中国・北朝鮮、戦争か

佐藤勝巳

(2013.6.5)

 

 今年2月まで「友好国」を標榜していた中国と北朝鮮が、戦争の気配を漂わせはじめてきた。それにしても、すごい変わりようである。もっとも中国は、1969年3月ソ連と珍宝島の支配をめぐって領土局地戦を展開したり、1979年2月には、中国が支援していたカンボジアポル・ポト政権を倒したベトナムを「懲罰」と称して10万余の軍で攻め込んだりもしている。中国が北朝鮮と交戦しても特に珍しいことではない。

 

 本ネットは昨年から、朝中関係が現在最大の危機と警鐘を鳴らし続けて来たが、事態は予測通りすすんでいるようだ。その根拠は、韓国・東亜日報(5月30日付)が「中国が北朝鮮の核危機に備えて軍と民間が共同で対処する非常対策を作成し、初の合同軍事訓練を「山東省青島の海軍飛行場」と香港で発行されている「明報」の記事を報じていたからである。

 

 周知のように、日本は北の核ミサイル開発に対して7年前から経済制裁を科して来た。だが、さほど効果はなかった。その理由は、中国が陰に陽に北を支えてきたからだ。ところが、2月の北の核実験以後、中国の北朝鮮政策が180度転換し金融制裁を科したのである。問題は、なぜ制裁に変わったのかだ。

 

 中国安保の危機

 日本の主要メディアは口をつぐんで語っていないが、最大のポイントは、中国の安全保障が脅かされはじめたことにある。このまま北の核保有を許してしまえば、韓国、日本、台湾は早いか遅いかの違いはあるが、「相互抑止」のため核を持つ可能性が高まった。この3国は、中東地域とは違って政府が意思決定をすれば、容易に核を手にすることが出来る共通の技術力を持っている。特に、日本のミサイル技術は優れている。北京から見れば、ロシア、北朝鮮、韓国、日本、台湾、パキスタン、インドの核に包囲されることになる。

 

 現実に今、安倍晋三首相による中国に対する経済的包囲網が進んでいる。同じことが核で実現する可能性が高くなってきている。別な言い方をすれば、核不拡散体制の崩壊、米中2超大国の覇権の動揺を意味する。世界の枠組みがかわるのだ。

 

 今回の中国の方針転換は、この最悪の事態を阻止するため北朝鮮に核を廃棄させようとしている、と私は見ている。北京が北の核で直接攻撃される危険性もあると以前にも書いたように、中国は北の核保有で安全保障上重大な危機に直面しているのである。

 

 米中裏合意

 

 前述した東亜日報の報道の少し前、韓国・中央日報(5月20日付)が、中国共産党中央党校の機関紙「学習時報」の元副編集長のトウ聿文氏(45)の衝撃的な発言を報じている。ちなみにトウ氏は、北朝鮮が核実験した2月末、「北朝鮮を見放せ」という意味の発言をして職を解かれている。トウ氏は、中央日報のインタビューで、最近中国が国連の船舶の臨検など忠実に制裁決議を実施しているのは「3度目の核実験で中国が堪忍袋の限界をこえたから」であり、「北朝鮮が核をエサに米国と対話し、米国の懐に入ろうとしても、米国が拒否することで合意した」と米中間で裏約束があることを暴露したことである。正直驚いた。

 

 北包囲網の完成

 

 この裏約束が事実なら、金正恩体制の退路がなくなったことになる。本ネットも北朝鮮のやり方は「北京が駄目ならワシントンがあるさ」式の行動様式を指摘したばかりである(5月24日付)さすが中国だと感心すると同時に、飯島勲参与をピョンヤンに派遣した安倍晋三首相は何を考えているのか、と咄嗟に不安がよぎった。

 

 だが、「日米韓、北核放棄へ連携防衛相一致 挑発抑止に協力」と読売新聞が一面トップで報道(6月1日付)したのを見て胸をなでおろした。この共同声明で、日朝の変な取引はなくなった。言葉を変えて言うなら、中国、米国、韓国、日本の4者の金正恩体制に「非核化」を迫る意思統一が出来上がったのである。

 

 3国の防衛相の共同声明は、シンガポールで開催されているアジア安全保障会議に合わせて開かれたものである。韓国は、日本閣僚の靖国参拝など、日韓関係悪化を理由に「韓国には慎重論があったが、米国側の働き掛けで実現し」(前掲)3国防衛大臣の共同声明は初めてであるという。このアメリカの動きを見ていると、トウ氏の「先に中国が北に圧力を加え、北が米国に逃げ込んでも米国は相手にしない米中の裏約束がある」という話が真実味を持ってくる。核拡散では米中は共通の利害で結ばれているのだが、アジア情勢は北の核保有で、米中合作という構図が出来たのだ。

 

 中朝の和解ならず

 つまり、金正恩体制は未曽有の国際包囲網の中で身動きできなくなった5月下旬、軍の実質トップ崔龍海人民軍総政治局長・政治局常務委員を金正恩第1書記の親書を携えて、特使として訪中させた。詳しいことは省くが、中国にひどく冷遇された。制裁緩和などの報道はないところをみると、北に成果はなかったようだ。

 

 金正恩打倒

 では、金正恩は世界から求められている核を放棄するだろうか。北が核を放棄するという見方をするものを寡聞にして知らない。中国も北の核保有を認めるはずがない。となれば、論理的には戦争かクーデターで金正恩体制を倒す以外にない。冒頭に紹介した中国側の軍事訓練は、事態の緊張を示唆しているものだ。中央日報のインタビューに答えたトウ氏は、金正恩が訪中しない理由を、中国が求めている核の放棄を受け入れないから中国が金正恩を招請しないのだ、と明快に答えている。また、中朝の相互不信は、日中より根深いとも言っている。最近中国は「6者協議」を言わなくなった。朝中の関係は本質的に前近代の暴力解決なのだ。

 

 弟2次世界大戦後、北朝鮮の権力を「天文学的資金をつぎ込み支えてきた」(前掲トウ氏発言)中国に、見放された独裁金王朝が、いよいよ終焉に近づきつつある。韓半島と東アジアにとって明るい兆しが見えて来た。拉致の解決はそのあとである。順序を間違ってはならない。

更新日:2022年6月24日