。彼らの頭の中には、中国と金正日政権の核とミサイルがどこを向いているのか。安保に対しても観念論ばかりで責任意識が感じられません。この連立政権の歴史や安保に対する認識は、日教組の認識ではないか。 今、彼等が普天間でやろうとしていることは中・朝への武装解除だ。恐ろしい事態の進行である。鳩山政権の友愛は中国に対しての友愛であって、韓国に対しては反韓政権だ。

 

金銭感覚を疑う

佐藤 なぜこんな政権が出現したかと言えば有権者が選んだからです。国民の眼力が、政治水準が最大の問題ですね。有権者がしっかりしていたらこんなことにはならない。12月24日鳩山氏の秘書が政治資金の虚偽記載で起訴された。それに対して鳩山氏は記者会見をしたのですが、母親が12億円数千万円贈与していたことを全く知らなかった。 今度分ったので贈与税6億円払います。世間の皆様ご批判もあるかと思いますが、ご理解ください。企業献金などと違って、親から貰ったお金で利益など得ておりません。他の政治家とはちがいます。秘書が起訴されても責任を取る必要はありません。だから、国民の要望に応えるために首相をつづけます、という趣旨のものであった。 

 日本がいかに豊で、鳩山家がカネ持ちでも、親と子の間で12億数千万円の贈与を子どもが知らなかったのが本当なら、こういう金銭感覚の政治家を総理大臣にしてはならない。こんな馬鹿な話はありえないことです。

 

「国策捜査」

私が一番腹を立てているのは、東京地検特捜部に対してである。鳩山由紀夫氏と母親の双方が、言っていることが本当かウソか、なぜ直接事情聴取をしなかったのか。今後、東京地検特捜部は誰に対しても12億円程度の贈与は、事情聴取せず、上申書で済ますのだろうか。

 鳩山氏は、小沢一郎氏の秘書が西松建設から政治献金違反容疑で逮捕されたとき、民主党幹事長として「国策捜査」だと検察を批判したことは記憶に新しいことです。今度の検察の対応は鳩山氏を「捜査をしない」と言う「国策捜査」ではないのか。明らかに法の前の平等に反する疑い濃厚な行為です。法治国家としては到底見過ごすことは出来ない行為で、通常国会で徹底的に追求すべきであることです。

洪 そもそもポピュリズム政治は、権力者や有権者の知力・判断力を落とし麻痺させます。日本の有権者も大きな嘘ほど騙され易いようです。民主党は無駄をなくすと主張しきましたが、高い給料をあげる公務員たちを敵のように取扱い、仕事をさせないこれ以上の無駄はないと思います。庶民の金銭感覚からすれば、税金で給料を払う役人をまともに仕事させられない政権こそ最も無駄を生み出す政権のはずですが。

 「法治」は民主主義制度の根幹です。法の適用を政治的に、恣意的に運用し始めると法治や秩序の維持は不可能になります。李明博政府の最大課題もまさに法治の確立でした。だが、李明博大統領は、就任以来、金大中・盧武鉉反逆政権が破壊した憲法価値や法治を回復させようとしていません。彼は憲法が自分に命令する大統領としての歴史的責務より、目に見える治績作りに夢中のように見えます。

 

安全は空気ではない

佐藤 先ほど、沖縄の基地は日本を含むアジア全体の安全保障のカナメであると言う指摘がありましたが、 恥ずかしい話であるが、日本国民が選挙のとき自国の安全保障を考えて投票したことがあるのだろうか。 多くの国民はわが国の安全は空気のように自然に存在していると思っています。この瞬間もそうです。  

 こんな贅沢な生活を維持出来るのは湾岸諸国からの石油が安全に輸送されてきているからです。あの長いいシーラインを誰が守っているのが。極東からインド洋までを常時カバーしている米第七艦隊です。わが国は今まで、国際テロや海賊と戦っている諸外国の艦艇にインド洋上で海上自衛隊が補給活動行なってきました。民主党政権はそれを来年1月で打ち切ります。沖縄から米軍基地を県外や国外に移すなどと鳩山首相はいまだ口にしていす。民主党は正気かと言いたい。

 シーラインが絶たれたら全国民の生活は破綻する。本当に国民の生活を守ろうとするなら、日米同盟の強化以外にないのでず。民主党政権を出現させた国民は自分の手で自分の首を占める愚行を行なったのです。 選挙民はこの100日間の民主党政権を見て、選択が誤っていたことを深刻に反省する必要がある、と思っています。

 私は日本がインド洋に進出できた歴史的な折角の「既定事実」をいとも簡単に放棄するのを見て驚きました。それも給油活動の中止のため年間15倍近くのお金を払ってまでしてね。日本の海上自衛隊が将来インド洋へ出ようとする時、国際社会から自動的に支持が得られ感謝されるという保証はあるでしょうか。民主党を支持した有権者にはそういう認識や反省はあるのですか。

佐藤 あることを期待していますが、寡聞にして知りません。高い授業料を払ってただ今勉強中と考えています。 

 

金正日と小沢一郎氏の類似性

 小沢幹事長は民主党所属議員に向かって、事実上政府提出法案以外に議員立法はするな、と指示を出したと言われています。が、国会議員は所属政党の党員である同時に、国民から負託された立法機関のメンバーです。憲法も改正できる権限を与えられている。それなのに一政党の幹事長が、議員立法活動を制限することがあり得るのか。さらに驚くのは党内からも、マスコミから反論も批判も上がっていません。北韓では憲法の上に労働党の規約があって、その上に独裁者の「お言葉」があるのを連想させる。外国人から見ていると恐ろしい現象です。

