圧力なしで、拉致解決はあり得ない

拉致議連平沼赳夫会長・「救う会」全国協議会佐藤勝巳会長

(2007.12. 7)

 

佐藤 平沼先生は、拉致議連の会長として、この度訪米団を組織され、団長として米議会、国務省、人権団体など多くの人たちとお会いになり、議員外交を展開されましたが、誠にお疲れ様でした。ご感想は如何でしたか。

平沼会長 ロスレイティネン下院議員(女性)が中心となって12名の下院議員が発起人となり、「テロ国家指定を解除すべきではない」という法案を下院に提出しています。その理由の一つに日本人拉致が全面解決するまでは解除すべきでないということが挙げられている。現在、提案者は28名になっていますが、大変前向きな議員で、われわれはこれからヒル国務次官補に会うと言ったら「自分もヒル氏に会うが日本の議員団からも指定解除反対を強く言って欲しい」と言っていました。

 次に、大統領候補に名前の挙がっている共和党ブラウンバック上院議員に会いました。私から下院だけではなく上院でも法案をお願いしましたといったところ「実は感謝祭が終わったらわれわれは民主党も入れて下院と同じ法案を上院に提出する」と言ってくれました。後で会ったヒル国務次官補に「上院でも法案が出る」と言ったら吃驚していましたね。

佐藤 「救う会」全国協議会ニュースが訪米団の活動をリアルタイムで報道しましたが、なかで、ヒル国務次官補と平沼先生たちとのやり取りが、私にとって一番興味深いものでした。

平沼会長 米国務省は、核の「無能力化」と言っているが、日本にとって最大の脅威は核爆弾とそれの原料となるプルトニウム、そして運搬手段のミサイルだ。それが無能力化に入っていない。到底容認できないというのが第1点。第2点は、米国はテロ支援国家として、シリア、イラン、北朝鮮を指定している。金正日政権は、シリアに核関連の施設などを流しているのに、北朝鮮のみをテロ支援国家指定から外すのは納得できないし、核の拡散を容認することで反対。第3点は、米国は、「テロが6ヶ月なければ指定から外す」と言っているが、日本人拉致は未解決、拉致は現在進行形のテロである。それなのになぜ解除などするのか、日米関係に亀裂が生じる。第4点は、米議会でも反対の動きが高まっていると指摘し、金正日政権に対してテロ支援国家指定解除は絶対容認できないと皆で詰め寄りました。 

 民主党の松原議員は声を荒げて「あなたは交渉の責任者だ。個人的な考えを述べよ」と激しく追及しました。ヒルは 政府の役人ですから「自分には最終決定権はない」と言って終始逃げました。国家安全保障会議、国防総省などの官僚たちは、われわれの話はよく聞きましたが、ヒルと同じように自分たちの意見は一切言わず、「上司に報告する」というものでした。

佐藤 ヒルは先生方の追及した4点に結局答えていないのですが、ヒルとこれだけ突っ込んだ話をした日本人は先生方が初めてでした……。私は大変参考になりました。

平沼会長 実は訪米以前に前段がありました。ライス国務長官の指示であったと思われますが、11月の初め頃、駐日米大使館のドノハン筆頭公使のところにヒル氏の直属のアービチュという部下が来ていて、われわれに会いたいと言ってきた。会って分かったことですが、テロ支援国家指定解除は既定の方針という感じの話をし、議連幹部から賛成の意見を引き出したかったのですね。

 議連は8名参加していたのですが、全員が「冗談ではない」と解除に徹底的に反対の意見を述べたという前哨戦が東京でありました。

佐藤 先生方が筆頭公使にお会いになった10日ほど前でしょうか、10月25日家族会・救う会役員数名も駐日米大使館政治部の1等書記官から会いたいとの連絡をしてきたので会いました。彼の目的は、①テロ支援国家指定解除についてわれわれの意見を聞きたい。②福田首相に何を陳情する(10月26日面会)のかを聞きたいという2点でした。

 多くの時間を使って論議されたことは「無能力化」の中身でした。論議の中で分かったことは米政府が「無能力化」したと判断すれば、テロ支援国家指定を解除する。その場合「拉致は2国間問題であるから、テロ支援国家指定解除の考慮の対象にならない」ということが書記官の口を通じ明らかになったことです。米大使館は、手分けをして日本人関係者に工作をしてきたことが分かりますね。