佐藤 小沢氏の例の天皇陛下への「面会強要事件」もそうだし、今話のあった件も本質において個人独裁の極めて危険な傾向であり、要注意です。

洪  今ひとつ民主党は政治優先とか、政治家が官僚を支配すべし、と言っているが、これも可笑しい。憲法は、内閣や国会や他の憲法機関も官僚と同様に法律によって国家と国民に奉仕するとあって、政治家と官僚は支配関係とは規定していません。アジアで一番長い民主主義の歴史を持つ日本で、こういうことがなぜ問題にならないのか。私の目には不気味に写っています。理解できません。

 先ほど佐藤さんが検察を批判されましたが、実は、李明博大統領もおなじことやっているのです。李大統領は12月23日、金大中・盧武鉉時代の左派人士を大挙参加させた「社会統合委員会」を発足させました。「社会の統合」を、法治の確立でなく、政治的妥協を通じて接近することは明らかに間違いで、典型的なポピュリズム的発想です。法治の「反対」がポピュリズムだから、ポピュリズムを通じての法治の確立は期待できません。委員会を作るとしたら、「順法委員会」です。

 李明博大統領やハンナラ党は、左派(金大中・盧武鉉勢力)との「中道左派連立」路線、つまり「社会統合」で来年の地方選挙などに臨もうとするようですが、憲法と法治を無視してきた親北・左翼勢力との提携は、社会統合でなく自由民主主義と法治を危うくするだけです。

 

人間性の破壊

佐藤 政権交代で、日本人のもつ弱さの側面が顕在化してきたと見ている。長い間日本を支えてきた価値基準やシステムが揺らぎ崩れだしています。

 外から見れば、有権者は民主党を支持して政権を取らせたというよりは、自民党を戒めるために民主党に投票した。それと民主党がポピュリズム(大衆迎合)で子ども手当てなどバラまきの約束をやった。 確かに所得で格差が広がり、将来への不安が広がったところに、その全ての責任を自民党や官僚に負わせるのに成功した結果と私は見ている。

佐藤 問題は不安をどう解決するかと言うことです。民主党は「コンクリートから人」にカネを使うと主張し、それらしき予算を編成したが、国民にカネをばら撒けば票は集まる。しかし、困難に直面したとき自分力で解決していく、国が危機に直面したときは、国民が団結して困難打開に当る。これが個人にとっても、国家にとってもっとも大切な原点です。民主党のばら撒きはこれをスポイルしてしまうのです。子ども手当てを支給したら本当に少子化が防げると思っているのだろうか。

 困ったら政府に(誰かに)文句をいえばよい。自分で努力することを放棄する人間を大量に作りだす政策だ。 社会主義国がなぜ破綻したのか、この人たちは何も勉強していない。 

 民主党の政策は、競争と拡大再生産より平等と分配を強調する、左派ポピュリズムだということを、国民(有権者)は理解し自覚しているのですか。

佐藤 現時点では理解していないと思います。

 それは困ります。今、民主党がやっている政策は、実は、金大中・盧武鉉政権の政策そのものです。民主党幹部の総てではないが、金大中・盧武鉉政権に親しみを持つ人がいます。韓国人の私から見ていると、民主党だけでなく自民党の中にも、人間の主体性を駄目にする韓国の左派とダブって見える人々が少なくありません。

 

認識には課程がある

佐藤 普天間問題は、日本がアメリカと組むのか、中国と組むのか、首相も国民も選択を迫られています。ここで初めてわれわれにとって、本当に誰が味方で、誰が敵か、その手先は誰かが明らかとなっていくはずです。人間には、認識には課程があると見ています。

 ただしこれには条件があって、自民党も含め心ある国民が、左派ポピリズムと戦わなければ勝てません。小沢一郎氏の天皇陛下への「面会強要事件」は憲法違反に当たる。小沢氏に対し国会議員辞任要求の署名運動を展開すべきです。自民党の影が薄い、と言う声がいたるところで聞かれますが、私は、谷垣禎一執行部は保守ではなく、民主党の政策とどこかで通じている中道左派なのか、と考え出しています。 

 12億円余のカネが口座に振り込まれてきているのを知らなかった。そんな首相を辞めさせることが出来ない。憲法に違反し、天皇陛下を支配しようとしている小沢一郎氏を追い詰めることが出来ないようではどうしようもない。戦わない人間、そして戦わない政党に未来はないこと言うまでもありません。

 韓国はもっと深刻な状況です。自国民を大量餓死させながら作った原爆をもって韓半島から自由民主主義を抹殺しようとする独裁者金正日を制圧・除去する覚悟が見えません。南韓の助けを切望している北韓の2000万人の同族を救おうとしません。この恐ろしい無気力や利己主義は、韓国人の精神力を殺ぐため共産主義勢力やその手先になった左派知識人などが行ってきたプロパガンダの結果です。

 最近、ソウルでは、この長い間左派が構築した破滅的精神構造を清算し健康な社会を復元するために右派(真の保守)のプロパガンダ司令部を創設しようとする動きが現れつつあります。常識と無知、知性と反知性、文明と野蛮の戦いです。

佐藤 長時間有難う御座いました。

 

 読者の皆さん、健康で新しいお年をお迎えください。

更新日:2022年6月24日