平沼会長 その1等書記官が議連の古屋事務局長の所にも来て同じことを言っていました。

佐藤 米国務省としては日本関係者を説得して、テロ支援国家指定を解除して金正日と取引したいという意図は明白です。マスメディアの一部には既に「ヒルと金桂寛の間に裏約束がある」と公然と書かれていますね。

平沼会長 そういうこともあって、議連7名、家族会2名、救う会2名の訪米団を組んで、アメリカでは韓国系米国人で北朝鮮に拉致されている金東植牧師さんの奥さんも合流、活動を展開しました。

佐藤 日本人の拉致は、日本の国家・政府が解決するのが当たり前のことですが、安倍晋三政権が出来るまでは、日本政府が独自に何もせず、外国の大統領や首相が来ると日本人拉致救出の「協力を要請する」という信じがたいことが行われてきました。安倍政権になってようやく独自制裁を発動した。

 米国大使館の1等書記官が「拉致は2国間問題だ」というのは正しいのです。 日本が独力で解決すべき問題です。日本がやるべきことをやった上で協力を要請するというのが、常識です。米政府が昨年の秋から、圧力から融和へ方針転換した。 同盟国日本を事実上無視して、先に平沼会長がヒルに指摘したような背信行為に動き出したから訪米ということになったのです。小泉内閣のとき金正日が日本国民を拉致したことを認めた。国会が制裁可能な法律を作った。だが、政府は制裁を発動しなかったという恥ずべき状態が続いていた。これは政府に断固として国民を救出するという意思がなかったのだと言われても仕方がないと思いますが、先生、その辺はいかがお考えですか。

平沼会長 ご指摘のように、われわれは二つの制裁法を作ったのになかなかに発動しなかった。安倍さんになって発動したら金正日政権は困っています。制裁に効果が期待できないなどと言っている人がいますが、だったら、総聯は「制裁を解除して欲しい」など言ってくる必要はありませんよね。効果があるから「解除して欲しい」と言ってくるのです。圧力なくして拉致の解決などありません。

 福田首相は官房長官時代対話に関心を示していた人でした。現在、日本政府の拉致救出の態度は当時と違って変わっています。中朝関係も矛盾が拡大していると聞いています。判断を誤らないようにして頂きたいと思っています。

佐藤 安倍晋三さんが決めた路線は、拉致に進展がなければ、他の国が金正日政権を援助しようと日本は石油代金など一銭も出しませんし、人道支援もしません、というものです。もっと言えば、6者協議というのは、金正日政権の核の放棄と経済援助がバーターです。日本は拉致が進展しなければ、そのカネも出しませんということです。6者がまとまるかどうかの主導権を握っているのは、実は日本なのです。福田さんはこの路線を継続発展して頂ければいいのです。福田内閣になって制裁を延長しました。金正日政権は吃驚したと聞いています。日本国内の和田春樹氏などの親朝派も慌て戸惑っていますよね。

平沼会長 そうです。今の政府の拉致救出方針は正しいのです。金正日政権が何の動きもしていないのに、私は安易に対話などに応ずべきではなく圧力を掛け続けるべきだと思っています。国会はねじれていますが、われわれ議連は拉致解決で「安易なテロ国家指定解除をするな」という、衆参で国会決議をするために動いています。実現すると思います。

佐藤 ご案内のように、日本とアメリカは講和条約発効以来、半世紀に亘って同盟関係を維持し、相互に利益を得てきました。ここに来てテロ支援国家指定解除問題で、米国の側からすれば、日本をとるか、金正日をとるか、ということです。日本をとるというのであれば、拉致解決に協力すべきです。日本からすれば主権の侵害、自国民の人権蹂躙解決に同盟国が協力しなければ、同盟国アメリカとの関係を再検討ということになる、極めて深刻な問題です。国会での決議は国民から支持されるのではないでしょうか。

平沼会長 アメリカ側には日米同盟を守らなければならないという姿勢は感じましたね。

佐藤 持論ですが、日米の同盟強化とは日本がやるべきことをやることが大前提です。拉致の救出には、日本が独自制裁をやってから他国に協力をお願いすべきです。自分は何もしないで米国(外国)に頼むなどということは一人前の人間のやることではないでしょう。

平沼会長 われわれがワシントンにいるとき福田さんが来て、首脳会談がおこなわれましたが、共同記者会見で福田さんが拉致に言及しなかったので、家族会のお二人は不満を持たれた。後になって聞くと色々事情はあったようですが、テロ支援国家指定解除問題は、福田さんとしては言うべきことでしょうね。

佐藤 後になって私も関係者から首脳会談の経緯を聞きましたが、共同記者会見の時点では、福田さんは拉致などについて発言する機会がなく、本格的に論議になったのは記者会見の後であったということです。それで誤解が生まれたようでしたね。   

 ただ、報道された増元氏の発言を見て、批判は自由ですが、発言の場所とタイミングを間違えたと思いました。首相と被害者家族が、テロ国家指定解除問題で別々にワシントンを訪問、被害者家族がアメリカの首都ワシントで自国の首相の言動を批判するということは、福田さんに対する期待が大きかったからだとは思いますが、それでも如何なものかと思いました。家族と首相の間に不協和音が存在しているということを世界に向けて発信したのですから、喜んだのは金正日ではないでしょうか。

 いま一つ、金正日が拉致を認めた頃と比較すると、国民の被害者家族を見る目はクールになっています。国民の支持なくして拉致救出は困難です。被害者だから思ったことをいつでも、どこでも、何を発言しても許されるという時代ではもうない。逆に謙虚さがより必要なときではないでしょうか。

平沼会長 私は家族会の皆さんより一日早く日本に帰ってきて、テレビを観ながら佐藤会長と同じ印象を受けました。ワシントンでは家族会と似たことを感じましたが、帰国の記者会見では全く触れませんでした。

佐藤 ブッシュ政権の対北朝鮮政策は、圧力から融和政策へ転換がなされたわけですが、そこからわれわれはどんな教訓を引き出すかということです。国家利益の衝突というのが大袈裟なら、政権の利益の衝突が生じたとき、相手政権に対してどんな働きかけをして、こちらの利益を実現するかという新しい局面に直面したことです。

 東京の米大使館は上述のようにすぐわれわれに接触して来ました。ワシントンの日本大使館は、米議会などにどんな工作をしたのでしょうか。

平沼会長 今回の訪米を通じ、議員同士の交流の必要性を痛感しました。日本はこの方面で、カネを使っていませんよね。大使館の担当スタッフはたった4名です。大幅に改善が必要です。

佐藤 韓国の友人は私に次のことを助言しています。「第二次世界大戦後の韓国の安保は米軍を韓国に駐留させることでした。しかし、米軍は、引き上げたくて仕方がない。それをさせないために、韓国はワシントンでロビー活動を続けなければならなかった。1965年の韓国軍のベトナム派兵は、米軍を韓国に留めるためのロビー活動の一環だったのだ。日本はそんな経験を必要としなかったことが米下院での『従軍慰安婦問題』の決議であり、テロ支援国家指定解除問題となって現れたのだと思います」と言っていました。テロ支援国家指定解除に対する日本の動きは、「泥縄」を絵に描いたようなものではないでしょうか。

平沼会長 情勢の変化に対する外交をどうするか、根本的に考えなければなりませんね。

佐藤 有難う御座いました。

 (以上の対談は12月7日チャンネル桜で放映した対談を基に整理・補筆したものです)

 

参考資料 11月16日付「全国協議会にユース」。11月20日付コラム「非核化を裏切る―危険なブッシュ政権~ヒル国務次官補発言を読む~

訪米団

議連 会長平沼赳夫(無所属)、会長代行中井洽(民主党)、幹事長西村真悟(無所属)、事務局長古谷圭司(自民党)、事務局長代理松原仁(民主党)、幹事馬渡龍治(自民党)、幹事鷲尾英一郎(自民党)、他に西村真悟議員秘書・高野雅樹同行。

 

家族会

家族会副代表飯塚繁雄、事務局長増元照明

 

救う会

副会長西岡力、副会長島田洋一

 

▼平沼会長のワシントン滞在は07年11月14日~16日まで。

更新日:2022年6月24日